73.男たちの決断
王都に着いてから数日。わたしは、獣舎でレイラの弟、フィルとお話していた。フィルはここ数か月の間で、ものすごく成長したように見える。何より、明るい表情でよくしゃべってくれるのが嬉しい。
「この幻獣はとっても珍しいんだね。騎士団の幻獣の中にも、こんな子はいなかったよ」
「わたしと一緒に来た、アレクスっていう人が、自力で捕まえたんだよ」
「すごい人なんだね!!」
フィルがエンクのわき腹の辺りをなでているけど、エンクは嫌がる素振りもなく、だまってされるがままになっている。グレンフェルの血筋は、魔物や幻獣の扱いに長けているのかもしれない。
そこへ、シオウがやって来た。
「聖女様、王様がお呼びです」
「えっ? なんだろう」
ここ数日はわたし抜きで何やら話し合いがされていたみたいだけど……何か決定したのだろうか?シオウもその場にいたようだから、今聞いてみてもいいかと思ったけど……確実に教えてもらえないだろうと予測できたので、だまってついて行ってみることにした。
てっきり温室やレイヴァル様のお部屋に行くのだと思ったら、全然違う所に連れて来られた。……一旦お城を出て、山の方に進むと、お城よりもさらに白く光る、立派な建物があった。石造りの、神殿のような場所だけど、わたしの知っている中では、こんなに透き通るような白い石の存在を知らない。
その建物の前まで来ると、シオウが立ち止まって話しかけてきた。
「私は入り口で待機していますので、ここからは、ご自身でお進みください」
「……なんだか、どきどきするね」
「……聖女様」
「ん? 何?」
「……貴女がどこにいても、忠誠の気持ちは変わりません」
「え? どうしたの、いきなり?」
わたしの質問に答えることなく、シオウは深く礼をした。……よくわからないけど、進めということなんだろうと思い、わたしはその建物に足を踏み入れた。
ここ……一番最初にわたしがこの世界に来た時、見た場所だ……
しばらく進んで、見たことのある場所に記憶を呼び覚ましていた。わたしを取り囲んでいた大勢の魔導士さん達。あの時の光景を思い出す。でも、明るいとまた印象が違う。大きく太い柱に支えられた広く高い天井。かなり上の方に設置されている窓から、柔らかい光が差し込んで、神秘的な雰囲気が漂っている。
人影を確認して近づくと、レイヴァル様とアレクスが並んで立っていた。奥には、ノアもいる。
「こんなところで、一体どうしたんですか?」
「ユーナさま、こちらへ」
「は、はい」
わたしはレイヴァル様に呼ばれ、近くに進んだ。
ぎゅっ。
ん? なぜが両手を握られ、きらきらの瞳で見つめられている。
「ユーナさま、何の説明もないままこの世界に連れてきてしまったこと、本当に申し訳ありません。そして、そんな中でもいつも明るく振る舞うユーナさまに……何度も救われました」
「ど……どうしましたか? そんなにほめても何にも出ませんよ~!あはは……」
「ユーナ……」
「……はっ?」
今度はアレクスから声がかかる。今日はみんな、一体どうしたんだろう?
「ユーナがいるから、俺は変われる。……これからも、俺もがんばるから」
「えっ? う、うん」
今この広い空間には、わたし達しかいない。がらんとしていて寂しい感じがするうえに、みんなの様子もさっきからどことなくおかしいので、何となく心もとない。
「ユーナ、こっちへ」
ノアが手を伸ばし、中心にある舞台のような所へわたしを引き上げた。ノアの片手には、身長よりも高い、大きな杖。先端の装飾が繊細で、キラキラと光る宝石がついている。
「みんな……何かを手伝えというなら頑張るけど、もうちょっと説明してくれてもいいんじゃ……」
「まあ、お前鈍感だし、言われても理解できないだろうとは思う」
「何という物言い……」
急に、ノアが大きな光の輪を作り出すと、わたしの体がキラキラと光り出した。
その時、突然大きな声が響き渡った。
「ユーナ様!!」
ロイド? ものすごい勢いで近寄ってくる。
「俺はユーナ様を戻すのは反対ですよ! この国には聖女の力がまだまだ必要です!!」
「え? 戻すってどういうこと?」
混乱しているわたしに、更なる混乱が襲った。……ノアに、抱きしめられてる!? 何が起こっているのかわからないわたしの耳元で、ノアが静かに囁いた。
「……忘れろ。全部。お前を『聖女』から解放する」
そのまま、ノアに突き放されたわたしは、光の輪の中に体が吸い込まれていくのを感じる。
……わたしを……元の世界に戻すということ……!?
そんな。わたし……なんの心の準備もしていない。
もう、わたしの力は必要とされていないの?
いろいろな疑問も伝えられず、ものすごい力で輪の中に引っ張られていく。
「ユーナ様、『導きの宝石』を!!」
ロイドが叫んでいる声が聞こえる。導きの宝石……? レイヴァル様に祭りの時にもらった、青い宝石のこと、かな……?
「その石が、必ずあなたを導きますから!!」
それがわたしの聞いた、最後の声になった。




