↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/99

75.天の国?

 温かくて心地よい風が吹いている。


「ここ……どこ?」


 目覚めたわたしは、見たこともない部屋に寝ていたのだとわかった。


「ん……」


 さらりと垂れ視界に入った、長く青みがかった髪は、わたしが『ユーナ』であると示している。戻って来たのだろうけど、ここは知らない場所。


 寝ていた部屋から出ると、テーブルや椅子が置かれた広い部屋につながっていた。外に出られそうな扉も見えるので、ここは小さめなお家なんだろう……でも、誰の?

 

 呼びかけてみたものの、誰も見当たらないので、とりあえず扉を開けて外に出てみた。


「えっ……!?」


 すぐに目に飛び込んできたのは、一面の空。きょろきょろと辺りを見渡すと、ものすごく標高の高い山の上にいるだろうとわかった。わたしがいた家は、そんな山の少しだけ平らになっている所に建てられている。落ちたらただでは済まないような急な崖から見下ろすと、海が見えた。


 なんでこんなところにいるの、わたし? わたしはセント=フェアリアに戻ることに失敗した?

 

 家の横に細い登り道があったので、恐る恐る進んでみた。しばらく行くと、水の溜っている池のような場所がある。その水は一か所から下に流れ、滝になっていた。


 池のほとりに座っているのは、優しそうなおばあさん。


「あ、あの……」


 話しかけてみたものの、わたしの存在を全く気にすることもなく、おばあさんは静かに水面を見ている。……どう、しようかな? 困っていると、別の方から声が聞こえた。


「ルーチェさま~!!」


 わたしが登ってきた道からやって来たのは……


「ああ、ゆうな、目覚めたのか」


「えっ……銀ちゃん!!?」


 暗い銀色の短髪。褐色の肌。間違いなく、夢で見た彼だ。いや、こんな『現実世界』があるものだろうか? わたしは……戻ることに失敗して死んでしまったのかも。


「今、死んだかも。って思ってただろ?」


「あ、うん。違うの?」


「全然、違う。ここはココルって呼ばれてる島だ」 


「へえ……なんでわたし、ここに?」


 そこで、それまでずっと黙っていたおばあさんがこちらを見た。


「魂が抜けた後の、聖女の体を悪用しようとする者達も多かった。ソウルを遣いにやって、保護したという訳じゃ」


「そ、そうなんですね。ありがとうございます」


「ルーチェさまは世界中の出来事をお見通しだからな!」


 ルーチェと呼ばれたその小さなおばあさんは、もしかして神様のような存在なのだろうか?


「それにしても、お前、戻ってきてしまったんだな……この世界にいる限り、ゆっくりとゆうなとレイラの魂は混ざっていっている。あの時は魔導士の魔法で無理やり切り離したようだけど……また戻ってきたんなら、もう、元の世界には戻れないと思うぞ」


「うん。何となく、覚悟はしていたし、自分の意思で戻って来たのだから……それでもいいと思ってる。でも、わたしはみんなの元へは行けないの?」


「魂送りの儀式が終われば、どうにかしてやろうかのう」


「魂……? なんだかわからないけど、ありがとうございます」


「じゃあ、それまでおれの雑用を手伝えよな」


 銀ちゃんは人懐っこい笑顔をわたしに向けた。



 その後、銀ちゃんと一緒に家に戻ると、台所の手伝いなどを任された。


「ここには、ルーチェ様と銀ちゃんしか住んでいないの?」


 不思議な野菜を切りながら、聞いてみる。


「ふもとにいけば、小さな村があるぞ。夕食の準備ができたら、行ってみる?」


「え? いいの?」


 その後、相変わらず池のそばにいるルーチェ様に一言ことわりを入れると、ふもとに連れて行ってもらうことになった。銀ちゃんが獣姿に変わると、わたしを背中に乗せて飛び立った。ロイドもそうだったけど、翼がないのに飛べるのは不思議だなと思う。

 銀ちゃんの背中に乗っていると、ロイドや今まで乗せてもらった幻獣とは、また少し乗り心地が違った。


「銀ちゃん、すごいスピードで飛べるんだね。でも、全然風を感じないし、不思議」


「だろ? これがおれさまの実力だ」


 銀ちゃんは満足そうにこちらを振り返った。



「ほら、これがこの島の様子だ」


 わたし達がいた山は離れてみると剣のように細長く、恐ろしいほどの高さがあった。なんでこんなところに住もうと思ったんだろう? ……その山を中心にして、小さな島の全貌が見える。海は広がるものの、この島以外に陸地は見えない。


 銀ちゃんは急降下して、切り立った山を下りていく。


「ソウル様~!」


 小さな集落に降り立つと、人々が嬉しそうに集まってきた。


「この方が、せいじょという方なんですね」


「うわぁ、きれいな方ですね」


 わいわいと囲まれ、興味津々にいろいろ話しかけられた。この島は小さいけれど、とても豊かでみんな幸せに暮らしているのだろうと想像できた。


「最後に、海岸に行ってみるか」


 銀ちゃんに連れてきてもらったのは、とってもきれいな海!

 

 そう思って近づくと、それは水ではないようだった。まるでビー玉かなにかのようなキラキラとした粒が、無数に集まり、海に見えているのだとわかった。その粒は、光に当たると、七色に輝いている。そして、わたしの知っている海とは違うのに、その波は寄せては返している。


「ここは……わたしの知っている海とは違うみたい。この世界ではこれが当たり前なんだね」


「いや、そうでもない。やっぱり、ココルの海は特別だと思う」


 そうなんだ……やっぱり、常識で考えられないことがたくさんある世界なんだな……


「あ。もうすぐか、な」


 銀ちゃんと近くの岩に座っていると、日が傾き始めた。


「なにこれ……綺麗」


 夕日に照らされた海は一斉にオレンジ色の輝きを放つ。そこに紫色や紺色が被さり、混ざり合い……次第に色を変化させながら夜に移り変わっていく。あまりにも感動的な光景に言葉も出ず、わたしは黙ってその光景を見ていた。


 夕日が完全に沈んで空が暗くなった時、ふっと我に返った。


「こんな素敵な景色を見せてくれて、ありがとう」


「……まあ、何にもない島だけど、これだけはなかなか自慢できることだと思う」


 暗くなった今も、海は時折キラキラと輝いて、さざ波の音が心地よい。


「この海……ゆうなの髪の色と似ていると思って。気付いてないかもしれないけど、たまにキラキラッと光ってるの……珍しいと思うんだ」


「え……わたしの髪、光るの?」


「感情の変化に合わせて色合いもほんの少し変わってる」


 知らなかった!! そういえば、アレクスも髪色が変わっていたし、わたしも同じなのかも。


「でも、ちょっと恥ずかしいね。思ってること、相手にわかられたりするのかも」


 顔に出やすいというのはこの際置いておいて、心当たりはある気がする。


「そうか? おれは……綺麗だと思うけど」


 そういう銀ちゃんはこっちをあまり見てくれない。もしかして……照れているのかも。でも、こんな綺麗な海に例えてもらえるなんて嬉しいな。


「あ、ありがとう」


 わたし達は暗くなってからも、しばらくそこに座って波の音を聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。