79.神光
レイヴァル王視点です。
いつの間にか、冬が終わっていた。国内では小規模な魔物被害は続いていたものの、初めての王都襲撃事件以来、黒竜は現れていない。ただ、それがいつまで続くのか……皆、不安を感じながら日々を過ごしている。
……聖女であるユーナさまがこの世界にいないことは、城で働く者以外には未だ知らされていない。アレクスと約束した通り、大臣達にはなんとか説明し理解を求めたが、全員が納得したと言える状況ではない。特に、ロイドの様子はあの日から変わった。表立った反対はないが、不信の目で見られている……と感じる。
そんな中、なんとか、今日の日を迎えた。王である……私の誕生祭だ。正直何の感慨も湧かないが、国民の前で宣言をする大事な機会だ。城のバルコニーから見下ろすと、広場にはたくさんの人が集まっていた。私が顔を出すと、大きな歓声が上がる。
始めに、簡単に挨拶をする。その後、遅れて隣に立ったのは……アレクス。アレクスは一度は領地へ戻っていたものの、今回のために再び王都へやって来た。
「皆、聞いてくれ! このアレクス・フレアエイゲートは、レイヴァル・セント・フェアリア国王に忠誠を誓う!」
突然のアレクスの登場と宣言に、どよめきが起こる。
素直に喜ぶ声も聞こえてくるが、落胆の声も少なからず混じっている。私は、力の限り、大きな声で答えた。
「アレクス、そなたを私の第一の臣下と認めよう。これからも国のために尽くしてくれ。アレクスには、王家に伝わる炎の剣、レーヴァテインを授ける」
普通の人間が持てば炎に巻かれ、命を落とすこともあると言われる伝説の剣。私が手に取ると、ただの重く、冷たい剣だ。それも、そうか。私には魔法は効かない。……王でありながら、この剣を扱うこともできない。
アレクスがレーヴァテインを受け取ると、その瞬間大きな炎が生まれた。暴れる炎をものともせず、アレクスが鞘に納めた時には、皆から歓声が上がっていた。後は、アレクスが魔王退治の宣言をすれば終わり……
「お待ちください!」
思わぬ声がかかった。声の主は、チェスター大臣。
「失礼を承知で申し上げます。……炎の剣は歴代の王が手にした時こそ、真の力を発揮していたといいます。アレクス様が今手にした瞬間、それが誰なのかはっきりしました!」
その場は騒然とする。
「チェスター! 無礼にも程があるぞ」
ウォーレンが戒めるも、チェスター大臣は構わず続けた。
「どのような罰も受け入れましょう。ただ、王が中心となって聖女様を追放したとか! 本当に国のためを思っているからこそ、私はアレクス様に王座についていただきたいのです」
「何ということを…!!」
アレクスがどう答えていいのかためらっている。彼を慕い、真の王にと望む者は多いと聞いた。チェスターはそんな過激派ではないとも。きっと……アレクスの姿を見たここにいる多くの人々が、チェスターと同じような気持ちを抱いたに違いない。
「そういえば、聖女様のお姿が見えなくなったよな。王の仕業というのは本当なのか?」
「やはり、アレクス様にこの国を守ってもらうしかない!!」
不安そうに様子を見守っていた民の間から、次第にアレクスを担ぎ上げる声が大きくなる。足がすくむ。……責任をとるなどと言いながら、皆を安心させる言葉が何も出てこない。
ウォーレンが必死に皆を抑えているが、ついにはその場がアレクスを王にと望む声でいっぱいになった。私は……なんて無力なのだろうか。
こんな時……あの人に……会えれば。
ずっと考えないようにしていたその笑顔を思い出し、思わず自嘲する。自分から突き放しておいて、なんてわがままな思いを抱いているのだろう。
重く立ち込めた雲。なす術もなく、わたしが天を仰ぐと……
雲を割るように、一筋の光が差し込んだ。
光の中から現れたのは、銀色の獣。そして。……ユーナさま。
皆がその神々しい光景に釘付けとなり、その場は一瞬にして静まり返った。
「うわー! ほんとにお城に着いた! 久しぶりだな」
あまりにも明るい声。そのまま、ユーナさまは私の横へ降り立ち……
「レイヴァル様!! ……無事で良かったです。あの、戻ってきちゃいました」
「ユーナ……さま」
突然のことに、どう答えていいのかわからない。私がためらっていると、ユーナさまは周りの様子にやっと気づいた様子だった。
「あれっ? なんだかたくさん人が集まってる……お祭りか何かですか?」
「……レイヴァル王の誕生祭です」
「ええっ、そんな日に戻ってこれて、嬉しい。レイヴァル様、お誕生日おめでとうございます!」
気の抜けるほど元気な笑顔を向けられる。
「みなさーん、これからもレイヴァル様とセント=フェアリア王国のためにがんばらせてください! よろしくお願いしますねー!!」
皆に向かってぶんぶんと手を振るユーナさま。
「……やっぱり、ユーナさまには勝てませんね」
一瞬にしてその場の空気が変わった。相変わらず、私は一人では何もできない弱い人間だ。けれど……
「皆を不安にさせるような頼りない王ですまない。だが、私には多くの仲間がいる。国を思ってくれる臣下が、国民の皆がいる。私が、必ずセント=フェアリアを守って見せると誓おう。皆の力で、支えてくれ」
今までの騒動が嘘のように、その場は静まり返っている。……そして、全員が私に向けて頭を下げた。
「レイヴァル様、勝手に戻ってきてしまったんですけど……わたしもここにいてもいいですか?」
急に不安になったのか、ユーナさまは少し泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。正直、私もこれ以上何か話したら涙がこぼれてしまいそうなのだけれど……
「ごめんなさい……やっぱり私にはユーナさまが必要です。どうか、いつまでもそばにいてほしい……お帰りなさい」




