63.黒い竜
ノアとわたしはロイドに乗せてもらい、竜の周りを隙を見ながら昇って行く。その間に、ノアから作戦を聞いた。
「ロイド、お前と俺で、同時に同じ魔法を放つ。もちろん、最大出力で。ユーナは増幅させる。もちろん、死ぬ気で」
一人だけ要求がおかしくないかな……?
「わかりました! あの竜にはどの属性の魔法が効くでしょうかね……?」
「見た目だけでは判断できないな。だから……聖女の力を最大限生かせる魔法、全力で一発勝負だ」
「それは……?」
わたし達の目の前に、竜の顔。目が、合う。
「光魔法!!」「わかりました!」
ノアとロイドが同時に放った魔法。光の魔法なら、増幅させるイメージが湧きやすい。わたしは全神経を二人の魔法に向けた。
その瞬間――。
目に見える全ての物の輪郭が消え、真っ白な世界になる。同時に、すべての音が消えた。
空から落ちた痛みも感じないし、怪我をしたわけでもない。ただ、世界が色を取り戻しつつあると、自分が地面に転がっているとわかった。
あわてて周りを見渡すと、同じように地面に伏しているみんな。……どうやら、命は助かったみたい……
そうだ……!! 竜は??
わたしが見たのは、竜の尻尾の先が黒い雲の中に消える瞬間。どうやら、雲の中に逃げ込んでいったみたい。
「……倒した……わけじゃないよね」
「とりあえず……撃退することはできたみたいだ」
ノアも肩で息をしている。
徐々に黒い雲は消え、空が明るくなり始めた。しばらく立てないまま呆然としているわたし達の元に、城の方から兵士さんがやって来た。
「聖女様、大変です! 各地の魔物も狂暴化しているとの連絡が来ています!」
一体……何が起こっているの!?
竜がいなくなったおかげか、王都に集まっていた他の魔物達は消えていた。連絡を受けて急いで戻ると、一応城下町の方は落ち着いた様子だった。
戻ってきたのはわたしとシオウの二人で、他のみんなは街に残っている。魔物が消えたからといっても、火の手があちこちから上がっていたし、ケガ人も助け出さないといけない。……ノアは、大好きな街が大変な状態になって、わたしよりも辛いだろう……。
城に着くなり、待機していた魔導士さんが、書状の束を持っておろおろとしていた。
「聖女様! 各地でも同じ現象が起きているようで、こんなに連絡が来ています!」
「どうしよう!? 一つ一つの街に助けに行く時間はないよね」
しかも、わたしを移動させるだけの召喚魔法を出せるシオウとノアはいないし、こちらはこちらで人手が足りない。
あれ……?
いつも手紙のやりとりをしている、王都の指定場所として使っている部屋。そこには、ほんの少しだけ、手紙が送られてきた召喚魔法の光の輪が残っている。そうだ……! この間、ノアとやった一斉連絡を試してみようか!
「みなさん! 聞こえますか!?」
『聖女様!?』
驚いている声はそれぞれの地方の魔導士さんだろう。とりあえず、みんなと連絡できたことにほっとする。わたしは簡単に現状を説明した。
「ごめんなさい、王都も大変な状況で、すぐに助けに行けないの」
『先ほどから、なぜか魔物の数が減っているので、何とかなりそうではあるんですが……』
もしかして、竜の存在と連動しているのかな? でも、王都はきれいに魔物がいなくなっていた。……もしかしたら、ノアとロイドが放った光魔法が王都全体を包んで、魔物達を消し去ったのかもしれない。
『こちらも同じ状況です! まだ全滅はしていませんが、少し減ったようです』
その時、わたしの体から、話しかけている光の輪に続くキラキラとした糸を見かける……これは、みんなが持っているお守りにつながってるのかも!?
「みなさん! わたしの力をお守りを通じて送れるかもしれません! 辛いと思うけど……わたしの力を貸すから、がんばってください!!」
『なんだか、ものすごい魔力があふれてきます! これは、聖女様の力なのですか!? もう少し、がんばれそうです!!』
皆の戦いに直接参加できない。でも、わたしは祈り続けた。一時間ほど経った時、光の輪の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。
『ユーナ! 聞こえるか?』
「……アレクス!!」
『ここに来ればユーナと話せると聞いて、急いで来たんだ。村にたくさんの魔物が襲ってきたけど、なんとかなりそうだ。……ただ、エンクやダイアウルフ達も苦しそうに暴れている! ……どうしたらいいと思う!?』
「もしかして……首に、黒い首輪のようなものがついてる?」
『ああ。突然黒い雲のようなものが巻かれてから、様子がおかしくなったんだ』
「……! それ、断ち切れるかな?」
『わかった! なんとかしてみる』
・・・・・・
しばらくした後、アレクスから成功したとの連絡をもらった。すべての魔導士さん達から、魔物を退治し終わった報告を受けたときには、すっかり夕方になっていた。……なんとか、凌いだ。
よし……次は城下町のケガ人を、回復魔法で助けに行こう!!
……あれ?
視界が歪む。
「聖女様!!」
シオウが駆け寄ってくるのが辛うじて見えたが、力が全然入らない……そのまま、わたしは意識を手放した。




