66.魔王を倒す術
ジンさんが失脚した事件は、王都の人々に衝撃を与えた。更に、魔王が復活したという話も瞬く間に広がったようだ。城の中でも重苦しい雰囲気なので、城下町もきっと同じだろう。
窓の外は真っ白な世界。本格的な冬だ……。王都では避難所も開設され、とりあえず落ち着いてはいるものの、またいつ魔物が襲ってくるかもわからない日々に、皆怯えて暮らしている。王都以外の町や村でも、援助の手が足りている状況でもない。寒さに凍えている人達も多いだろう。
……さあ、今日は何から始めようか。無意識のうちに深いため息をついた時、控えめに扉をノックする音に気付いた。
「はーい、え……!?」
扉の前にいたのは、シオウ。わざわざわたしの部屋を訪れるなんて、初めてのことだ。
「どうしたの? ……何かあったの?」
「いえ、急ぎという訳でも、ないのですが……」
なんだか、ものすごく言い出しにくそうにしている。これまた、シオウにしては珍しい。
「何か、人に聞かれたくないことなら、部屋に入って話す?」
「いえ、聖女様の部屋に入れていただくなど滅相もないことです」
「そ、そう……?」
確かに、シオウはそういうの気にしそうだけど、このままでも話が進まない……どうしたらいいのかな? そういえば、お城にいる時、シオウと二人でどこかにいた記憶、ないなあ。
「……すみません、少々離れていますが、武器庫に来ていただいてもいいでしょうか」
なんでまた、そんなところに。やっぱり、今日のシオウはなんだか変だなと思いながらも、わたしは付いて行った。
「へえ~! こんなにいろんな種類の武器があるんだね!」
「先日の黒竜戦で、私の剣は折れてしまったのですが……」
「うん、そうだったね。武器のことはよくわからないんだけど……新しい武器では簡単に扱えないものなのかな? これだけあるんだし」
初めて入った武器庫は広く、手入れされた武器がずらりと並んでいる。
「どれを使っても、慣れるのにそう時間はかからないと思います。ただ……ここにある全ての武器を持ってしてでも、あの竜を倒すことは不可能でしょう」
「そ……そうなの!?」
「……過去に、魔王と呼ばれる存在の命を奪うことができた、幻の武器があるのです」
「えっ!? 幻の武器? なにそれかっこいい!!」
「私はその在処を知っています。……ただ、聖女様の力をお借りしないと、手に入れることができないでしょう」
「!!」
「協力して……いただけますか?」
シオウが言い渋っていた理由を何となく察する。いつもわたしの身の安全を案じてくれているシオウが、わざわざ危険な目に合わせてしまうことをためらったんだろう。それでも、わたしは嬉しい。シオウの助けになれるなら……
「もちろん、何でもするよ!!」
・・・・・・
幻の武器というのは、何でも、「ムゲンの湖」というところに隠されているらしい。わたし達は手早く準備を済ませると、旅に出発した。
召喚魔法での移動は、湖の場所がはっきりしないので使えず、幻獣達も防衛や復興に忙しくて借りられない。わたし達は時間がかかるものの、馬で移動している。同行しているのは……シオウと似たような服装の男の人たち10人くらい。初めて見る顔ばかり。シオウにこっそり聞いてみる。
「ねえ、みなさん兵士さんとも違うようだけど、お城の人なの?」
「はい。私の部下ですので、実質聖女様の配下の者たちです。普段は姿を見せないように聖女様の護衛を行っています」
「何それ!! レイヴァル様には付いていたの知ってたけど、まさかわたしにも!? ……じゃあ、オーク村にまで付いてきてたり……?」
「さすがにそこまで移動するのは難しいので、そちらには別に駐在させている者がいます」
自分の事なのに、初めて聞く情報ばっかりなんだけど……!!!
驚きのあまり言葉も出ないわたしの気をよそに、馬はどんどんと王都を離れていった。
一日目は王都からさほど離れていない街の宿に泊まった。二日目は、岩場に囲まれた場所で野営。馬車で王都に連れてきてもらった時とは違って、立派な寝具もなく、近くにあった洞穴のようなところに泊まるみたい。……冬のキャンプ……なかなか厳しい!
わたしがたき火で暖まっていると、シオウが隣に座ってきた。そして、温かい飲み物を手渡してくれた。
「聖女様、このような辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。明日には、目的地に着けると思います」
「それは……助かる! 幻の武器と言っても、案外近くにあるものなんだね」
「距離でいえば、そうですね」
わたしはシオウにもらった飲み物に口をつける。体がじんわりと温まってくる。
「この世界の魔王っていうのは竜のことなんだね。……わたしのイメージと違ったな」
「聖女様は、魔王という存在について、何を想像します?」
「うーん、魔界の偉い人で『人間どもを滅ぼしてやろう。フハハハハ』みたいな感じかな。あと、角生えて顔色悪い」
「……広い世界では、そういう魔王も存在するかもしれませんね」
シオウに真顔でフォローされると心が痛むからやめてほしい!
「魔王という存在は一つではないのです。この世界では、大きな魔力を持ち、国を揺るがすほど膨れ上がった邪悪な生物のことを指します。それが魔物でも、人でも、です」
「じゃあ、竜に限らないってことなんだね。勉強になった」
「大体、強大な力を持つものは竜族が多いですけど」
ロイドに乗せてもらって近づいた時の、黒竜の瞳を思い出す。あれは……怖かった。
「わたし、あんな怖い生き物と戦うのか~……覚悟してたけど、聖女って結構責任重大だよね!」
一瞬の間の後、はあ……と大きく白い息を吐き出したシオウは、静かに話し始めた。
「王都に黒竜が現れたとき、緊急会議が開かれていました」
「う、うん……」
「私は聖女様に傷ついてほしくないと、常々思っています。でも、あの状況下で、私一人で決定に反対できるような力は持ち合わせていませんでした。そして実際に、聖女様に力を貸してもらうしか、解決方法は見いだせなかった」
それで……城下町で助けてくれた時のシオウは、なんだか変な雰囲気だったのかな?
「今回も、そうです。本音を言えば、幻の武器の存在など誰にも伝えようと思っていませんでした。結局は聖女様を危ない目に合わせてしまっている自分に対しても、どうしようもない怒りを覚えます」
「……ちょっと、シオウは真面目過ぎるんじゃない? わたしってなんだかんだ丈夫だし、結構しぶとく生き延びれると思うよ、あははっ」
「……」
ひいいいっ!! 場を明るくしようとがんばってるわたしの努力を無に帰さないで!!
「……私の故郷にも、この国でいう『魔王』の存在がありました」
「へ……??」
「そして、その存在によって、国が海に沈められてしまったのです」
「シオウの……故郷の話……だよね?」
「今は、存在しない故郷です。……どれだけもがこうと、力が及ばないことはこの世にあります。守りたいものがあろうとも、その想いが届かないことだって、当たり前の事なのかもしれません」
経験から語られるシオウの一言一言は、わたしにとても重くのしかかる気がした。




