57.熱い夜
お城のとある一室。そこでは秘密の会合が、夜な夜な開催されている――。
集まるのは……城で働くメイド達。『コイバナ』に盛り上がる彼女達の勢いは、留まることを知らない。今日の話題ももちろん、聖女であるユーナが誰とくっつくか。部屋は今夜も熱気で溢れている――。
「王様は、すっかり変わられたわよね」
頷く皆。
「あんなに堂々とされて、最近では剣の練習もなさっているそうじゃない」
「以前は小食の王様にどうやって食事を召し上がっていただくか悩んでいた料理人たちが、今では牛乳料理のレパートリーに苦心しているらしいわ。なんでも、王様から、背が伸びたいから牛乳を飲みたいと希望があったとか」
健気~! 可愛い~! など、皆から感嘆の声が上がる。
「ねえ、王様も変わられたという話だけれど、ノア様の変わり具合だって、すごいじゃない」
「そうね。私、こんなにノア様がお城にいらっしゃるの見たの、初めて」
「明らかに、他の人たちと聖女様への接し方が違うわよね。ケンカしているように見えて、あんなにお話しされているのは聖女さまだけだし」
「図書館によくいらっしゃるのは、やっぱり聖女様にお会いしたいからなんじゃないかしら」
「やっぱり、そうよね~」
「変わられたという点では、シオウ様だって負けていないと思うわ。ほとんど表情を変えられない方だから、一見わかりにくい変化だけれど……元の性格からすると一番じゃないかしら」
「私もそう思う! 聖女様と出かけた後、鼻歌を口ずさむシオウ様をお見掛けしたのよ」
「私が見かけたときは何か考え事をしていらっしゃったのか、壁にぶつかっていたわ。……夢か幻だと思ってすっかり忘れていたのだけど」
部屋中にどよめきが起こる。
「魔法の練習をしているロイド様はどうかしらね? 聖女様と過ごす時間は長いと思うわ。そういえば、聖女様の部屋へ通っているという噂もあるけれど、誰が言い出したんだっけ?」
「私、噂じゃなくて、本当にこの目で見たのよ! 聖女様は慌てた様子だったけど、ロイド様はまんざらでもない様子で否定もしなかったわ」
どよめきはおさまらない。
「はあ、素敵な男性ばかり。一体、どなたが聖女様のお相手になるのかしら……」
「待って待って、定期的に通っているオーク村にも、アレクス様という立派な男性がいらっしゃるじゃない!」
「アレクス様……?」
「ああ、あなたは新入りだから知らないのね。王様の従兄に当たる方で、『炎の騎士』と呼ばれる方よ。何でも、召喚の儀から逃げ出した聖女様を助けたとか」
「それは、仲良くなっていないはずがないわね……」
「聖女様は、行く先々ですぐに誰とでも親しくなりそうだものね。いろいろなことに首を突っ込んでいるでしょうし」
「この城によくいらっしゃる商人のカイル様ともお知り合いのようだったし、聖女様はとことん顔が広いわね」
そこであらかた「聖女様の恋の噂のお相手」が出そろい、彼女達は挙手による投票を行う流れになった。
……のだが。
「あら、ほとんど差がないわね。みんな、ただ単に自分の好みで手を挙げただけでしょう?」
「だって、どなたか一人というには、決定打にかけると思わない……?」
「聖女様のお気持ちが今一つはっきりしないところが、悩みどころよね」
「聖女様は鈍い……というよりは恋愛に無頓着なタイプなんでしょうね」
「わかる~!」
皆の声がハモる。
「だれかに想いを告げられても、『ありがとう! ところで面白いこと思いついたんだけど……』って聖女様が気になっている話題に持っていかれそうだものね」
「せっかく盛り上がったムードも、聖女様なら簡単にぶち壊してそうね」
その場にいる全員、誰も否定する者はいない。皆は一見ユーナをぼろくそに言っているようでいて、その実、深い愛を持っているからこそ熱く語っているのだ。
「でも。どなたを選ぶにせよ、ユーナ様には幸せになってほしいです~」
突然泣き出したのはリリィ。彼女はメイド達のなかでも特に、ユーナを大切に思っているのだ。
「そうよね! 聖女様を泣かせる男がいたら、私がぶん殴っちゃうわ!」
「血の気が多いこと。まあ、私もそんなことになったら、お相手に何かしらの嫌がらせをしちゃいそうだけど」
皆が笑い合う。そこに突然大声が響き渡った。
「あなた達! いつまで騒いでいるの?」
そこにはメイド長の姿。皆慌てて姿勢を正し、申し訳なさそうにしている。
「全く……あまり遅くまで起きていて、明日の仕事に支障が出ても困るでしょう。もう寝なさい」
「はい! 申し訳ございません!」
「……ちなみに私は、ノア様推しよ――ギャップ萌え、上等じゃない」
「メイド長……!」
この場にいる皆は、思いが一つだった。こうして、メイドさん達の夜は更けていく――。




