59.うわさの真相
わたしが街を回っていると、ある、あやしいうわさが広まっていることを知った。サンルードの魔物襲撃事件は、誰かが魔物を呼び寄せていたらしいという話だったけど……。もし、それが本当だとしたら、大変な事だと思う。
気になったわたしはいろいろな人に話を聞いてみたけれど、決定的な証拠を知る人には出会えない。本当に、ただのうわさなのかな?
ん? 向こうにたくさん女の子が集まってるみたいだけど、何だろう?
「……カイル!」
女の子たちとたわむれるカイルに会ってしまった。あれだけ大勢を相手にしても、満遍なく笑顔を振りまいて対応しているカイル、すごすぎる。
カイルはわたしに気付き、大きく手を振っている。
「ごめんね、用事ができてしまったんだ。じゃあね、みんな。また話そうね!」
カイルが皆にウインクを飛ばすと、黄色い悲鳴があがる。軽やかにわたしの元へやってくるカイル。
「いやあ、ユーナちゃん、本当にありがとう! すぐに来てくれたんだね」
「あっ、お取込み中なんかごめんね、皆さん大丈夫?」
「うん、ユーナちゃんがすべての優先事項だから」
……こういうこと言い慣れてるな、この男。それ以上は深掘りせず、わたしはサンルードの復興の様子など、カイルと話した。当然、例のうわさの話にもなる。
「ユーナちゃん、情報収集の才能があるね。僕も、何か出所があるのかと思って街を歩き回っていたんだよ」
「有力な情報はあったの?」
「これから、確かめに行こうと思うんだけど、ユーナちゃんも付き合ってくれる?」
・・・・・・
その後、カイルに連れて来られたのは……先日の墓場。
「やっぱり、怖いの嫌なんだけど……!」
「ごめんね~。デートの場所にしてはちょっと趣味悪いよね。でも、今はもう、魔物もお化けも出ない普通の墓場だから、安心して」
「うう……なんでまた、ここに?」
護衛さん達に気遣われながら、魔物が増えた原因だと思われる旅人の墓場に近づいた。
「ん? これは……?」
カイルが何かに気付いて、墓場の近くでしゃがんだ。
「これは、死んだ人間を魔物にするための……呪い系の魔道具みたいだね」
おそるおそる近づいてみると、それはビー玉のようなもの。黒っぽい、濁った色をしているけど……呪い系の話だと思うだけで、禍々しいオーラを感じてしまう。
「魔道具……ってことは、やっぱり誰かが?」
「どう考えても、人の手によるものだね」
「ええー……、何の目的で、誰がそんなことしたんだろう?」
「それは、僕が教えて欲しいくらいだなあ。サンルードの崩壊を望んでいる者も、もしかしたらいるかもしれないということは言えるかもしれないけど」
なぜ!?
「まあ、こんな証拠も出たことだし、調査を進めてみるよ。ユーナちゃん、ごめんね! 苦手なのに付き合ってもらっちゃって。お詫びに、もう一か所だけ一緒に行かない?」
その後、カイルが連れてきてくれたのは、大きな教会のような建物だった。中は特別なところだということで、カイルと二人で入った。護衛さん達は、外で待ってもらっている。
「……すごい!」
建物に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、天井まで届くほどの大きなステンドグラス。様々な幾何学模様と、信仰の対象となっているのか、女神のような女性の絵柄。キラキラと輝いている姿はとても美しく、わたしはしばらく見とれていた。
「ここは、初代聖女、ヒカリ様のために建てられた教会だよ」
初代……この世界にはたくさんの聖女が召喚されていたみたいだけど……一体何年前になるのだろう? なんだか、調べていくほど時系列も……合わない気もするけど。
「少し、座ろうか」
カイルと並んで、長椅子に座る。光が差し込んで、綺麗な影が床に落ちている。
「ヒカリ様はこの街を愛し、発展させたと言われているよ。ユーナちゃんも、いつかそんな風にどこかで祀られるのかな」
「それは……! なんか変な感じがするな」
現在生きるのに精いっぱいだというのに、自分がいなくなった後のことまでは考えも及ばない。
「……ところで、サンルードの首長さんはカイルのお父様だったんだね! カイルも貴族っていうことだよね? いろいろな町を渡り歩いて商売しているから、意外だったよ」
「やっぱり、いろんな地域の可愛い子に出会えないと、もったいないでしょ」
「……カイルらしいね。でも、今回みたいに自分の街が大変な事になっていると、もし遠くにいて知らなかったらと思うと、気が気じゃないよね」
カイルはしみじみと頷いた。
「今回はたまたま近くにいたから、すぐに駆け付けることができてよかったよ。でもね、いろんな地域をめぐっているからこそ、情報を集められるってこともあるんだよ」
「確かに……サンルードみたいに、魔物が現れている場所も、他にあるのかな?」
カイルは少し考えるようなしぐさをして、口を開いた。
「僕が知っているだけでも、いくつか。……ユーナちゃんだから言うけど、共通点があるんじゃないかと睨んでるんだ」
それは、わたしが聞いてもいいものだろうか? でも……カイルが話してくれるということは、知っておいた方がいいことなのかもしれない。
「アレクスの父親が生きていた頃……王になる立場だったけれど、その地位を弟に譲ったんだ。レイヴァル王の父……先代の王ということになるね。それで、アレクスは今は辺境の地にいるけど、そんな過去もあって、いろいろな人間とつながりは多い」
その話は……魔物襲撃と何が関係するんだろう?
「実は、僕の父親とアレクスの父親も、昔からの知り合いなんだよ。アレクスの父親に世話になった地域では、今でもアレクスを慕っているし……もっと言うと、真の王としてアレクスに表舞台に立ってほしいと願っている者達もいる」
真の……王? つまり……レイヴァル様の立場を奪う、ということ……
「誰が絡んでいるのかは正直わからない。でも、そういう『アレクス派』の住む地域が特に被害に遭っているのは事実だ」
思っていたより、複雑そうな話に、頭が混乱する。レイヴァル様を擁護したい者が黒幕なの?
「僕はこれからもいろいろな地域に出向いて、情報を集め続けると思う。ユーナちゃんがどこに出かけても、会える機会は必ずあると思うから……また話せるといいね」
「うん……カイルも気を付けてね」
カイルと約束を交わし、首長さんに挨拶をしたわたしは、その日のうちに王都へと戻った。
・・・・・・
後日……サンルードから、立派な額縁に飾られたわたしの肖像画が送られてきた。首長さんの指示で、いつの間にか描かれていたらしい。
……どうしよう、これ。自分の部屋に自分の顔を飾るっていうのも、どうだろう? ちょっぴり困った心遣いだった――。




