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83.迷宮と彷徨える魂

「……ノア、そこにいる?」


「ああ」


 閉じ込められてしばらく経った。ノアが普段使う召喚魔法と似た力で、急に暗い部屋に飛ばされたので、ここがどこだか見当もつかない。

 暗闇の中、それほど遠くないところから、ノアの声が聞こえる。姿は……暗すぎて見えない。


「この手錠って……」


「ああ。魔法封じだな」


 ここに閉じ込められる前、両手に枷をかけられた。やっぱり……なんか一気にやる気を吸い取られるような、そんな変な気分で力が出ない。


「ここは……牢屋か何かなのかな?」


「聖女教育に失敗した者たちが閉じ込められる場所があると聞いたことがある。……追い返されるだけかと思ってたけど、正直ラッキーだな」 


「え? この状況、何がラッキー?」


「どうも、ここにルドウェアの真相があるらしい。どうせあいつらにはいろいろ頼んでも相手にされないだろうとわかってたから、これを狙ってた節もある」


「……でもさ、二人とも魔法を封じられちゃってたら、何もできないよね。ノアは何か作戦があるってこと?」


「ない」


「え?」


「建物自体が魔力を抑える造りだったらどうにかなったけど、まさかここまでがっちがちの魔法封じを施されると思ってなかった。あいつら、俺達を本格的に殺す気だな」


「なんかこう……滅びの呪文とかで街ごとバーン! みたいのないの?」


「何の話をしてるんだおまえは」


「……うん。テレビを見すぎた、わたし」


 どうしたものかわからず、わたしはその場に座り込んだ。


「よし、だいぶ目も慣れてきたし、両手以外は自由だから、歩き回ってみるか。魔法が使えないのは不便だけど」


「わたしも……行くの?」


「別にここにいても構わないけど」


 それも心細いような……そこで、あることを思い出した。


「あっ!……ちょっと、わたしの髪の毛ほどいてくれない?」


「突然何?」


「いいから」


 ノアが近づいてきたのが気配でわかった。


「いやっ、どこ触ってるのよ」


「お前の体になんか興味ないわ! 暗くてよく見えないんだから、しょうがないだろ」


「あはははっ! そこじゃないってば」


 ひと悶着ありつつも、わたしの髪はさらりとほどける。そこから、短剣が出てきた。シオウが万が一にもと用意してくれたものだ。


「こんな秘策があるなら最初から言えって。……この短剣、微妙に魔力が込められてるな。後はこれがあれば……」


 ノアがごそごそと取り出したのは、よく見るとわたしのあげたお守り! 


「そんなに肌身離さず持ってるとは、ノアもかわいいとこあるんだね」


「……あ~、今の余計な一言で、助ける気かんっぜんに失せた」


「はいはい、ごめんなさい! ふざけてないで早くこれ、外してよ」


 ノアが短剣の魔力をお守りで強め、手錠の鎖を突き刺すと、ガキン!と音がして外れた。同じようにして、わたしもノアの手錠を外す。やっと自由になると、ノアが明かりとなる光の魔法を発動した。

 目に映るのは、石造りでいくつも道が枝分かれしている迷宮……? 奥の方にさらに続いているようだけど、闇が深くてどうなっているのかはわからない。


「ここは……かなり入り組んでいそうだけど?」


「……小さい頃に聞いた程度から、まさか本当にあるとは思わなかった」


「あ、あそこに誰かいる!」


 少し奥まったところに、しくしく泣いている女の人を発見した。


「あの、大丈夫ですか?」


 肩に触れようとした手が、すっと空を切る。わたしが伸ばした手の先……そこには、誰もいない。


「いやあああああああ!!!!! 出たーーーーー!!!」


「おい、落ち着けって」


「分かってる、分かってるよ! でも、苦手なものは苦手なんだからしょうがないでしょ」


 閉じ込められた女の人達なんだから、そういうことだよね? まだまだいるよね!?


「あーもう、話が進まない」


 次の瞬間、ノアの腕の中にいるのがわかった。そのままぎゅっと包まれていると、ノアの心臓の音が聞こえてくる。……だんだん、落ち着いてきた。


「う……ありがとう。もう、大丈夫」


 これ以上抱きしめられていると、別の意味で心臓に悪い。わたしは半ば強引にノアの体を引き剥がした。ノアはため息を一つ吐くと、静かに話し始めた。


「怖がるなとは言わない。でも、ここに閉じ込められている魂の事情は考えてやっても、いいと思う」


「……事情」


「ルドウェアの聖女召喚の儀は、昔からけっこうな頻度で行われていたらしい。ユーナと違って、体ごと違う世界から連れてくる技だ。ルドウェアが秘密にしている歴史では、相当数の失敗があったということがわかる」


「失敗……」


「単純に召喚中の事故もある。それ以外にも厳しい聖女教育に耐えられなかった者、また教育をしても能力が目覚めなかった者もいたという」


 前にも、ノアからそんな話を聞いたような。言葉も文化もわからない世界で、この世界に連れて来られたと思うと、ぞっとする。


「聖女の『失敗作』は、ここに生きたまま閉じ込められて、二度と出されることはなかったみたいだ。……無念のまま命を失った者達がここを未だに彷徨っている。どうにか、解放してやれればいいんだけど」


 ノアの話を聞いていると、ココルのきれいな海を思い出した。ルーチェ様達と一緒に行った魂送りの儀式。命が亡くなることは悲しい事だけど、あそこで送られた魂は再び生まれ変わることができる。


 ……ここに閉じ込められたみんなも、救ってあげたい。


 わたしは相変わらず怖くて震えていたけど、何とかしたいと思うと、体に力がみなぎるのがわかった。

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