45.希望の星
鍛錬場に一人でいたわたしは、思わぬ二人に出会い、驚いていた。
レイヴァル様と、幻獣騎士のラグレスさん。
わたしはロイドと魔法練習した後、今日はなんとなくここに残っていた。……これは、ラッキー! 鍛錬場に入ってきた二人は、早速わたしに気付いたようだ。
「ユーナさま!」
きらっきらの笑顔で駆け寄ってくるレイヴァル様と、遠くから深々と礼をするラグレスさん。
「こんにちは。レイヴァル様をここでお見掛けするのは初めてですね!」
「剣を……ラグレスに教わっているのです」
(レイヴァル様が剣の練習!? 勝手なイメージで、お花を愛でることはあっても、体を動かすようなことはしないと思っていた)
「いつまでも守られているばかりでは、不甲斐ないですから。それでも、まだまだ何もできないのですけど」
最近のレイヴァル様はいろんなことに挑戦しているんだと思う。どんな練習しているのか、気になるな。
「……あの、お邪魔でしたらすぐに帰りますが、もしよろしければ、二人の練習の様子を見せてもらえませんか?」
わたしは二人の了解を得て、少し離れた場所に座った。剣を構えて向き合う二人。
こうして見ていると、レイヴァル様の剣の構えも様になっているような……素人だから詳しいことはわからないんだけど。そして、ラグレスさんの方を見ると……やばい! 恰好良すぎる!! 幻獣騎士団というものがどういう仕事なのかわからなかったけど、騎士というだけでオーラが違う。全然動いていないけど、隙が全く無い。そして、相変わらずドキドキが治まらないのはなぜだろう?
一人、こっそり心の中できゃーきゃーしていると、レイヴァル様が動いた。ラグレスさんに向かって踏み出した。……と思った瞬間、ラグレスさんがすっと横に移動する。レイヴァル様はバランスを崩しつつも、次の攻撃に転換する。
「感情で動いてはいけません」
レイヴァル様の剣を容易く止めたラグレスさんは、そのまま押し返した。その勢いでレイヴァル様は尻もちをついてしまう。その後、レイヴァル様は何度も攻撃を仕掛けたけど、簡単に受け流されてしまった。
「すみません、加減をしたのですが」
「……いや、まだまだ力の足りない私が悪い」
しばらくして練習が終わると、わたしは二人のそばに近寄った。あれ……レイヴァル様の腕……
「レイヴァル様、血が出てますよ」
「練習用の剣なので、大した怪我ではないです。平気ですから」
レイヴァル様はそういうけど、やっぱり血が出ているところは痛々しい。わたしはレイヴァル様の腕をとり、回復魔法をかけようと念じた。
「ん?」
アレクスを直した時にも発生したオレンジ色の光は、レイヴァル様に届く前に、ふっと消えてしまった。
「魔法で、治そうとしてくださったんですね、ありがとうございます」
「ごめんなさい、うまくいかないみたいです……前は、できたんですけど」
「気にしないでください。私は魔法が全く使えません。その代わり、魔法が効かない体質なのです」
「え! そんな体質も存在するんですね」
話しながらレイヴァル様の手の平に目が行くと、今日できたものではないようなマメや傷がたくさんついていた。レイヴァル様、無理してるんじゃないのかな……?
そう考えていると、レイヴァル様と目が合う。表情からは気持ちが読み取れないけど……
「ユーナさま、私は貴女に、自分の意志で行動することの大切さを教えていただいたんです。今は格好悪いかもしれませんが……絶対に、強い人間になりますから」
そう言ったレイヴァル様の眼差しは強い。気付かなかったけど、レイヴァル様もどんどん前に進んでいるんだ。今日は驚いたけど、貴重な時間を過ごせた気がした。
・・・・・・
その日の夜――。わたしの部屋にレイヴァル様の使者がやってきて、訳も分からず連れ出された。連れて来られた場所は……屋上庭園? 城の一角にこんな場所があるなんて、知らなかった。いつもレイヴァル様と会っている植物園もそうだったけど、天井はガラスのようなもので覆われているみたい。
そこにはレイヴァル様が待っていた。薄暗い庭でぼんやりと光りを放っているかのようなレイヴァル様を見ると、まるで妖精のようだと思った。
「突然、呼び出してしまい申し訳ありません。でも、今日は特別に空がきれいな夜だったので、ユーナさまと一緒に見たかったんです」
「あ……誘っていただいてありがとうございます! 前に約束したの、覚えていていただいて嬉しいです」
どうやらここは、レイヴァル様が天体観測をするお気に入りの場所のよう。改めて星空を見上げると、びっくりするような美しさだった。
「わあ、本当に空が良く見えますね!」
「星空はこの世界の未来を予言をしていると言われています」
「星占いみたいな感じですかね? この国で有名な星座はあるんですか?」
「星座とは、星の並びのことですか……? 国民は祭官のように星が読めませんし、季節により配置が変わるので、覚えられませんが」
「ええと……? でも冬には冬の星座ってあるじゃないですか?」
「ユーナさまの世界では、星空の配置は次の年になっても変わらないのですか?」
えっ! まさかの、宇宙の存在を根底から覆す世界観!? 余りの認識の違いに、よくよく話を聞いてみると、この世界の星々はその季節の間、空に張り付いたようにずっと同じ位置で輝き、季節の境目で更新されるそうだ。星読みの祭官はその度に大きく変わる星の配置を研究し、規則性を見出す仕事をしているらしい。
「不思議~……その、切り替わる瞬間がとっても気になります。わたしにも、星を見てわかる未来はありますかね?」
「大昔から星読みだけに受け継がれている知識なので、簡単に身に着くものではないと思いますよ。あっ、でも……」
突然レイヴァル様の顔が触れるほど近寄り、天の一か所を指差した。
「あの星、『天標星』だけは、どんな時期でも、年でも、ずっと夜空に輝く不動の星なのです。これはどの人間も知っています。迷った時には、あの白く輝く星を目指すとよいと言われていますよ」
「そ、そうなんですね……」(レイヴァル様、近すぎ!)
あまりの近さに勝手にドキドキしてしまったけど、レイヴァル様は気にしていない様子。そのままわたしの方に向き直り、言葉を続けた。
「ユーナさまと過ごす時間は、いつも楽しいです」
「あのっ、ありがとう、ございます。わたしも楽しいです!」
「しばらくすると、この国の祭りがあります。ユーナさまもきっと楽しめると思いますよ。必ず、お誘いしますね」
「えっ! お祭り……一緒に見られるなんて楽しみすぎます!」
そのまま、自然にレイヴァル様に両手を握られる。その手は、思っていた以上に力強く、温かく感じた。




