72.再開と願い
アレクスはわたしをエンクに乗せ、物凄い速さで移動した。タイガと違い空は飛べないものの、その速さは引けをとらないと思う。その日の滞在地点にたどり着き、フェルムさん達の馬が到着するのを待つ、というスタイルで進み続けた。
冬道だったものの、王都までは思ったより早く着いた。道路整備が進んで難所がほとんどなくなり、昔野営をしなければいけなかった場所にも、小さな集落ができたり、泊まりやすいような設備が整えられたりしていた。一度しか通ったことがないので定かではないが、以前とは少し違うルートも通ったみたい。
これまでに通った人の住んでいる場所は、今のところ魔物被害にさほど影響されていないのを見て、ほっとした。
見えてきたのは黒竜に攻撃を受けた爪痕の残る城壁と周囲の街。アレクス達もその被害の様子に驚いた顔をしている。……そして、いよいよ、城壁の門の前に立ったわたし達。
城までの街道を、エンクで堂々と進むアレクスは、王都の人々の注目の的となっていた。魔物被害から立ち直ろうとがんばっているみんなに、アレクスの姿はどのように映ったのだろう……?
城に着いたところで、兵士達がずらりと並び、敬礼をして出迎えられた。そのまま一度アレクス達と別れたわたしは、自分の部屋に戻って身支度を整えた。
初めてここに来た時を思い出す。準備ができると、わたしは王の間へ行ってレイヴァル様とご挨拶することになっている。
部屋を出たところで、慌てた様子でシオウが走り寄ってきた。
「あっ、シオウ! ただいまー。すっかり、元気そうだね」
「聖女様!! どこも、お怪我はありませんか? 村で大変な目に遭われたとか。……私がついていましたらそのような事態にならぬよう、お守りしたものを」
「あんまり、気に病まないで! スタークはとてもよく働いてくれたよ」
おそらく、村での様子は全部シオウに連絡されているのだろう。わたしが必死に言っても、シオウの顔は晴れないままだったけれど……王都で元気に過ごしていれば、そのうち安心してくれるよね、たぶん。
王の間の前には、旅の衣装からすっかり着替えたアレクスが待っていた。わたしの姿を見つけると、笑顔で迎えてくれる。……だめだ! 正装したアレクスは、完全に王族の輝きが増していて、あまりの神々しさに目が開けられない。
挙動不審になったわたしとアレクスは、扉が開かれるとレイヴァル様の前に進み出て、挨拶をした。
「ユーナさま、無事でなによりです。そして、アレクス。よく来たね」
「お久しぶりでございます。私、アレクス・フレアエイゲート、再びレイヴァル・セント・フェアリア国王にお目通りできたこと、大変嬉しく思っております……」
「アレクス、堅苦しいな。いつもの話し方でいいよ」
「……ですよね? ……それにしても、あんなに小さかったレイヴァル様もこーんな立派な王になるとはなぁ! 2歳の時なんか、俺が一緒に……」
急激な砕け具合はさすがに許されなかったのか、レイヴァル様がごほん!と大きく咳ばらいをしたので、アレクスの言葉は途中で遮られた。レイヴァル様の2歳エピソード、気になるから後で聞き出そう……
「アレクス様。まさか王都へ再び出向いてくださる日が来るとは。私は感動で胸がいっぱいです」
「チェスターか。……また太ったんじゃないの?」
「全く、再開の挨拶がそれとは、アレクス様らしい!」
……王都で過ごしていたんだから、当然知り合いも多いよね。その後も偉い方々と明るく挨拶を交わすアレクス。
その場に集まった皆さんとの温かい挨拶が一通り済んだところで、宰相のウォーレン様が口を開いた。
「それで、アレクス様はどのようなご用件で、わざわざお越しになったのでしょうか?」
ウォーレン様の口ぶりからは、アレクスを歓迎しているのか疑っているのかはわからない。
「そうだ。何も俺はここを懐かしんで来たわけじゃないからな」
アレクスがレイヴァル様に今一度向き直った。
「レイヴァル様と、話したいことがある。シオウも……いいか? あと……ここには来てないようだけど、ノアにも聞いてもらいたいな。俺はそれで十分だが、他の人間もいたほうがいいと言うのなら任せる。ただ、最低限の人数で信頼のおける人物のみに話をしたいと思っている」
「私はそれで構わないよ。いいよね、ウォーレン」
「王がそうおっしゃるのなら、構わないでしょう。アレクス様が何か良からぬ企みを働いているという様子でもないですし、万が一のことがあってもシオウも同席しているのであれば問題ないでしょう」
やっぱり疑われていたのか、アレクス。
「あの……わたしは、参加させてもらえない?」
「ユーナは、悪いけど今回は外してくれ」
「えっ、うん……」
少し期待していただけに、ちょっとショック。アレクスの中では信頼のおける人間と思われてないのかな……まあ、所詮、よそ者だけどさ。
アレクスには申し訳なさそうに何度か謝られたけど、わたしの気持ちはあまり晴れなかった。
そしてその場は解散となった。予想よりも旅の疲れが溜まっていたらしく、わたしは部屋に戻るなりベットに倒れ込み、朝までぐっすりと眠ってしまった。




