71.決意と旅立ち
「……それで、もしもユーナがお兄様のせいでケガをしていたら、どう責任をとるつもりだったのかしら?」
「今回は完全に俺が悪い。すまなかった!!」
クレアに冷たい目で蔑まれたアレクスは、わたしに向かって土下座してくる。
「いや、アレクス、頼むからやめて!! こうして助けてもらったんだし、わたしは何も怒っていないよ」
「それでも、俺の気がすまない」
「全く、我を忘れて、どれだけの迷惑をかけたと思っているのかしらね」
クレアの追い打ち、容赦ない……
「ラザフ達の処分は、私情にとらわれないように、きちんと考える。……思えば、俺が、しっかりと自分の意思を表明しないままここまで来てしまったのが一番の原因だ。結果的に、多くの人間を傷つけることになってしまった……」
土下座はやめてくれたものの、うなだれるアレクス。わたし達は翌日、アレクスの屋敷の広間に集まっている。フェルムさん達4人とスタークも、アレクスが呼び寄せた。
大事な話をしたいとのことで、集められた皆からは、重苦しい雰囲気が漂っている気がする。
「まずは……ユーナに、聞いておいてほしいことがある。俺の父親は、先代の王兄だった」
「それは、以前聞いたことがあるよ……先代の王というのは……レイヴァル様のお父様になるんだよね」
「ああ。先王は親父以上に魔法も武術も物凄い人かったからな。親父は元々争い事を嫌ってる性格だったし、補佐として従っていたんだ。まあ、この国ではそんなに珍しいことではないな。王族の中で最も力のある者が王座に着くのは」
「じゃあ、アレクス達は元々王都に昔住んでいたんだね。そういえば、ノアとも知り合いだったよね」
「まあ、あいつは腐れ縁みたいなところもあるけどな。それで……レイヴァルが産まれてからいろいろ状況が変わったんだ……あいつは魔法が使えないだろ? そのことがわかると、俺の方を次期王にって声が出始めたんだ。親父は揉めるのを嫌がっていたし、そんな心配はいらないって証明するために、地方の領主としてノースデールで暮らすことに決めたんだ。……それが、10年くらい前になるかな」
横に座るクレアも、過去を懐かしむような顔をしている。10年前だから、二人ともきっと子どもだったんだろう。
「ノースデールは田舎だけどな、けっこう重要な土地なんだよ。ここが落とされれば魔物が人間の暮らす土地に流れてくるから、防御が大切になる。だから王との交渉もすんなりといった。国益のために大切な配置だということでな。……でも、親父は5年前に魔物との戦いで亡くなってしまった。その後、もともと体の弱かった母も後を追うように亡くなってしまって、俺とクレアが残されたんだ」
「フェルム達も、父の代からの忠臣で、よく尽くしてくれたわ。……ラザフについては……そこまで思いつめているなら一言相談してほしかったわね。彼、真面目過ぎるタイプだから」
その場の皆がうなだれている。ずっと一緒に過ごしてきた仲間がこういうことになったのは、皆相当ショックだろう。
「以前から、反国王派が俺を担ぎ上げて政権を乗っ取ろうとしているのは知っていたんだ。ただ、ラザフまでそいつらの仲間になっているのは気が付かなかった」
そう言えば、アレクスに会いにいろいろなお客さんが来ていたような……あの時アレクスはあまり知られたくない様子だったから、何かそういう話し合いがされていたのかもしれない。
わたしが前の出来事を思い出していると、アレクスがことさら真剣な表情で口を開いた。
「俺、エヴァリーナへ行くことにする。ちゃんと、意思表示をするために。もう、逃げない」
その瞬間、フェルムさん達は一斉にアレクスに向かい、片膝をつき、頭を垂れた。
「アレクス様、我々は貴方様に、どこまででもお供しましょう」
「……ありがとう」
そこで、クレアも話し始める。
「では、私はここに残ることにします。国の大事な局面ですが、村の防御をないがしろにしていいわけではありません。……それに、お兄様が戻りたくなったとき、迎える人間も必要でしょう?」
「クレアも……ありがとう」
二人はお互いの顔を見て、微笑んだ。
「そういえば、スタークは? わたしの護衛ということなら、一緒に戻ることになるの?」
「いやー、聖女様について行きたいのもやまやまなんですが、シオウ様からの指示がない限り、『村での』聖女様の護衛係という縛りで動けないんですよ。まあ、アレクス様の護衛の方々は、先王時代からの伝説みたいな方々なんで、身の安全はばっちりだと思いますよ」
「スターク、たくさん助けてくれてありがとう。……ついでと言ってはなんだけど、クレアの力になってくれるとありがたいな」
「何だか、俺の関わる女性は人使いが荒い人ばっかりだなー……まあ、しばらく聖女様の護衛という仕事はなくなるわけですし、村に残っているメンバーでなんとかなるでしょう」
「うん、本当に感謝してるよ」
短い期間過ごしただけだけど、スタークは何だかんだと言って、結局はすべて引き受けてくれるとってもいい人だと分かった。今後のことも、安心して任せられると思う。
その話し合いの後、わたしは旅の支度をした。人数のこともあるし、何よりアレクスはきちんと王都に出向きたいという意思を持っていたので、今回は召喚魔法を使わずに馬で移動する。
皆に見送られながら、アレクスとフェルムさん達と共に、王都へ向けて出発をした。




