56.ユーナ、心配される。
王都に戻って数日も立たないうちに、わたしは王の間に呼ばれた。カイルがサンルードを救ったお礼に来たのだ。国の偉い人たちの前で丁寧にお礼を述べているカイルは、なんだか別人のよう。いつもの気楽な服装とは違い、正装で立つ姿は、イケメン具合と相まって物凄く高貴な人間に見える。というか、街の代表としてお礼に来るのだから、本当に偉い立場なのかも。
レイヴァル様との謁見を終え、部屋から退室したカイルを探すと、廊下にその姿を発見した。
「あっ、いた! カイル~!」
わたしが駆け寄ると、いつものカイルに戻ったよう。
「ユーナちゃん! 聖女様! 女神様! 本当にありがとうね」
いきなり抱きしめられる寸前で、うまくかわす。わたしも慣れたものだ。
「そういえば、王様と話した内容、ユーナちゃんにも伝わってる?」
わたしが不思議そうな顔をすると、カイルが続けた。
「あれ、そのために今僕のこと探しに来てくれてたんだと思ったけど、違ったみたいだね。……まあ、王様も明らかに乗り気じゃなさそうだったし、しょうがないか」
「さっきから何? 気になるんだけど……」
「実は、ユーナちゃんに街の復興を手伝いに来てほしいって頼んだんだよ。街はあの通り、ぼろぼろで、みんな希望を失いかけてる。そこに聖女様が来てくれたとなれば、復興を頑張ろうとする皆の力になると思うんだよね」
「それは……ぜひ行きたい!」
「ユーナちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。僕は王都でいろいろ用事を済ませたら、すぐにまたサンルードに帰ろうと思うんだ。ユーナちゃんに余裕のある時でいいから、立ち寄ってくれると嬉しいな。じゃあ、またね!」
約束を交わすと、カイルはすぐに立ち去って行った。この話、レイヴァル様も知っているようなことを言っていたけど……ちょっと相談に行ってみようかな。
すぐにレイヴァル様とお会いする約束を取り付けると、レイヴァル様は自室に招き入れてくれた。宰相様や護衛さんなどもいないので、二人で話すことになったのだけど……
「ユーナさま、ご自身の心配もなさってください。そこまで背負い込んでも大変ですよ。私はサンルード行きには反対です」
「そんな……」
早速、レイヴァル様に反対されている。カイルとレイヴァル様の間での話がわたしに伝わっていなかったのも、レイヴァル様が意図的に留めておいたからだろうと分かる。
「困っている人達を応援しに行くのは、そんなにだめなことですか?」
「聖女としてこの世界に無理やり連れてきた立場の私が言えることではないのは承知しています。でも、起きる事全てに関わっていたら、ユーナさまの身が持たないでしょう……ユーナさまのことを心配している人間がいること、もう少し考えられませんか?」
「わたし、けっこう丈夫ですよ?」
「……頑固者」
レイヴァル様から黒いオーラのようなものが感じられ、わたしは後ずさった。だめだ、完全に怒らせてしまっているようだ……
「あの、じゃあ……復興の手伝いは諦めるので、お見舞いという形で一度行かせてもらえませんか? わたし、落ち込んで前に進めないみんなを勇気付けたいだけなんです」
「……」
「……」
長い沈黙。その後、渋々レイヴァル様が許可を出してくれ、その場は納まった。一度視察に行くだけという約束を破ったら、その時は恐ろしいことになりそうだけど……
・・・・・・
緊迫感から解放されたわたしがふらふらと廊下を歩いていると、今度はノアに呼び止められる。ノアがわざわざわたしに声を掛けてくるなんて……また何か裏があるのだろうか?
わたし達は城の中庭に移動した。
「ロイドは、強かっただろ」
「うん……?」
勝手に裏があるとか思っちゃってごめん……ノア。サンルードでの様子を知りたかっただけなのね、きっと。わたしはその時の戦いについて、詳しく話した。
「……ロイドは危険だ。あまり関わらない方がいいと思う」
「前に話してくれたことだよね。レイラの体にわたしの魂を入れたっていう……わたしにはロイドが悪い人には思えないんだけど」
「俺の話を聞いて、最終的にはおまえが自分で判断することだから、これ以上は言わない。ただ、あいつは何か目的があって禁忌魔法にも手を出しているし、おまえも研究対象の一人として扱われているだろうと思う」
なんだか、ノアの話を聞いても、ピンとこない気がするけど……でも、研究対象というのは、仕方のないことかもしれないよね。何せ、今までとは例外的に召喚されたのだから、どんな能力があるのか、ロイドも知りたいだろうし……
そんなことを考えていると、無言でじっとこちらを見つめてくるノア。いや、むしろこれは、睨まれている?
「あのー……、なんか顔についてる?」
ノアは無言で頷き、わたしの顔に触れた。
「ここ。隈ができてる」
「えっ! うそっ! 恥ずかしい~」
「相当ひどい顔してる」
「うわ! それが女性に対する言葉遣いかよっ!」
「それが女性の言葉遣いかよ」
「……」
言い合いになっちゃったけど、何となくいつものノアに戻った気がして、ちょっとほっとしている自分もいる。
「おまえ、あれこれ首をつっこみすぎてんじゃないの?」
「……それ、レイヴァル様にもついさっき言われた」
「今度は芸術の街復興にも参加するんだって?」
「情報早いね……。お願いしたけど、さすがにそこまで許してもらえなかったよ。今度、ちょっと行かせてもらうくらい」
わたしはレイヴァル様とのやりとりを思い出して、深いため息をついた。
「……ねえ、わたしそんなにみんなに心配されるような行動ばっかりとってるかな?」
「とりあえず、落ち着きは、確実にない」
「ぐっ……でもさ、聖女として期待されていることは何とかしようとがんばってるの、そんなに悪い事じゃないと思うんだけど」
ノアは少し考えるようなしぐさをする。
「……ズレてる。王はおまえのことを純粋に心配してる。大事な人には辛い思いをしてほしくないっていう気持ち、あんたは持ち合わせてないの?」
「そんなことない……! でも、わたしはみんなのことを大事に思う気持ちがどんどん強くなって……全部自力でどうにかしたいとか思っちゃうのが……だめなのかもしれない」
「どうにかしたくても、どうにもならないことは、ある。その時は諦めろ」
乱暴な物言いだけど……わたしを気遣っての言葉だとわかる。
「ありがとう、ほどほどにがんばる」
「おまえのほどほどが世間とかけ離れてないといいけどな」
「それは……ちょっと自信ない」
わたしは、思わず苦笑いしてしまう。
わたしのことを思って接してくれるみんなのためにも、たまには立ち止まって深呼吸する時間も必要なのかもしれない。そんなことを思った一日だった。




