64.王都、その後。
……ん? なんだかいい匂いがするな。
わたしが意識を取り戻し、目を開けると、うす暗い部屋が視界に入った。どうやら、すっかり夜になっていたようだった。
混乱する頭を整理して、自分の置かれた状況を確認してみる。王都に現れた竜を撃退して、各地の魔導士さん達を支援した後、倒れちゃったんだっけ。ん……? ここは自分の部屋だけど、さっきまでは違う部屋にいたよね?
「ユーナ……さま、良かった」
「ふぁっ!!?」
まさか、隣に誰かいると思わず、びっくりして変な声をだしてしまった。しかも……慌てて声の方を向くと……なんとそこにはレイヴァル様!!? 花のようないい匂いの正体は王だったとは。
体を起こそうとするも、思うように力が入らない。
「あっ、無理しないでください! なにせ、三日間も寝ていたのですから……」
三日間!? いつの間にそんなに時間が経っていたとは……。
「ユーナさま、王都を……国を守ってくださって、本当にありがとうございます」
レイヴァル様が寝たままのわたしの手を握りしめ、そこに額をつけた。
「役に……立てたのだとしたら、良かったです……」
わたしの言葉に、レイヴァル様は無言のまま、更に強く手を握った。
その後、レイヴァル様が人を呼び、一気に部屋がにぎやかになった。だんだん元気を取り戻したわたしが状況を尋ねると、魔物襲撃事件は、今は一応落ち着いているとのこと。わたしはというと、ほとんど魔力を使い果たしてしまったことが原因で、倒れてしまったらしい。
魔力が枯れるという経験をしたことがなかったので、限界に達するとどうなるか分からなかった。わたしが寝ている3日間、こうやってレイヴァル様はじめ、みんなが足しげくお見舞いに来てくれていたみたい。もともとケガをしていたわけでもなく、魔力の回復を待つだけだったわたしは、みるみるうちに元気を取り戻した。
……王都の被害は甚大だった。城壁も建物もたくさん壊れていたし、守れなかった命もあった。それでも今、みんなは何とか立ち上がり、少しでも前の暮らしに戻ろうとがんばっている。
・・・・・・
今日は、城壁の外にある街へ被害の状況を見に来ていた。黒い竜が暴れ、隕石の降り注いだそこは、前の賑やかな街の雰囲気がなくなり、がれきの山になっていた。
ノアがいるのを見つけた。街の人達と話をしていたみたい。
「ノア……」
名前を呼んだものの、なんと声をかけていいか、続ける言葉を迷う。わたしに気付いたノアは、振り返って無理に笑って見せた。
「いくらなんでも、ひどいよなー。まあ、生き残ったやつも多いし、なんとかなるだろ。この街のやつら、しぶといし」
「わたしも、できる限り手伝うね……」
ふう、と息を吐いた後、しばらく無言のまま辺りを見渡すノア。
「……こんな時、いくら偉い立場にいようが、小手先の魔法が使えようが、守りたいものは守れないんだ。……俺は、無力だな」
ノアほどの人でも、自分の無力さを呪い、苦しい思いをしている。わたしと、同じ……。何も答えられずにいると、わたしを気遣ってのことか、ノアが明るい口調で話題を変えた。
「あ、そうそう。これ、感謝してる。まあ、大した力ではなかったけど、火を消すくらいは、役に立ったんじゃないか」
ノアが見せてくれたのは、この前渡したお守り。……今でも持ち歩いてくれているんだ。
「ノアにも、わたしの力が届いてたってこと? ……ね、やっぱりもらっておいて正解だったでしょ!?」
お互い顔を見合わせ、笑い合う。
「あ、雪……」
その時、ちらちらと雪が降り始めた。王都も……雪は積もるのだろうか?
「これは、急がないと困る人間も多いな。はあ、忙しいのは好きじゃないってのに」
「うん……がんばろね」
わたし達はしばらく天を見上げていた。
・・・・・・
お城に戻ってきたわたしは、魔導士棟に来ていた。ロイドに会うためだ。ロイドとは事件の日以来会えず、あの後無事だったか、確認できていなかったから。
「ユーナ様、元気になってよかったです! 大分、無理をしたんですね。今は何ともないですか?」
また、ロイドはわたしにお茶を淹れてくれた。ロイドも、疲れた顔をしていたものの、ケガなどはしていないようで、ほっとする。
「うん、すっかり元気だよ。それにしても……ロイド、まさか変身できるなんて、知らなかったよ」
「俺はもともとそういう種族なんですよ。人間とも獣ともつかない、中途半端な存在かもしれませんね」
「……銀ちゃんも、人間の姿になっていたよね。もしかして、ロイドと同じ種族ってことなの?」
夢の中でケンカしていた二人は、どこかお互いのことを分かって話している節があった。
「うーん、祖先をたどれば、どこかで繋がるかもしれないけど、あいつとは違いますね」
「この世界には、そういう珍しい人達がたくさんいるっていうことなのかな。あっ、でも前にロイドに教えてもらった時、王都にはロイドみたいな人はいない、って言ってたよね。同じ種族の人たちが住む街や国があるの?」
「あー、俺の一族は滅んでしまったので、特に故郷とかはないですね。たぶん俺くらいしか生き残ってないでしょうし」
あまりにさらっと言われたので、理解するのにやや時間がかかった。
「えっと……ごめん。変なこと聞いてしまったね」
「いや、別に気にしてないですよ。自分の理解の外にあるものって、怖がられるでしょ? 俺達って普通の人間からしたら、未知の存在ですしね」
ロイドの口ぶりからすると……誰かに『滅ぼされた』ということなのだろうか……? どう会話を続けようかと迷っていると、魔導士さんが慌てた様子で訪ねて来た。
「ロイド様、緊急会議が行われるそうです。あ、聖女様もいらっしゃいましたか。お二人とも、呼ばれていますよ」
何があったんだろう? わたし達は急いで会議室に向かった。部屋には、レイヴァル様と宰相のウォーレン様、ノア、そして数人の大臣さんがすでに待っていた。前にサンルード行きを決めた会議より、少人数な気がする。
わたしとロイドが座ると、ウォーレン様が話し始めた。
「今回の事件、そもそもオーク村を始めとした、突然の魔物襲撃が発端だと思われます。皆様にお伝えしたいことがあり、緊急に集まっていただきました」
ウォーレン様の口ぶりからすると、何か分かったのだろうか? いきなり呼ばれたからには……きっとそうだよね。
「シオウ、報告を」
ウォーレン様が呼ぶと、シオウが部屋に入ってきた。
「はい。これまで魔物被害の報告があった地域は、すべてフレアエイゲート家……アレクス様に関係する土地ばかりでした。そして、それらの事件すべてにおいて、人為的に魔物を呼び寄せていた物証が出ています」
「なんと!!」
その場にいた人たちから、どよめきが起こる。
「それらの証拠を詳しく調べると、ある方とつながっていることが分かりました」
そこで、ウォーレン様がシオウの言葉を引き継いだ。
「ジン、このような事件を起こした罪は大きいぞ」
ええええ!? まさか、ジンさんが犯人!?




