54.サンルードの戦い
一通り準備を終えて、騎士団の詰所に向かうと、獣舎の前にはたくさんの幻獣と騎士の皆さんが集まっていた。見たこともない珍しい幻獣達がそろっていると、迫力がある。
あ、闘技場で見た虎さんだ!
隣では、戦いの支度をすっかり整えたラグレスさんが鞍のような物を付けていた。わたしが来たことに気付くと、説明をしてくれる。
「我々は幻獣を名前で呼ぶことはないのですが、レイラは、この王虎を『タイガ』と呼んでかわいがっていました」
レイラが、名前を付けて幻獣をかわいがっていた様子が目に浮かぶ。
「そうなの……タイガ、よろしくね」
おそるおそる首元を撫でると、大きい猫の様にぐるぐると気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「お姉様……?」
そこへ、恐る恐るといった様子で声を掛けてきたのは、レイラの弟くん。直接話すのは初めてだけど、わたしの見た目でもレイラを感じたんだろうか。
「フィルは私が引き取り、ゆくゆくは我々幻獣騎士団と共に戦えるよう、育てることにしたのです」
ラグレスさんはぽんぽんとフィル君の頭を撫でた。
「そうなの、フィル君、今の生活はどう?」
「うん、幻獣達といっぱい話せるから楽しい!」
「良かった。ラグレスさん、ありがとう」
レイラの願いが、少しでも叶っているといいな。そんな思いでわたしはフィル君を見つめた。
準備を終えたロイドを、先にサンルードに送り、城のお見送りの皆さんに別れを告げると、わたしはタイガに乗って空へ飛び立った。このまま行くと、数時間ほどで着くという。
ラグレスさんはわたしが落ちないように、しっかりと後ろから支えてくれている。
「……本当に、レイラはいなくなってしまったのですね」
ラグレスさんが、呟くように話してくる。
「わたしは、レイラとずっとつながっていたんだと思います。レイラが嬉しかったり、悲しかったりしたときには、わたしも同じ感情になるということもあって。……今は、そういう感覚が消えてしまったんですけど、でも、わたしの中で一つになったように感じているんです。レイラは、きっと、ここにいます」
「そう、ですか。それは……嬉しいです」
ラグレスさんの優しさが伝わってくると、じんわりと私の心も温かくなった。
その後しばらく進み、いよいよサンルードが見えてくると、異様な光景に言葉を失った。
「これは……」
まず目に入ったのが、空を埋め尽くすほど飛んでいる魔物達。街の様子が見えにくいほど、群がっているみたい。タイガがどんどん距離を詰め、勢いよく近づいていくと、海が割れるように魔物達が一斉に避けた。オーク村とは違い、ほとんどの家が頑丈そうな石造りでできている街だとやっとわかる。その建物の外壁も、通りも、いろんな種類の魔物たちで埋め尽くされていた。人通りは全くといっていいほどない。外に出ているのは兵士らしい人達。なんとか戦っては逃げ、という感じだ。
「これは……すごいですね。なんで、この街にこんなに魔物が集まってるんでしょう?」
「今は何とも言えませんが、直ちに討伐しないといけない状況なのは確かですね」
タイガは街に向けて急降下しながら、口から光る玉のような物を数個吐き出した。その玉に当たった魔物達は、しびれたようにどんどん動きを止められていく。
(雷の……ボールみたいな物?)
タイガに乗ったまま、ラグレスさんは剣を構え、次々とタイガが封じた魔物達を薙ぎ払っていった。
タイガに続いて、降り立ってきた他の幻獣達も、それぞれ魔物達を相手にしている。幻獣という存在がどういうものか詳しくはわからないけれど、目の前の彼らは魔法を駆使し、ものすごい身体能力で戦っていた。
「すごい……!」
「幻獣騎士団は少数ですが、幻獣一頭でも兵100人以上の働きをすると言われていますから、これくらいの魔物の数でもどうにかできるでしょう」
ラグレスさんはそういうものの、やはり数が多すぎるのできりがない。それに、わたしが乗っていることで、ラグレスさんもタイガも本来の力を出し切れていないかも……。落ちないようにしがみつくのが精いっぱいで、わたしも今のところ役立てていないし。
その時、こちらに手を振るロイドを発見した。
「ラグレスさん、わたしをあそこに降ろしてください!」
わたしは地面に降ろしてもらい、先に来ていたロイドと合流することができた。
「ロイド、大丈夫だった?」
「思ったより、状況はひどいですね。ユーナ様は俺と一緒に魔法で来ていなくて良かったですよ。結構、すでにばててますから」
ロイドは魔法を放ちながら今までの報告を簡単にしてくれた。わたしもロイドの隣で光の首輪を放ったり、ロイドの魔法を増幅させる手伝いをしたりした。
しばらく戦っていると、建物の影に人がいるのが見えた。街の人だろうか?
「そこの人ー! 出歩いていると、危ないですよー!!」
「……そこにいるのは……ユーナちゃん!」
駆け寄ってきたのは、見知った金髪イケメン!
「カイル!? この街に来てたの?」
「ああ、ここは元々僕の住んでる街だよ。たまたま帰っていたら、この状況だからね。こんな地獄のような状況で、まさかユーナちゃんに会えるとはね……」
さすがのカイルも、こんな状態では余裕がないみたい。話もそこそこに、大きな荷物を持ち運んで、何か着々と準備を進めている。
「よしっ!」
カイルが、大きなボールのような物を、魔物の群れに投げ込んだ。勢いよくバチバチと音を立て、その後煙が立ち込める。これは……花火!? 多くの魔物は混乱して建物にぶつかったり、落下したりしている。そして、恐らく、その状況を予想して張り巡らされていた網がぐいっと引きあがると、たくさんの魔物がその罠にかかった。
「僕は魔法が使えるわけでも剣を持って戦えるわけでもないけど、魔物の特性を知って手助けはできるよ。ずっと隙を見ては魔物を減らしていたんだけど、それでも限界に近かったから、王都から救援が来て助かったよ」
「カイル! すごいね」
その後も、わたし達は協力して、ひたすら魔物を減らしていった。




