50.レイラの一歩
「……でね、どう考えても何かあると思うんだよね、レイラの家族」
「はあ、そうですか」
わたしは魔法練習の後、ロイドの耳をさわさわしながら先日の出来事を話している。
「だからさ、レイラにいろいろ聞きたいんだけど、最近ぜんぜんあの夢を見ないんだよね。ロイド、お願いなんだけど、また夢の中に来てくれない?」
「えー……あのバカ犬に会うの、嫌だなぁ。それに、夢を見なくなったっていうのは、良い事に思えるんですけど」
「お願い! このままレイラが無念のまま消えてしまったら、かわいそうじゃない」
「うーん。まあ、いいですけど。ただ、夢に入ってからはユーナ様が自分でなんとかしてくださいね」
「それは、もちろんですっ!!」
わたしが訴えた結果、ロイドはしぶしぶ了承してくれた。
・・・・・・
早速その日の夜。わたしの部屋にロイドが来てくれている。以前したようにロイドがわたしに触れることで、また夢の中へ入り込んでいった。
夢に入ると、すぐ目の前に現れる一人と一頭。
「あっ、銀ちゃん。久しぶりだね!」
「おい、その変な呼び方をおれに向けて使ってるなら、今すぐやめろ」
「だって、名前知らないし、銀色だし」
今日は獣姿でいる銀ちゃん。人間の時と、どっちの姿が本来なんだろう?
「……ちっ、ソウルだ!」
あ、名前教えてくれた。わたしは、思い切って願いを伝える。
「お願い、銀ちゃん。今日だけでいいから、夢を終わらせないでほしいの」
「……マジで話聞いていないだろ」
銀ちゃんはイライラしていたけれど、しばらくしても強制的に目覚めることはなかったので、わたしの願いを聞き入れてくれたのかもしれない。
(よし、今日はちゃんとレイラと話そう!)
「レイラ、わたし、レイラのお家へ行ってみたよ」
レイラはわたしをじっと見つめている。
「レイラは前に夢で会った時、何か望んでいたよね? わたし、ちゃんとレイラと話したい」
「……」
そこで銀ちゃんが口をはさんできた。
「落ち着いてきた魂をあんまり揺さぶると……体の中でけんかするぞ。そうなったら、どちらの魂も壊れてしまう。そもそも、別な人間の体に魂を入れるっていうこと自体がおかしいんだ……キツネ、お前のしたことを俺は許さないからな!」
「なんでお前の許しがいる? 今さらユーナ様の魂を追い出すことだって、一人の人間の存在を消すことになるだろ?」
言い返すロイドはなんだか少し怖い。二人はやはり今回も一触即発といった感じだ。そこで、今までだまっていたレイラが話し始めた。
「ソウル様、大丈夫ですわ。私はもう全てを諦めたので、このまま連れて行ってください」
(そんな!)
「レイラ、このままでいいの? 本当に消えちゃっていいの? 何か心残りがあったんでしょ!?」
「……私はずっとこの暗い世界から、狭い窓の景色を覗くようにユーナを見ていたわ。ただ、見ていることしかできなかったけれど……なかなか面白かったわ。ユーナの、どんな状況も自分の力で切り拓く姿……私には真似できないもの」
「そう思うならなおさら、一緒に出来ることを探そうよ!」
今もこうしてレイラと話せている、例え夢の中だけでも存在しているなら……少しでも可能性を探りたい! わたしはここに来るまでに考えていたことを質問する。
「……銀ちゃん、あなたならきっとできると思うんだけど……わたしとレイラのいる場所を交代してほしいんだけど、どうかな?」
「そんなこと……許されるはずないだろ!」
「……つまり、許されてはいないけど、不可能ではない、ということだよね?」
「ぐっ。でもな、レイラは元々死んでるんだ。元の体に入れたとしても良くて一日! そんなことしても何も意味はないだろ」
よしっ! 銀ちゃんのおかげでいろいろ分かったぞ。
「それ、採用! レイラ、わたしと、一日交代しよう。レイラ、やれることは精一杯やろう!」
「私は――……」
レイラの瞳は、大きく揺らいだ。
・・・・・・
彼女の部屋で目覚めた私は、あまりの眩しさに目を細める。久々に感じる、朝の光。
(そう……確かにこれが生きているという感覚だったわね)
「……君は、レイラだね。ははっ、ユーナ様、本当にやったんだ。……それで、君は何をしたいの? まさか、ユーナ様が代わってくれた隙に、自分の体を取り戻す方法を考えようとしているとか?」
隣で私に話しかけるのは、ロイド様。……そうか、これが声を聴く……ということだったわね。わたしはゆっくりとこの世界に戻ったことを噛みしめていた。
「ロイド様、まさか。でも、ユーナにせっかく貰った時間、無駄にするつもりはありませんわ」
私はダークブロンドの髪をかきあげた。
私が行動するにあたって、侍女達や護衛の方など、どうしても私と接触する機会が多い者には、ロイド様が簡単に説明をしてくださった。まあ、当然よね。見た目も『ユーナ』とは全然違うもの。特に、シオウ様は明らかに動揺してロイド様に詰め寄る寸前だったし……
「シオウ様、私の願いが叶えば、ユーナを必ずこの世界にお返しすることを約束いたしますわ。……どうか、グレンフェルの屋敷へ連れて行っては下さらないでしょうか?」
「……承知致しました」
昔、遠目に見たことのあるシオウ様は、一切感情を表に出さない人形のような方だったと記憶している。でも、私の目の前にいるシオウ様は、不安そうな表情を隠すこともない様子。きっと、ユーナが戻って来るか心配しているのね……ここまで人を変えさせる力があるとは、やはりユーナには敵うはずがないわね。
そんなことを考えながら城を出たところで、誰かが立っているのが視界に入る。まさか……!?
私の心臓はドクンと跳ねた。
「ラグレス様!?」
久しぶりに見るラグレス様。なぜここに……? 何か言いたくても、言葉が出ない……私がずっと黙っているので、変に思われたのではないかしら……でも、ラグレス様も何もお話しにならないわね……? ぐるぐると考えていると、ラグレス様が口を開く。
「レイラが戻っていると、ロイドが教えてくれたんだ。……また、会えるとは思わなかった」
「私も……ですわ。もう、二度と会えないと思っていました……」
これ以上話すと、涙がこぼれてしまいそう。
「今のレイラに残された時間は僅かだとも聞いた。こうしている時間も惜しいだろう?その……私も、一緒に行動させてはもらえないだろうか?」
ラグレス様にそんな言葉をかけてもらえるとは思わなかった……。今までの私だったらあまりにも畏れ多くて断っていたと思う。でも、今はユーナがくれた大切な時間……
「ええ……とても、嬉しいです。一緒に、来ていただけますか?」
私はグレンフェル家へ向けて、一歩踏み出した。




