81.ルドウェア聖領
次の日になるとすぐに、アレクスはオーク村へ帰ることになっていた。わたしはアレクスを見送るために、城の門に集まっていた。
「いつ、どこに魔王が現れるかわからない今の状況だ、俺はノースデールを守ろうと思う。ユーナ、また会おう」
「うん、アレクス、気を付けてね」
アレクスがわたしの頭に手をかけ、ポンポンする。
「昨日も話したけど……ユーナを守りたくて一度は離れたんだ。でも、また会えた時……心に灯がともった気がした。どうか……これからも自分の身を大切に行動してほしい」
「ありがとう。アレクスも、無事でいてね」
わたしはアレクスの姿が見えなくなるまで見送った。
・・・・・・
「ユーナ、俺の実家に挨拶にいくぞ」
「……はい?」
アレクスを見送った後、廊下を歩いていると、ノアに突然声をかけられた。どういうことか意味が分からず、混乱する。
「とりあえず説明は俺の屋敷で。はい、召喚魔法」
「わわっ!!」
全く理解が追い付かないまま、一瞬でノアの屋敷に移動した。
部屋には、ノアがわたしを元の世界に戻した時に使っていた杖が立てかけられている。それをノアが手に取った。
「これ、壊れてる」
「え? そうなの、大変だね」
「勝手に持ち出した上に、お前を元の世界に戻すために最大出力で使ったら、使い物にならなくなった」
「……へぇー」
「ちなみに、この杖も伝説の武器の一つ。魔王を倒すのに使いたいんだけど」
「……」
それって、わたしのせいじゃないよね。何で、こんな話を聞かされているのかな。
「ユウナ様、お久しぶりでございます」
「あ、イエンさん! お邪魔してます」
「本当に、主人が申し訳ありません……ユウナ様のためにルドウェアの秘宝『光芒の杖』を勝手に使ったと聞いた時は驚きましたが、それもこれも愛の成せる技。お許しください」
「あ、はーい。ソウデスネ」
もはやノアもつっこまない。
「これ、直すとしたらルドウェアに行ってあいつらにお願いしないといけないんだよな。というわけで、一緒に来て」
なんたる横暴。無言でいることが了承であると受け取られたのか、もしもここで反論したら受け入れられたのかはわからないが、勝手にわたしのルドウェア聖領行きが決定した。
「……というわけで、ルドウェアに行ってきます」
お城に戻ると、レイヴァル様達数人に、ルドウェア行きの許可をもらうため、集まってもらった。
「ルドウェアですか……私が王の地位に着いた時、一度使者に会ったくらいで土地についてはよく知らないのですが……ノアが一緒なら大丈夫でしょう」
「聖女様に同行したいのですが……恐らく私では許されないでしょう」
シオウが言うように、確かルドウェアという場所は、外の人間を寄せ付けない場所だったはず。わたしが行けるかも疑問だけど……ノアが連れていくといえば、大丈夫なのだろうか。
「まあ、ルドウェアの近くまでは魔法で移動することにして、ちゃちゃっと用事済ませてくるから。シオウ、あんまり心配すんな」
ノアの言葉に、シオウは無言で頭を下げた。
「……あれ、そういえば、銀ちゃんは昨日から見かけないけどどこいったんだろう?」
「ああ、彼なら、喜んで『ちょっと国の様子を見てくる』と城を飛び出していきましたよ」
「そ、そうですか。元気ならいいです……」
その後、旅支度をすると思いきや、やたらと煌びやかな格好をさせられた。……そして、ノアも正装している。いろいろ聞きたかったけど、そのまますぐに魔法でルドウェアの近くと言われる地点まで移動した。
「……ん? 街なんて見当たらないけど?」
見渡す限り荒野が広がっているのだけど、何これ……?
「ほら、あそこ」
ノアが指さすのは、空。そこを見上げると……。
「えええええ!! 空中都市!! ファンタジーの極み!!!」
この世界ではいろいろな珍しいものを見たし、たいていのことでは驚かないようになったと思っていたけど、空に浮かぶ大きな都市を間近に見ると、迫力がすごい。一体どんな原理で浮いているのだろう。
「そういえば、イエンさんもルドウェアの人だったんだよね? 一緒に来ればよかったのに」
「二人水入らずで行ってこいだと」
そこに、天からお迎えの白い鳥が降り立った。……近づくと、でかっ! ロック鳥ほどではないけど、二人なら余裕で乗れる大きさだった。
わたし達が乗り込むと、白い鳥がぐんぐん高度を上げる。ルドウェアに近付くと、街の全貌が見えた。白を基調とした四角い建物が立ち並び、至る所に色とりどりの花が咲き乱れている。その様子は、まるで楽園のよう。
中心部分には円形の広場があり、白い鳥はそこにふわりと降り立った。
「さあ、会いに行くぞ」
ノアは気合を入れるかのように言葉にすると、一番大きな建物へ向かって進み始めた。
「ユーナ……辛い事を言われるかもしれない……ごめん。俺が全部引き受けるから」
「う、うん?」
ノアが突然呟くように話してきたことの真意がわからず、わたしは曖昧に返事をした。
わたしとノアは、大きなホールのような場所で、たくさんの人たちに囲まれている。白い法衣のようなものを身にまとった、とても身分の高そうな人々が黙ってこちらを見ている。
とくにそちらから話しかけられることはないようだけど、視線が突き刺さる。ひそひそと話している声が耳に届くと、どうやらバカにされているようだ。
「ルドウェアの皆様、お父様……お久しぶりです」
ノアが頭を下げると、一人の男性が前に進み出た。髪の色や面影からして……ノアのお父様ということだろうか?
「今更、何をしに戻った?」
さらに深く頭を下げるノア。
「どのようなご批判も覚悟です。この世界を救うために……ルドウェアの力を貸していただきたい!」
しばらくの間の後、その場にいた皆がクスクスと笑い声をもらし始める。
「ノア、お前はルドウェアの秘法を許可なく下界で広めたばかりか、光芒の杖まで持ち出した犯罪人である。それがのこのこと帰って来て何を言い出すかと思えば、力を貸せというのか!」
ええ!? 杖のことは言ってたけど、ノアってもしかしてルドウェアとものすごい確執があるんじゃ……
ちょっと……この状況、大丈夫なの……?




