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60.クラリッサの一日

クラリッサ視点です。

 嫌になるほど、晴れ渡った空。早朝、私は庭の一角に作ってもらった練習場で、弓の稽古をする。


 最近はかなり冷え込むようになってきたわね。ピンと張りつめた空気の中、集中している時間はとても心地良い。


 稽古が終わると、朝の支度を整えて、メイの作った朝食をいただいた。


「最近、他の街からの旅行者が多いですね」


「それも、すべてユーナのお陰ね」


 ユーナがこの村に初めてやって来た日から、もうかなりの時間が経った。その間にいろいろな出来事があったし、以前とは比べ物にならないくらい、村はにぎやかになったと思うわ。

 一緒に朝食を食べていたお兄様は、ユーナの名前を出すと、ピクリと反応した。でも、その後は何事もなかったように無言で食事を進めている。


 ユーナは、一月間隔で村へやって来る。今回ももうすぐで来るという予定の数日前に、多忙のため村に来るのが遅れると、王都から知らせがあったわ。ユーナが来るのをそれはもう楽しみにしていたお兄様は、その知らせを受けてから、すっかり元気を無くしている。


「さあ、今日も一日、ばりばり働きますわよ!」


 私はお兄様に気合を入れて、外に出た。


 まずは、道路建設の視察……と。近くの町や村との行き来は、だいぶ楽になった。このまま順調に行けば、数年で王都とつながる道路ができるわね。テオとダイアウルフの功績は、とても大きい。お兄様が手懐けたエンクも、人の手では到底できないスピードで、よく働いてくれる。

 働いている皆さんに声を掛けて、私は村の中心に向かう。


 この辺りも、商店や宿屋が徐々に建ち始めている。少ないけれど、移住者も集まってきている。この村に来た当初からは、考えられなかった変化ね。 


 あら……あそこにいるのはお兄様。どうやら、観光客の女性に囲まれているみたい。


 お兄様が女性から声を掛けられている場面をよく見かけるようになった。割と、人気のようなのよね、お兄様。ずいぶんと困っている様子だけど、私に助けを求めている目線には気付かないフリをしましょう。女性の扱いくらい、慣れておいてもらわないとね。


 一通り村を見回った後は、そのまま大壁に向かう。ロック鳥事件は無事に収まったとはいえ、魔物の住む森と隣り合わせなのだから、危険がなくなるわけではないもの。


 今日一緒に見張り番をするのは……スターク。最近王都から派遣されてきた兵士の様だけど、真面目に働く姿をあまり見かけない。


「スターク、昨日もまた、大壁の見張りをサボったとか?」


「やあ。クラリッサ様、今日はよろしく! ……違う違う。オーリさんが腰が痛くて買い物が辛いって言ってたから、手伝ってあげてたんですよ」


 軽薄な感じのする話し方。正直、好きではない人種ね。


「そもそも、俺は兵たちと所属も違うし、この村の防衛とは違う目的で来てる訳だから、そんなにこき使われても困るんですよね~」


(お兄様と私の監視、ということかしら)


「……それでも、割り当てられた仕事はきちんとやってもらわないとこまりますわ」


「もちろん! クラリッサ様と一緒の時は、がんばりますよ~」


「……」

 

 その後数時間、スタークと一緒に見張りをした私は、気疲れして屋敷へ帰った。



「あ、お帰り」


 椅子に座る、のん気なお兄様を見たら、なんだか無性にイライラするわね……。


「お兄様、そんな気構えでよろしいのかしら?」


「な、何だよ突然……」


「このままだとユーナは王都で充実した生活を送り、お兄様や村のことなんかきれいさっぱり忘れてしまいますわよ!」


「……ユ、ユーナはそんな薄情な人間なんかじゃない!」


 お兄様は困っているのに、一度話し始めると止まらない。


「まあ、せいぜい、たまに思い出して立ち寄ってくれる程度でしょうね。ユーナはきっと王都でも楽しく過ごしているでしょうし」


「なあ……クレア、何か嫌な事でもあったのか?」


「……お兄様は、この村でずっと暮らしていくことについてどう思っているの?」


 王都での暮らしとは全く違う生活。すっかり慣れてしまったと思っていたけれど、最近なぜかいろいろと思い出してしまう。村の人たちは優しい、生活に不満もない……けれど……


 けれど。


 黙って考え込んでいたお兄様は、私に悲しそうな笑顔を向けた。


「クレア、苦労をかけてしまって、ごめんな」


「いえ、完全に八つ当たりをしてしまいましたわ……忘れてください」


 お兄様も私も、それ以上口を開かなかった。

 


 それから数日経って、ユーナがやって来た。相変わらず元気そうだけれど……どことなく、落ち着いた雰囲気もするのは、気のせいかしら……?


「ごめん! 決まった日に来れなくて。みんな元気だった?」


「ユーナっ! 会いたかった……」


 お兄様、今にも泣きだしそうね。この前は少し言い過ぎたわ……悪いことをしてしまったわね。


「ユーナ、忙しいんでしょう? オーク村に来ていて大丈夫なの?」


「うん! 早くクレアやアレクスにも会いたかったんだ。ここはわたしの故郷みたいなものだからね!」


 私に向けられたユーナの笑顔は、とても眩しかった。

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