48.騎士団祭り~ノアと一緒~
祭りの夜。わたしは華やかなドレスに着替え、お城の大広間にいた。今は晩さん会の真っ最中。レイヴァル様と約束したから参加したものの、お城に呼ばれるほどの身分の高い人たちに囲まれ、非常に気疲れしている。せめてもの救いは、気を張ってさえいればそれなりの所作が身に付いていること。わたしは人生において貴族の集まりなどに参加したことはない。この世界で話せたり文字が読めたりするのと同じように、きっとレイラのお陰なんじゃないかと思ってる。
「疲れた……出店でフルーツ飴食べといてよかった……晩さん会では緊張して何も食べた気がしない」
わたしは会場の隅に置かれている椅子にひっそりと座っている。
それにしても、レイヴァル様は成長したなあ。皆の前で笑顔を絶やさず挨拶を続ける姿を見つめる。はじめのうちはレイヴァル様の横についていろいろな人に挨拶していたけど、それだけで疲れてしまった。
わたしは手に持つ、小さな青い宝石を眺めた。宝石にはチェーンが付けられていて、ペンダント状になっている。さっき、本当に少しだけ、二人で話せる時間があったときに、レイヴァル様がくれたものだ。
「これは、歴代の聖女が身に付けていたといわれる宝石です。ユーナさまが持っていてください。これは、聖女様を正しい未来に導くとされているんですよ」
レイヴァル様はそう言っていたけど、正しい未来とはどういう意味なんだろう?
気を抜いていると、いつの間にか見知らぬ男性がわたしの目の前に立っている。
「聖女様、この後、私と一緒に踊っていただけませんか?」
ひぃいっ! ダンスとか、さすがにできる気がしない! というかこの人誰だっけ? さっき挨拶した人かな……
「すみません、私、ダンスといったことに不慣れなものでして。他の方をお誘いになってはいかがでしょうか?」
「そうですか。では、二人でテラスに涼みに行きませんか? 聖女様とは一度ゆっくりとお話ししたいと思っていたところです」
けっこう食い下がってくるなこの人!
どう答えようかと悩んでいると、別方向からも声が掛けられた。
「悪いな、今夜は聖女様は先約があってな」
(今度は誰?……)
「えっ!? ……ノア? なの?」
わたしの目の前に立つ姿は、誰だか一瞬わからなかった。いつものぼさぼさの髪はきっちり整えられ、刺繍が施されていかにも高級そうな黒いローブを身にまとっている。
……っていうか、何なのこのイケメン具合は!?
確かに前々から顔は整っているとは思ってたけど、ここまで装っていると別人のようなんだけど! 全体に黒っぽい服装でシックなことは変わりなかったけど、衣装がノアの紫色の髪と瞳にとても合っていて、周りの人とオーラが違う。まだ何か言いたそうな男性を尻目に、ノアはわたしの肩に手を回し、その場から離れた。
「……何、その目は」
はっ、ついガン見してしまった。
「えっ、いやあ……こういう場所にもノアが来るんだなと思って」
「仕方なくだよ」
屋外に出て少し歩くと、キャーっという騒ぎの後、若い女性たちが集まってくる。
「ほら、ずっとあれだから」
「……大変そうだね」
(前に図書室で人だかりができていたのも、同じような理由だったのかも……)
「ずいぶんサービスしたから、もう充分だろ」
そこで、ノアが何か唱える。今まで何度も見た、移動用の召喚魔法。
「良かった、おまえの力使おうと探してたんだ」
「やっぱり……そうなりますよねー!!」
・・・・・・
わたしとノアは、一瞬で城壁の外の街に来ていた。ここも城下町ほどではないけど、お祭りの雰囲気が漂ってくる。
「うう~、また連れて来られてしまった」
「おまえだってつまんなそうにしてたから、抜け出せてよかっただろ」
「それにしたって、こんな姿で来たら目立つでしょ」
「そうでもないだろ。今夜に限っては」
ノアに促されて辺りを見回すと、周りの人たちは騎士や貴族など、思い思いの仮装をしている。
「そっか、今日は特別な日なのか」
その後、あれよあれよという間にノアに連れて来られたのは、前に一緒に来たことのあるオープンテラス。今日は夜遅い時間だけど、たくさんのお客さんが集まってお祭りを楽しんでいる。
開いている席に座らされて待っていると、ノアが飲み物を持ってきてくれた。そばにいた酔っ払いの皆さんと乾杯をして、一口飲んでみる。
「これ、桃の味みたい……おいしい!」
「やっぱり酒を飲むなら、こういう場所に限るよな」
ノアは周りのお客さんに話しかけられるたび、軽口を叩いて笑い合っている。
「前から気になってたけど、ノアはなんでこの街の人たちと仲がいいの? 昔住んでたとか?」
「まさか。ルドウェア聖領出身の俺は、最初から貴族扱い」
「ノアは、嫌なことがあると、ここに来るよね~。私達の優しさを逃げ場にしてるのよ」
「最近はめっきりだけど、昔はここの集落の子どもたちに、勉強を教えに来てくれてたこともあったんだぜ」
周りの人たちが、どんどん会話に参加してくる。
「へえ、ノアにもそんな時代があったんだね」
「はいはい、うるさい。お前らあっちで飲んでろよ」
「はーい、お邪魔な私たちは消えまーす! あははは」
(……酔っ払いの会話だ)
ノアはしばらく静かに飲んでいたけど、わたしに向けて話し始める。
「前にも言ったけど、俺は、あんたをこの世界に召喚することに反対していたし、今もその気持ちは変わらない」
「……うん」
「今までも、この世界に連れてこられたことを憂いて、多くの聖女と呼ばれぬまま消えていった女達がいる」
「そういえば、そのまま召喚されると、言葉も通じないんだったよね」
(無念のまま歴史上に消え去っていった人たちを思うと、気持ちが暗くなるな)
「あんたは何を目指す? 見ず知らずのこの世界を守りたい? それとも……こんなことになった復讐?」
「え? ……うーん」
どちらも違うな……
「この前、ノアと話してから、ずっと考えているんだけど……」
わたしはノアに貰ったお酒をぐいっと飲み干す。
「やっぱり答えは出ないし、今後出るかもわからない!」
「潔いねー」
「でもさ、こんな風にノアと楽しくお酒飲む日が来るなんて考えてもみなかったじゃない? 明日にはすごく辛いこともあるかもしれないし、聖女やめたいって言ってるかもわかんないよ? ……でもさ、今はこの世界のみんなと一緒に、少しでも長くいられたらなって思っている」
「わかった。つまり、バカなのか」
「なんでそうなるの!? わたしのいい話聞いてた?」
その時、歓声が上がる。どうやら、生バンドの演奏が盛り上がったところだったみたい。聴いたことのないような、それでも懐かしいようなメロディーが響いている。
喧噪の中、ノアは静かに酒を飲み、それでも音楽に耳を傾けているみたいだった。いつもと違う姿のノアに、つい見惚れていると……なんだか楽しそうに見えるのは気のせい?
先のことが見えなくても、少なくとも今、わたし達は一緒の時間を幸せな気持ちで過ごしていた――。




