74.日常……?
ん……。
アラームが鳴ってる。わたしは半ば寝ぼけてスマホを手に取った。今日は……うう、まだ火曜日だっけ。……もう少し、ごろごろしてようかな。
……って、そんなことしてたら、仕事に遅れる!
勢いをつけて布団から飛び出したわたしは、身支度を整え、簡単な朝食を済ませた。いつもの朝のニュース。占いは……9位か。うん、微妙。
その時、ふと思考に引っかかりを感じた。うーん、何かを忘れている気がするんだけど……仕事のことだったかな? いろいろと記憶を探ってみても、これという答えは見つからない。いまいち頭がすっきりしないまま、わたしは仕事へ向かった。
「おはようございまーす!」
「おはよう。あれ、月代なんか疲れてる?」
会社の先輩からも気付かれるくらい、顔に現れちゃってるのかな?
「いえ、ちゃんと睡眠時間はとったはずなんですけど……なんだか寝つきが悪くって」
「最近うちの会社も忙しいからね。今度落ち着いたら、パーっとおごってあげる」
「やったーっ! これで、今日もがんばれます」
「月代さん、この資料……悪いけど2日後までにまとめてくれる?」
別の方向からも声がかかる。
「はい、わかりました」
半ば強引に気持ちを奮い立たせて、わたしはその日一日を過ごした。
・・・・・・
「つ、疲れた……」
今日は金曜日の夜――。やっと……やっと! 週末だ!! 帰り道、ふと見上げた空には、明るい星が一つ、輝いていた。
……なんだろう? 誰かと一緒にきれいな夜空を見上げた記憶があるような。昔、キャンプに行った時の思い出? ……うーん、わからない。
家に着くころには完全に体力と気力がなくなり、ぐったりとしていた。今週は、なんだか特に長く感じたな。さっきの夜空もそうだったけど、ずっと頭の奥に引っかかるものがあって、それが事あるごとに思い出されて心が落ち着かない。どうしても仕事に集中できなかったし、そのせいにしてはだめだけど、小さなミスもいくつかしてしまったし……。
お風呂に入った後、そのまま寝てしまってもいいかと思ったけど、何となく、実家に電話しようと思い立ってスマホを手に取る。
『……どうしたの? 仕事の後に電話してくるなんて最近あんまりなかったじゃない』
「うん、お母さんと話すの、なんだか久しぶりな気がして……」
『久しぶりって言っても、先週の土曜日も話したと思ったけど?』
「そうだっけ? まあ、いいじゃない」
何だろう、この懐かしいような気分。この後すぐ寝てしまえば、明日には元気も出るよね。見たい映画もマンガもあるし、たまには凝った料理を作ってもいいかもしれない……そんなことを考えながら、ごろごろしつつ電話していると、ベットの下になにか転がっているのが見えた。
「よいしょっ……と」
『どうしたの?』
「うん、なんでも……」
腕を伸ばしてそれを手に取ると、高価そうな宝石のペンダントを発見した。なにこれ! 見覚えがないんだけど、なんでこんなところに落ちてるの?
あれ……わたし……
『結名? どうしたの?』
自然と涙がこぼれる。そして、せきを切ったようにユーナとしての記憶があふれ出てくる。宝石を手にしたわたしは、その瞬間に全てを思い出していた。……わたしは、何でこんな大切な事を忘れていたんだろう?
みんなに……会いたい。数日、元の世界で過ごしただけなのに、ひどく恋しい。そう思うほどに、セント=フェアリア王国での生活に慣れてしまっていた。
でも、わたしは……もう、みんなに必要とされていない?
ノアが無理にわたしを元の世界に引き戻した記憶に、チクリと心が痛む。そして、みんなそれを知っていて、わたしに別れを告げていた――。わたしの不安な気持ちに答えてくれる人はいないけれど、手に持つ宝石は、静かに青い光をたたえている。
何となく、感じた。もう一度戻れば、二度とここには帰ってこれないだろう。わたしがあちらの世界に戻ったところで、居場所はもうなくなっているかもしれない。それでも……
「お母さん、ごめんね。わたし……」
――戻りたい。
わたしの願いに反応するかのように、宝石が強い光を放ちだした。
『その石が、必ずあなたを導きますから!!』
ロイドが言っていた最後の言葉を思い出す。目の前の青い宝石は、きっとわたしを望む場所へ連れて行ってくれる。
……わたしはその大きな流れに再び身をゆだね、静かに目をつぶった。




