82.ルドウェアの事情とノアの怒り
すぐにでも捕まってしまうのかと怯えたものの、わたし達はあっさりと解放された。この後、偉い人達で集まって話し合い、決定を伝えるとのことだった。
その間、ノアに案内してもらって、ルドウェアのいろいろな場所を見学することになった。
「……ねえ、悠長に見学なんてしてて大丈夫? 捕まったりしちゃうんじゃないの?」
「たぶん大丈夫だろ。俺は嫌われてはいるけど、王都の魔導士の地位に就いたことで、ルドウェアにもけっこうな恩恵がもたらされてるし」
「でも、明らかに嫌な感じだったんだけど……」
「あいつら、人を見下すことしか考えてないのは、いつものことだから」
そんな話をしていると、豪華な造りの建物にやってきた。無人の様だけど、綺麗に手入れされている。
「ここは、召喚した聖女に教育を施す建物だ。……入ってみる?」
「うん!」
エントランスには、石像がずらりとならんでいた。全部若い女性なので、『聖女』をモデルとしているのだろうか? いくつかの部屋には、聖女のための勉強道具や、書物などが置かれている。たくさんの『聖女』がここで生まれたと思うと、感慨深い。
「また、いつかここで聖女様が勉強するのかな?」
「……どーだか。俺はここが使われているのを一度も見たことはない」
聖女の教育施設から出た。さっきから気になっていたけど、とても綺麗で豪華な街並みだけれど、人通りはほとんどない。王都エヴァリーナやサンルードなどに感じる、賑わいが全く感じられない。それが、少し不気味にも感じた。
少し歩くと、これまた立派な建物。ここはルドウェアの民が使える図書館だと教えてもらった。さすがに、幾人かは利用している人を見かけたけれど、ここもまたひっそりと静まり返っていた。
「ここには……ずいぶんと通ったな。知識を得るのが楽しくて、ほとんどの本は読み漁った」
ノアが小さい頃から過ごした場所……無表情で見つめるノアは、どんなことを考えているんだろう?
「あそこにいた人間たちの中に、俺の父親がいただろ? あいつは今もルドウェアの中心にいる。……ここは完全に個人の結果主義の場所だから、父親が俺のしでかしたことで地位を脅かされることはない。ただ、俺の責任は、いつまでも自分の身にのしかかる」
「……何でノアがここを出たのか、聞いてもいい?」
「ルドウェアの全てを隠す姿勢が許せなかった。ここで秘法とされていることは、外の世界の人間も知るべきだと思っていたんだ」
「そういえば、若くして魔導士の指導者になった、って前にロイドが言ってたよね」
「まだここに住んでいるときから、王都にはよく通っていた。……ここの墓場みたいな辛気臭さも嫌いだったし、王都に行けば俺の知識や技術を必要としている者がたくさんいたからな」
ノアの深い紫色の瞳が揺れている。
「……今となっては、自分が正しかったのかわからないけどな」
そこで、わたし達は再び呼び出された。
「話し合いの結果、『光芒の杖』を直すことはできないと決まった。そして、二度と勝手に持ち出されぬよう封印することとする」
「そんな! 今、魔王が復活している状況では、杖の力が大切なんです」
その後、ノアが必死に説得するものの、その言葉に耳を傾ける者は誰一人いなかった。
「ノアよ、お前は生まれついて魔力も高く、ルドウェアの中でもその力は抜きんでていた。それが、このような愚行をおかすとは……しかも、そこまでして行った結果、召喚できたのが『失敗作』とはな」
「しっぱい……?」
「……そこの女が、勝手に持ち出された技術で召喚された聖女だとか。やはり、中途半端な知識では中途半端な人間しか作り上げることはできないのだと我々もよくわかった」
「……てめぇ」
「本来聖女とはそこに存在するだけで国全体を守る大いなる力をもつものなのだ」
「まがい物の聖女に力は貸せない。もし魔王退治に失敗して、世界が危機にさらされれば、その者の代わりに正式な聖女を召喚してやろう」
その場の人たちが口々に言う。……ちょっと腹立たしいけど、わたしが本で読んだ聖女の知識でも、確かにとてつもない力を持っていたから……この人たちが言うのも間違いじゃないと思う。
……思うんだけど、隣のノアがまずい。今にも殴り掛かりそうな怒りのオーラが伝わってくる。まあまあ、とこっそりなだめているわたしの様子も、まるで視界に入っていないようだ。
「よーく、わかりました」
次の瞬間、不自然なほどの笑顔で、明るく答えるノア。
「皆さん、いつまでもそうやって、古いしきたりでしか自分達の存在価値を見出せない可哀想な人間なんですね。知ってるんですよ、俺。秘密裏に行っていた、ここ最近の聖女召喚の儀式はすべて失敗続きで、今回だって俺達に後れをとったんですもんね。もう、ルドウェアに未来がないこと、よーく理解できました」
「……なんという暴言!!」
「ユーナ、付き合わせて悪かったな、戻ろうか」
戸惑っているわたしの手を強引につかんだノアは、その場から歩き出そうとした。
「待ちなさい」
ノアのお父様の声は、ぞっとするほど冷たい。
「……誰が、そのまま帰っていいと言った?」
わたしとノアは、そのまま捕まり、暗い部屋に押し込められることとなった。




