62.王都襲撃
その日、わたしはいつものようにお城で雑用をしていた。そこに、慌てた様子でリリィが駆け寄ってくる。
「え……王都に魔物――!?」
急いで窓を覗くと……たくさんの魔物が城下町に集まっているのが見える! それは、サンルードで見た光景と同じだった。
わたしは、血の気が引くのを感じる。このままだと、いずれ城まで到達しそう……! わたしは気合を入れ、全速力で準備をしてお城の出口に向かうと、同じように外に向かっている何人かの魔導士さんに会った。
「みんな……城下町に?」
「はい。お城でのお手伝いが魔法の鍛錬につながりました。それに、聖女様にもらったお守りの力で、私達でも、少しは役に立てそうです!」
「わたしも一緒に行かせて! 近くにいる限り、増幅魔法で援助できるから。みんな、くれぐれも気を付けてね!」
「聖女様も!!」
城下町をしばらく進むと、兵士の皆さんが魔物と戦っているところだった。街の人達は家に閉じこもっているか逃げ出したようで、誰も見かけない。わたしはそばの兵士さんに話しかけた。
「なんで、こんなところに魔物が現れたんですか!?」
「わかりません! 気付いた時には大量の魔物が湧いてきていたのです。ただ、ここはまだましな方で、城壁の外は、特に被害が多いようです。今、救援が向かっていますが……」
全貌がつかめないけど、一体どうなっているんだろう。とりあえず、目の前の魔物をその場にいるみんなで協力しながら、倒していく。
サンルードの戦いと違い、魔物の数はそこまで多くはないが、一匹一匹が強い気がする。わたしが一匹の魔物に魔法を放っている隙に、後ろから別の一匹が襲ってきていたことに気付かなかった。
「聖女様、危ない!」
魔導士さんの声に気付き、振り返った瞬間、ドサッと崩れ落ちる、魔物。……と、剣を構えているシオウが視界に入る。
あ、まずい……慌てすぎてシオウに黙って出てきてしまったから、これは怒られる……
と思ったけど、シオウは「探しました」とだけ呟き、参戦しだした。ここまで何も言われないと……逆に怖い。なんだか、目も合わせてもらえていないようだし。
その時、どよめきが起きた。みんなが見つめている方向にわたしも目をやると……
城壁の向こうに見えた物。
それは……大きな黒い竜だった。竜の目は、こっち……城の方を見据えているよう。ロック鳥も大きいと感じたけど、今わたしの目に映る竜はその比ではない。まるで、一つの山のような大きさだ。離れていても感じる、威圧感。
竜が吠えると、空に大きな黒い渦が立ち込め、隕石が降り注いだ。それは……城壁の外にある街に――。
言葉を失って立ち尽くしていると、そこにロイドとノアが駆け寄ってくる。
「ユーナ様、見つけた! あの竜を倒さないと王都が破壊されてしまう。……俺達と一緒に行ってもらえますか?」
「もちろん……行くよ」
わたしは震える手をぎゅっと握りしめた。
「命の保証は……申し訳ないけどできない。でも、聖女としてのあんたの力は今どうしても必要とされてる」
ノアの表情は険しい。わたしは無言でうなずいた。
「じゃあ、すぐに向かいましょう。シオウも付いてきてもらうとして……。兵達は後で追いついてもらうことにしましょう。……正直言うと、その前に俺たちでどうにかしないとマズイ状況だと思います。ちなみに、今あの竜は、幻獣騎士団総出でなんとか抑えているところです」
ロイドの言う通り、兵士さん達でどうにかできる相手ではないと思う。わたし達は、召喚魔法で城下町の外へ移動した。
辺りは火の海だった。ここに住んでいたみんなは……逃げられたのだろうか?
「魔王……」
シオウが何か呟いた? 竜を見上げたシオウはどこか複雑そうな表情をしている。
その時、ラグレスさん達幻獣騎士団が黒い竜に向かい飛んでいくのが視界に入る。でも……幻獣たちが竜に近付くと、黒い雲が立ち込め、首に巻き付いた。幻獣達は途端に制御が効かなくなり、暴れ出す。
「危ない!!」
何人か振り落とされる。ラグレスさんは辛うじて跨っているものの、タイガは暴れまわっている。首に絡まる黒い雲が原因なら、なんとかならないだろうか!? あれは、わたしが魔物を従える時の魔法に似ている気もする。
わたしはタイガに向かって光の輪を放った。
光の輪が首に重なると、苦しんでいる様子のタイガはさらにもがいた。そして、しばらくすると黒い雲が霧散した。
「やった!」
ラグレスさんとタイガは、そのまま休む間もなく他の幻獣に近寄り、首の雲を断ち切っていった。すると、他の幻獣達も正気に戻ったようだ。
「聖女様、助かりました。あの首に巻き付いた雲には物理攻撃も効くようですので、皆を助けに行きます。ただ……我々ではあの竜に近づけないようです」
「私の剣が届けば、何とかなるかもしれませんが……」
「ええ!? シオウ、いくらなんでも無茶じゃない?」
その時、隣にいたロイドの体が、突然光った。なんだか、見覚えがあるような……そう思った瞬間、ロイドは獣の姿になる。
「ええええええ!? ロイドって変身できるの?」
明るい灰色の毛並みと黄色い瞳で、それがロイドだとわかる。似ていると思った記憶の人物……銀ちゃんとは違って、細い顔立ちとふっさりとした尻尾は、わたしの知っている、狐のような姿だった。
「乗せていただけるのですか?」
「俺は幻獣や魔物とは種族も違うから、恐らくあの雲にはやられないと思う。さ、急いで!」
シオウはロイドにひらりと跨ると、そのままぐんぐん昇って行った。翼もないのに、どうして飛べるんだろう……? 竜の上まで昇った瞬間、シオウがロイドから飛び降りた。
「シオウ……! 危ない!」
見ているだけで心臓が止まりそう! そのまま超人的な運動神経で竜の背中に着地したシオウは、剣を突き立てた。
ガアアアアアアアア!!!!
空気が振動するほど大きな咆哮をした竜は、体を大きく揺さぶった。そのまま、振り落とされるシオウ。このまま落ちて助かる高さじゃない!!
地面すれすれで、ラグレスさんがシオウを掬い上げると、そのまま地面に降ろした。
「すみません、助かりました。ただ……これでは、倒せませんね」
シオウの剣は、折れていた。
シオウの攻撃が効いたのか、竜は地面に降り立ち、怒ったように尻尾を振り回す。それだけでも、建物がどんどんなぎ払われていく。
「もう一度……行きます」
「いや、シオウ。今度は俺達がとどめを刺しに行く」
言ったのはノア。そして、ノアの手はわたしの方に伸びて……
「わ……わたしも行く、ってことだよね」
みんなの視線は、わたしに集中していた。




