65.魔王復活
ウォーレン様に名指しされた大臣、ジンさんの表情からは、どういう感情なのか読み取れない。シオウが、淡々と続ける。
「オーク村でロック鳥が暴れた事件は、ナラ……アレクス様を幽閉した隣の領地ですが、そこに帰っていた魔導士を使って引き起こされた事件だという証言がとれました。ナラの領主は、ジン様の配下に当たりますよね。また、サンルードの魔物襲撃に関して、その発端となる、街で亡くなった旅人も身元が判明しております。当然、ジン様とのつながりがありました。……まだまだ証拠がありますが、今この場ですべてお話ししても?」
そこで、ジンさんがふっと笑みをこぼした。
「全く、とんだ誤解ですな。たまたま私と薄い関わりがあったことで、何の証拠になりましょう。それに、魔物を呼び寄せるなど、人間にできることとは到底思えませんな?」
「失礼ながら、ジン様の執務室も検めさせていただきました。このような物が出てきたのですが、見覚えはありますか」
「あっ……! その黒い玉……サンルードで見たのと同じです」
わたしの言葉に、ジンさんはきっと睨みつけてくる。
「全く、宰相殿の部下はコソ泥のような人物だとは思いもしませんでしたよ。まあ、百歩譲って、私がアレクス様を貶めるためにそれらの事件を起こしていたとしましょう。……では、王都が同じ目に遭ったことはどう説明されるのですかね!?」
「確かに、あの黒竜は人間の力で呼び寄せられるレベルじゃないですよ。王都が襲撃されたことは、ジンにとってもメリットはなさそうですね」
「ほら、ロイド様もこうおっしゃってるじゃないですか!!」
「……だからね、王都の今回の騒動は『事故』じゃないかと思うんです。何度も人為的に魔物を呼び寄せすぎたせいで、魔界との歪みが生じてしまって、竜が現れたんじゃないですかね?」
「そんなこと、聞いていない……!!」
はっと我に返り、その後も言い訳を続けるジンさん。でも、周りに擁護する者もいないようだ。そこで、ノアが口を開いた。
「……あの黒竜は、意思を持ってこの国を滅ぼそうとしていたようだ。あれほど強大な魔界の生き物が人間に対して敵意をもち、襲ってきたとなれば……魔王復活と見ていいだろう」
「魔王!?」
どういうこと? わたしのイメージしていた魔王とは違うけど、あの竜が魔王なの?
レイヴァル様が青ざめた顔でジンさんに話しかけた。
「ジン、このような事態を引き起こしたこと、宰相の調べの通りであれば、重罪である。今後、調査を進めたのち、処分を言い渡す」
「そんな……そうだ、チェスター! お前の方が怪しいではないか」
ジンさん……
「ジン、いつからお前はそのような汚い手を使うようになったのか! 結局は王の評判を落とすことにつながるとなぜ分からない!?」
「くっ……そうだ! では、ロイド様がやったのでは! 魔物を呼ぶ呪術に詳しいのは、ロイド様なのだから!!」
「俺は国の政治や覇権争いに興味がないですから、そんなことしませんよ。まあ、自分以外の人間にも、魔法の知識を伝えてはいますから、どこかから漏れる可能性はありますけど」
「ほら、やはりロイド様が怪しいではないか!」
「ジン! 見苦しいぞ!」
他の大臣さん達も口々にいろいろな事を叫ぶ。明らかに様子のおかしい大臣さんも数人……ジンさんとつながりのあった人達なのだろうか。
もう……だめかも。事の真相も分からないまま発言しないようにとだまって見守っていたけど、わたしは遂にジンさんに呼びかけた。
「あの、ジンさん。このままではまずいです。話せば話すほど、体中、黒いもやもやがどんどんふくれ上がっています」
「はっ!?」
「それは、おそらく『呪い』だな。お前が使った方法は術者にも返ってくる禁忌魔法だ。今回無罪と言われたとしても、そのうち衰弱して死ぬぞ」
ジンさんには黒いもやが見えないのだろうか。……もしかして、わたし以外の皆にもわからないのかもしれない。わたしとノアの言葉に焦りだし、ジンさんは両手で必死に見えないもやを振り払おうとしている。
「ひっ! お終いだ……!! すべて国のためにやった事……何も悪いことはしていない!」
混乱したジンさんは、いきなりわたしにつかみかかろうとしてくる。
「くそっ! 小娘が! だれも確認できないのをいいことに、人を貶めようとするとは!」
「えっ、えええっ!!??」
……ロイドが魔法を放つのと、シオウが切りかかるのは、ほぼ同時だった。
「ユーナ様、大丈夫ですか?」
「う、うん……ジンさんは……」
わたしの目の前に転がるジンさん。
「殺してはいません。……ですが、聖女様に襲いかかるなど、許せることではありません。今後何をするかわかりませんので、このまま、捕えておくべきでしょう」
それまで座っていたレイヴァル様も、いつの間にかわたしのそばに立っていた。
「事の真相は調査を待ちますが、聖女であるユーナさまに対してのここまでの無礼。……然るべき対応をとらなければなりませんね」
ジンさんに向けられたレイヴァル様の表情は冷たく、怒りの感情をにじませている。いつもの優しい雰囲気とあまりにも違いすぎたので、わたしは思わず身震いした。
その後、気絶したジンさんは、兵にどこかに連れていかれた。




