47.騎士団祭り~シオウと一緒~
しばらく闘技場で試合を見ていたけれど、レイヴァル様は次の予定があるようで、行ってしまった。レイヴァル様はかなり渋っていたようだけど、わたしと晩さん会でまた会う約束をすると、半ば強引に連れていかれてしまった。……急に暇になる。
そういえば、出店があるって、リリィが言ってたっけ。お城に帰るついでに、寄っていこうかな。
「聖女様、まさか、オーク村の様に自由に単独行動できると思っておられるのですか?」
聞き慣れた声……いつの間に! 闘技場にシオウが来ていたのは見かけなかったけど、わたしが動き出そうとするとすぐ、後ろから声を掛けられた。
「あっ……まさか~! シオウか誰かに、街へ連れて行ってもらえないかと思って、探していたところ! ほんとほんと!!」
慌てて取り繕っても、やっぱりシオウには完全にお見通しの様子。だめか。街のお祭り……楽しみだったけど。
「……この後晩さん会の準備もありますし、一時間、ですよ」
「えっ!?」
まさか、許してもらえるとは思わなかった。驚いて固まった表情のまま、歩き出したシオウに付いて行く。
・・・・・・
街の中は、いつも以上に大勢の人でにぎわっていた。広い通りにはどこか違う地域からやってきただろう露店が所狭しと立ち並び、物珍しい品物が売られている。
「なんだか、王都にいるとあんまりシオウに会えないね。久しぶりに一緒に歩いている気がするな」
「はい。祭りが近く、準備に追われていましたので」
「……ご、ごめんね。そんなに忙しいのに」
「いえ、前にもお話したと思いますが、聖女様をお護りするのが最優先ですので」
「ありがとう、シオウ。……それでね」
わたしは周りを見回す。シオウはわたしに配慮したのか、ものすごい殺気を振りまいて護衛してくれている。そのせいで、わたし達二人の周りだけ人が避けて空洞の様になっている。物珍しそうに見守る人、泣き出す子ども……中には、遠巻きに拝んでいる人まで見える。
「大変言いにくいんだけど、お願いだから、普通に護衛してほしいな」
シオウは不思議そうにしたが、結局わたしの言う通りにしてくれた。やっと気楽に見物できるようになったわたしは、見たことのない珍しい品物がたくさん売られている出店に近寄った。
「すみません、これは何ですか?」
「いらっしゃい! お客さん、お目が高いね。これは東の国で作られた、香炉だよ」
「へえ。いい香りがする。素敵だね~、ね、シオウ」
「ユーナ様が気に入っていらっしゃるのであれば、店の物全部購入いたしましょう」
「いやいや! おかしい、金銭感覚おかしいって!」
何度かそんな会話を繰り返した。最初はシオウがふざけているのかと思ったけど、本人はいたって真面目に対応してくれているみたい。その度にわたしは全力で丁重にお断りするはめになった。
「欲しい物ってさ、簡単に手に入らないからこそ心に残る、ってことあるじゃない。……それでね、わたし、オーク村で野菜の直売所を開設してみたんだけど」
「……はい?」
「売り上げの一部をね、サイラスさんが分け前としてくれたの。やっぱり買い物は、自分で稼いだお金を使うから喜びが増すと思うの! シオウ、今日だけ特別に何か一つくらいならおごっちゃうよ~」
このために持ってきていた小銭入れをシオウの目の前で見せびらかす。……まあ、今は精一杯稼いで小銭程度なんだけど。
「いえ、聖女様にお金を出してもらうなど滅相もございません」
「シオウが畏まるほどたいした物は買えないよ? ほら、村でもたくさん働いてもらったし、りんご飴一個ぐらいいいでしょ?」
「私のような者にそのような気遣いは無用です」
「ええ~、シオウってそういうところお堅いよね。お祭り一緒に楽しみたかったのに、残念」
「……」
その時、異質な光景が目に飛び込んでくる。
『ベニキンすくい』
でかでかと赤い文字で書かれた看板と、水の張ったプールのような容器。その中には、紅い小さな魚がたくさん泳いでいる。魚は見慣れないものだったけど、その光景はどう見ても、わたしの知っている金魚すくいそのものだった。
「ねえ、これ、シオウと一緒にやりたいな。ここだけ、わたしのおごりでさ」
「……ありがとうございます。ただ、もしもこの魚がとれましたら、聖女様に差し上げます」
ついにシオウが折れた。店主さんにポイ(のようなもの)と容器を受け取ると、わたし達はベニキンと真剣に向き合った。ベニキンなる魚は、思ったより素早い。わたしはそのうち一匹が水面近くに留まった瞬間を見逃さず、瞬時にすくい上げた。
……と思ったのだけど。
「ああ~……逃げられちゃった! ポイも破れちゃったし、難しいな。シオウはどう……」
横のシオウに顔を向けると、手に持つ容器には溢れんばかりのベニキン……
「えっ? すごっ」
「この出店はなにを目的としているのでしょうか? 見たところ食用でもないようですし、観賞用だとしたら、このような捕り方をして弱らせるのもどうかと思いますが。まあ、聖女様が欲しいとおっしゃるのであれば、全部捕獲しますが」
涼しい顔で更に続けようとしたシオウを止め、店主さんと相談してベニキンを2匹だけもらった。射的やスマートボールに似た出店もあったけど、似たような事態になることが目に見えていたので、諦めて素通りした。
その後、わたし達は、大通りに設置されたベンチで、フルーツ飴を食べている。
「りんごに似ているようで、ちょっと違うんだよな~。やっぱり、この世界の食べ物って興味深い」
「このような庶民的な味もまた、親しみがあってよいですね」
まだまだ気になる食べ物は売っていたけれど、時間もないし、食べきれない。祭りが明日までだと聞いて、少し残念な気持ちになる。さすがに、もう一回は来れないだろうし……それでも。
「やっぱりお祭りって楽しいね! シオウと来れて、良かったよ」
あれ? シオウの動きが止まった気がする。
「聖女様は……私と一緒でも楽しいと感じるのですか?」
「えっ!? もちろん! ……そりゃあ、シオウとしては忙しい中わたしに付き合ってくれて大変だっただろうけど」
「いえ、私は。……私も、楽しいです」
シオウからそんな言葉が出るとは思わなかったので、びっくりしてしまう。
「……私はこのように人と接する経験もなかったものですから、聖女様といるといつも予想外のことばかりです」
「ええと……? お休みの日とかは何をしているの?」
「城で働いてからは、休みというものはありませんね。休息以外、特に必要とも感じませんので」
シオウの話によると、ただひたすら仕事をして生きてきた人なのかもしれない。友達や恋人と過ごす時間はなかったの……? などとはちょっと聞けない。
「何か感情を持って生きてこなかったのかもしれません。……聖女様とは、真逆ですね」
「そんなことは……」
「さあ、時間です。城へ戻りますよ」
シオウが差し伸べてくれた手を取り、立ち上がった。
確かに、シオウと初めて会ったときは機械的だと思ったけど、知れば知るほど、わたしのことを考えて動いてくれていることがわかった。自分では感情を持っていないと言ってるけど、表情に現れにくいだけで、とってもやさしい人なんじゃないかな……。
「シオウ、これからもいろんなこと、付き合ってくれる?」
「はい、もちろん」
わたし達は、二人並んで城へ歩き出した。




