78.男たちの決断~真相~
時間は少し遡る。
10年以上も辺境の地に離れていたアレクスが登城したことで、王都中が大きな騒ぎとなっていた。いろいろな噂が飛び交い、喜ぶ者もいる一方、不安を漏らす声もちらほらと聞こえる。
城の会議室では、アレクスが集めた主要メンバーで話し合いが持たれていた。会議室には、アレクスの希望した通り、レイヴァル王、ノア、シオウが集まっている。
「皆、集まってもらってすまない」
アレクスが切り出した。
「それで……話というのは?」
「ユーナを、元の世界に戻してやりたい」
その場にいた皆が一斉にアレクスを驚いた様子で見る。
「ユーナさまは……聖女として、魔王を討伐する力を持つ人間なのでは?」
恐る恐るたずねるレイヴァル王。
「ああ。正直こんな提案、反対意見が出ることも当然だと思っている。でも……俺はユーナが誘拐された時、何もできなかった。これからも魔王との戦いに巻き込まれて……ユーナが苦しんでいるのを……見ていられないんだ」
「それで……復活した魔王についてはどうすんだよ?」
ノアが聞く。
「俺は、皆の前でレイヴァル様に臣下として忠誠を誓おうと思う。派閥争いのようなことで、国内で仲間割れしている場合じゃないと思うんだ。そして……レイヴァル様には、王家に伝わる炎の剣を、俺に譲ってほしい。その剣があれば、魔王を退治することも不可能ではないかもしれない」
「あの剣は、過去に魔王を退治できたとされているからな。アレクスが戦いに出るというなら、賛同する者も多いかもしれない……で、シオウはユーナの従者として、どう思う?」
それまでずっと静かに控えていたシオウも、ノアに問われて話し始める。
「失礼ながら意見させてもらいますが、私も先日伝説の武器を手に入れていますので、聖女様のお力をお借りせずとも、魔王退治できる可能性は十分あるかと」
「はっ!!???」
3人は驚いてシオウを2度見した。
「アレクス様と協力すれば、まあ、何とかなるでしょう。おそらく」
「シオウ……そんな大事なことどうして黙っていた?」
「聖女様には誰かに話せと言われませんので、特に誰にも話さなかったまでです」
「お前……」
しれっと言ってのけたシオウに、みんなの視線が刺さるも、本人は全く気にしている様子はない。
「それに……アレクス様のご意見には完全同意します。聖女様は自分の限界を超えて首を突っ込んでいく性格のため、守り切れないことも多々あります。何なら、一人で魔王退治に乗り込むなどと言いかねません」
その場の全員が深く頷く。一人の人間の行動について、ここまで皆が全く同じイメージを共有できているのも珍しい。
「では、魔王退治については絶望的ではないと。ただ、ユーナさまを元の世界に戻すというのなら、ノアに召喚魔法を使ってもらわないといけませんね。また、多くの魔導士達を呼び寄せる必要もある、と。……ノアはどう思います?」
「正直言いますと……俺はもともと、この召喚に反対の立場だったので、アレクスの意見に異議はありません。国が許すかは別として……。それで、もしもこの話が決まったとしたら、今回の召喚魔法は俺一人でやります」
「一人で……そんなことは可能なのですか?」
「この計画をロイドに知られれば、確実に反対されると思います。あいつが聖女召喚の中心人物ですからね。そして……俺一人でもどうにかできる算段はあります」
「ノアがそう言うなら、魔法の件もクリアできる、ということですね」
「いよいよ現実的になってきたな。ただ……ユーナにはこの事は伝えない方がいいと思うんだが……」
「え、元からその気だけど。というか、あいつに教える選択肢はなかった」
「同意します。元の世界に戻すと事前に言ったら、聖女様は全力拒否でしょうね」
「ああ、まあ……その通りだな。後、問題になるのは……俺達の判断で、勝手に『聖女』を返してしまった後、周りの人間が受け入れるかどうか、か」
「そうですね。影響は決して小さくありませんから。ロイド様はもちろんのこと、大臣の皆様、国民達は事実を知って、不信を抱くでしょう」
「そこはアレクスが、俺が魔王を倒すから安心しろ!っていう場面だな」
「う……がんばる」
「アレクスだけに負担はさせません。最終的には、王である私が全責任をとりましょう」
「レイヴァル様……」
「本当にこの世界のためというなら、選択肢は多い方がいい。ユーナさまには聖女としてこれまで通り働いてもらうのが最善なのでしょう」
話しながら、レイヴァル王は立ち上がり、窓辺へ向かった。
「ユーナさまは、いきなりこの世界に連れて来られたことについて、一度でも不満や怒りを口にすることはなかったんです。それでも、我々の身勝手な理由で巻きこんでしまったのに変わりはありません……そして、返す時にも説明もないままいきなりでは、ユーナさまの気持ちは晴れないでしょう。それどころか、恨まれることもあるかもしれないですね……」
空を見上げるレイヴァル王の顔は暗い。
「……それでも……それでも。私も、ユーナさまには生きていてほしいのです……」
うっすらと涙を浮かべて語るレイヴァル王を、皆、妖精か何か、別の生き物を愛でる気持ちで見つめた。
「……じゃあ、決まりだな」
「はい。ここにいる皆の力が必要です。当然ですが、他言無用。明日の早いうちに、決行します!」
秘密の話し合いはそこで締められた。それぞれの思いを抱えたまま、4人は動き出した。




