55.サンルードの亡霊
わたしは、ノアとオーク村に行った時の、ロック鳥との戦いを思い出していた。ノアの戦いは相手の弱点を考え、計算された動きを無駄なくする、といった感じだった。
そして、魔導士というのはそういう戦い方をするのだと勝手に思い込んでいたのだけど……
ロイドはノアとはまた違っていた。踊っているようにくるくると動き回り、次々と魔法を放っている。一つ一つの魔法は大きくないけれど、手数が多い。ロイドはノアを先生と呼んでいたけど、なんだか対照的だなと感じる。
わたしもみんなに負けていられない! 魔物を仲間に引き入れるための方法をこれまでの戦いで学んだわたしは、どんどん光の首輪をつけていった。
(これ……わたし、もしかして戦いに役立てるようになってるよね!?)
サンルードに集まっている魔物達は、幸いそこまで強くない。割と簡単に手懐けることができ、味方を増やせば増やすほど、自分を守る盾となってくれる。
「金色の首輪がついている魔物達は、攻撃しないでください!」
わたしは空中で戦う幻獣騎士団の皆さんに呼びかける。ラグレスさん達はわたしのそばにぴったりとついていなくても大丈夫だと判断し、街の様々な場所へ散っていった。その方が間違って味方にした魔物を倒さないように気を配って戦わなくていいので、効率もいいと思う。
わたしが調子に乗って戦っていると、あることに気付いた。
……魔法で従えることができない相手がいる。
その数が多くなってくると、理由が分かってきた。わたしの力は、獣のような魔物に対してしか、効いていない。思い返せば……オーク村では鳥や獣のような魔物としか戦ったことがなかった。ここでは、初めて見る妖のような魔物や、スライムみたいな魔物もいる。
この世界にはまだまだ知らない魔物がいるんだ……。
わたしが自分の力に気付いているのと同様に、ロイドにも観察されていたようだ。わたしが倒せない魔物中心に、攻撃をしている。
「ねえ、ロイド。前にもたくさんの魔物が集まってくる戦いを経験したことがあるんだけど、その時には魔物達を呼び寄せている親玉がいたんだよね。……今は、そういう強そうな魔物が見当たらなんだけど、そういうこともあり得るの?」
「ユーナ様、鋭い! 実は俺も、ここに来た時から、こんなに魔物が集まる原因になっているものを探しているんですけど、まだはっきりわからないんですよね」
うーん。何が原因なんだろう? 突然何の要因も考えられず、街がこういう事態になるというんだったら怖すぎるよね。
「……心当たりあるかも、僕」
話に入ってきたのは、戦いの合間に近寄ってきたカイル。カイルはこの街に住んでいると言っていたし、知識も豊富そうだから、何か分かるのかも!
「2週間くらい前に、一人の旅人がこの街を訪れて……病気で亡くなったらしいんだ。身寄りもなさそうなので、街の外れの共同墓地に葬られたという話を聞いたんだけど……」
「それが……何か関係するの?」
「そういう事件はさほど珍しいことでもないんだけど、それ以来出るという噂が広まり出したんだ。まあ、噂だし、信じている人間もそれほど多くはなかったんだけど、それから徐々に、街中での魔物出没事件が増え始めて……僕が戻ってきた時にはこんな状況になってたという訳」
「う……じゃあ、その墓地に行けば……」
「何か、わかるかも知れませんね」
「カイル、ロイド……そういうの、平気なタイプ?」
二人ともすでに向かう先を決めている様子。わたしは……正直この手の話は苦手。でも、一人でここに残るのも不安だし、付いて行く以外選択肢はなさそうだ。
墓地は街の外れにあった。街の中心からもさほど離れていないので、割とすぐに着いた。……確かに、この周辺に魔物が多いと言われれば、そんな気がしないでもないが、まだ証拠はない。
「……と思ったのだけど、ここ、明らかにヤバいよね」
わたしは冷や汗と震えが止まらない。墓地のある場所は明らかに周りと雰囲気が違い、敷地内に黒いもやが渦巻いている。そして、そこから次々と出てくる魔物達。
「正直、僕は嫌な感じがするくらいしかわからないけどね。ユーナちゃんは魔力にも敏感なタイプみたいだから、見えるんだろうね」
そ、それは全然嬉しくない!!
「あの、やっぱりわたしラグレスさん達に合流しようかな……」
「ユーナ様、ここまで来て調べない訳には行かないでしょう!」
「いっ、いやーーーー!!!」
わたしはロイドに腕を引かれ、墓地に入っていった。
い、息が苦しい……。黒いもやは墓場に入るほど濃くなり、視界も悪くなる。カイルもロイドも、なんでそんなに平気そうなの?
「ユーナ様、ちょっと辛いかもしれませんが、辛抱してくださいね。どこに本体があるか、見えます?」
ロイドの言葉に、目を凝らす。……特に嫌な感じがする場所……
「あ、あそこ!!」
「了解です! ユーナ様、俺の体、よろしくお願いしますね」
「え? えええ?」
それまでわたしの手を引いていたロイドが、急に崩れ落ちる。訳も分からず、わたしは慌ててロイドを抱きかかえた。
「ロイド、どうしたの!!??」
意識を失って抜け殻のようになったロイドから、返事はない。その変わり、わたしが指示した方向に、何かが動いているのが見えた。
「おっと、ユーナちゃん、見たら夢に出て来ちゃうかもよ?」
カイルがわたしの前に立ち塞いで、視界を遮った。このまま何かのはずみで見てしまったら後悔しそうな気がするので、カイルの気遣いがありがたい。わたしは目を閉じて、じっと耐えた。
何かの気配が、墓地からゆっくり出ていくのがわかったが、しばらくして、それはすっと消えた。
恐る恐るわたしが目を開けると、霧が晴れたように、辺りが明るくなっていた。
「……何? があったの?」
訳も分からず呆然としていると、腕の中のロイドが意識を取り戻した。
「ロ、ロイド? これ、あなたがやったの?」
ロイドは頭を押さえながらゆっくりと起き上がる。
「……俺は、魂を操れます。あの死体の中に入っていたのは元々の人間ではなく、強力な魔物だったので、ちょっと戦ってきました」
「え、ええ!??」
説明を聞いてもよくわからないけど、ロイドがすごい力を持っているのだけは理解した。そして、さりげなく死体とか言ってたので、なおさら見なくて良かった。
その後、幻獣騎士団の第2部隊も追いつき、更に魔物退治は加速した。魔物の数は減り、ついに最後の一匹が倒される。
落ち着きを取り戻した今、改めて確認して回ってみると、街の被害は甚大だった。やっと安全になったものの、街の人々の顔は未だに晴れない。
復興にあたる王都からの応援部隊は、あと数日でやってくることになっている。わたしたちは念のため、次の日まで魔物が現れないことを確認してから、王都へ戻った。




