80.ユーナ、ちょっと怒る。
みんなと、たくさん話したいことがあった。それなのに、レイヴァル様の挨拶が終わり、バルコニーから戻った瞬間、メイドさん達に囲まれた。
「聖女様! よくぞお戻りになられました!」
「我々、お帰りを今か今かとお待ちしておりました」
「それでは、今夜の晩さん会に向けて、準備いたしましょう」
「さあ、全力で仕上げましょう!!」
返答する間も与えられないまま、やる気満々のメイドさん達に半ば強引に連れられ、わたしは支度へと向かった。
晩さん会は盛大に行われた。さすが一国の王の誕生パーティー。大勢の参加者に話しかけられ、めまぐるしく挨拶をするので、一向に落ち着かない。
意外だったのは銀ちゃん。わたしを連れて来た聖獣ということで注目の的となっている。人間の姿にもなれるとわかると、多くの人が集まって興味津々に話しかけられていた。これまではひどい目にあっていたとルーチェ様が教えてくれたけど、今の銀ちゃんは楽しそうに応対している気がするから、一緒に来て、良かったと思う。
銀ちゃんに注目して周りをしっかり見ていなかったわたしは、そばにいた人にぶつかってよろめいた。
「あっ……」
転びそうになったところで、支えてくれる手。
「シオウ……ありがとう」
「いえ」
久しぶりに話したけど、まるでいつもと変わらないかのようなシオウ。
「……シオウも、わたしを元の世界に戻すこと知ってたんだよね?」
「はい」
「なんで戻ってきた、って思ってるでしょ」
「そのようなことは……」
ふっと目をそらされるので、すこし悲しくなる。
「ちゃんと、みんなと話したいな……」
晩さん会も終わりになろうかという時、シオウに別室へ呼び出された。そこにはレイヴァル様、アレクス、ノアが集まっている。独り言のようにつぶやいたさっきの言葉は、シオウに届いていたのだろうか……わたしの希望を聞いてくれたんだ。
「こんな時に集まってもらってごめんなさい。でも、落ち着いて話す時間が欲しかったから……嬉しい」
「ユーナ、今回の件は本当にすまなかった」
開口一番に頭を下げるアレクス。
「……わたしはあの時、元の世界に戻された理由があるんだよね?」
「俺が、みんなに頼んだんだ。ユーナを安全な場所に戻してやりたくて」
「……それで、わたしの気持ちも完全に無視して元の世界に戻してくれた、というわけ」
「う……」
「聖女様、私も賛成しましたので、アレクス様だけの判断ではありません」
アレクスに続けて、シオウも話し出す。わたしが更に話そうとした時……慌てた様子で部屋に入って来たのは……ロイド。
「また、ユーナ様を元の世界に戻す計画ですか!!?」
そういえば、ロイドはあの時も、何も知らなかったようで慌てていたっけ。
「ロイド、違うの。わたしがみんなとちゃんと話したかっただけ」
「本当、ですか?」
「うん。わたしはもう元の世界に戻る気はないから、安心して」
「ユーナ様がそう言うなら……ただ、俺もここにいて、一緒に話を聞いてもいいですか?」
わたしはうなずいて、話を続けた。
「話を戻すのだけど……わたしを元の世界に戻すとき、わたしの力なんて必要ないという判断だったんじゃないの?」
「それは、絶対にありえません」
レイヴァル様がまっすぐに見つめてくる。
「こんな事を言っても信じてもらえないかもしれませんが、ここにいる者全員、ユーナさまが大切だからこそ、なんとか生き延びてほしいと思って真剣に考えた結果だったのです」
「それなら……良かったです。わたし、必要ないと思われていたんじゃないかと不安で……」
「ユーナ、何度も言うが、本当にすまない。それでも、戻ってきてくれたユーナの気持ち、今度は絶対に大切にする。ユーナだけに全てを背負わせないから……」
「アレクス、そこまでわたしの事を心配してくれてありがとう」
「……そうは言っても、ここに戻ってきたってことは、必然的に魔王との戦いに強制参加ってことだけど、それも納得してるの?」
ここまでほとんど無言だったノアが口を開いた。わたしの決意がどれほどのものか、窺っていたのかもしれない。
「うん。わたしは逃げる気はないよ。……もちろん、死ぬ気もないけど」
そこで、ほっとしたようにロイドが語りかけてくる。
「ユーナ様の魂が元の世界に戻った時、同時に体も光ってその場から消えたんです。……あの時はどうしようかと思いましたよ……もう、どこにも行かないでくださいね」
「ロイドも、ありがとう。わたし、元の世界に戻った時、ここでの記憶を全て忘れていたんだ……でも、ロイドの言葉がわたしを導いてくれた。ロイドのおかげで、ここに戻って来れたんだ」
わたしは改めてみんなに向き直った。
「みんなにも……なんだか責めるような言い方をしちゃってごめんなさい。でも、説明もなしにあんな別れ方したら、誰だって素直に受け取れないと思うんだよね。これからは、どんなことでも、ちゃんと話してほしい」
無言で聞いているみんな。
「……正直悲しかったしちょっと腹も立ったよ。それでも、わたし、元の世界に戻ったことで……お母さんにお別れが言えた。ちゃんと、自分の考えでしっかりと選んで……この世界に戻ってこれた。……だから、そんな機会を作ってもらえたこと、ありがとうございます」
わたしは深く、お辞儀をした。
「そして、この世界で生きることを決めちゃって他に行き場所がないので……いっぱい迷惑をかけると思いますが、今後ともよろしくお願いします!」




