43.故郷の味
すっかり元気になったわたしは、体が動くようになるとまた何かしたくてうずうずしてきた。それでも、みんなに厳しく止められて、散歩程度にしか外に出させてもらっていない。今は心配されることもないほど元気なんだけど、それでまた万が一体調を崩しても迷惑をかけるだけなので、大人しくしている。
今日は天気もいいので、数時間だけ、散歩がてらダイアウルフ達を連れ出して遊ばせる予定。外に踏み出したわたしは、いつもと空気の違いを感じた。
「ん……? なんだか、風が冷たい気がする」
「もう、夏も終わりですから。また体調を崩してもいけませんから、屋敷に戻りますか?」
後ろに控えるシオウから声が掛かる。
「あっ、全然大丈夫! 寒かったらすぐ戻ります!」
この世界の季節感はどうなってるんだろう。そもそも、地球と違う場所なんだろうから、一日や一年の感覚だって、もしかしたら違うのかもしれない。
でも、この心地よい爽やかな風と雲の様子は、わたしの知っている秋に近いと思うな。
そんなことを考えて歩いていると、見晴らしのいい丘の上に来た。ダイアウルフ達を放つと、嬉しそうに駆けまわっている。いつも働いてくれるから、今日はちょっとしたお休みだ。
わたしは持ってきた敷物を広げた。
「ささっ、シオウも座ろう」
最近のシオウは何かを諦めたのか、こういうわたしの言動に黙って従うようになってきている気がする。敷物に並んで座ると、籠いっぱいのお菓子も取り出す。
「さぁ、今日もいっぱい持ってきたよ~!」
ぱくぱく。
「あっ、この焼き菓子、とっても美味しいね! ……そういえば、この前アレクスに知らないお客さんが会いに来ていた時があったよね。聞いても、誰なのか教えてもらえなかったんだけど」
「これはクルルーの卵を使っているので、味も濃厚なのでしょう。……アレクス様に近づいているのは周辺地域の貴族の方たちでしょう。アレクス様は身分の高いお方ですから」
「出たっ! クルルー!!」
レイヴァル様達と一緒に行った食堂で食べた鶏肉もクルルーだったよね!?
「『クルルー』なる生き物を、一目見てみたいなあ……それにしても、アレクスはレイヴァル様の従兄だという話だから、いろんな人との関りが多いのかな」
そこで、シオウのお菓子を食べる手が止まる。
「あまり、いろいろなことに無謀に首を突っ込んでいると、また余計なことに巻き込まれますよ」
「うっ、ただ気になっただけで、まだ何もしてないじゃない……」
「今、確実に何か企んでいそうな顔をしていたっしゃいましたが」
「……今日のシオウ、なんだか厳しいです……よ?」
「前々から言わせてもらおうと思っていたのですが、城を勝手に抜け出すのもいかがなものでしょう?」
「ぐっ!! ゲホゲホ……」
食べていたお菓子がのどに詰まり、慌ててお茶で流し込む。レイヴァル様と街に行ったの……バレてるっ!! しかも、知ってて今までだまってたの? 冷や汗が止まらない。
「でも何事もなかったし……ねぇ、はは、ははは」
「聖女様が行動なさる度に何事かあるようでは、国家緊急事態が乱発されますね」
静かに怒っているのか? 気まずくなったわたしはあわてて次のお菓子を口に入れた。
「ん?」
パンケーキ的なものかと思ったら……中のペーストがあんこみたいな……
「こ、これ! どら焼きじゃない!?」
まさかの出会いに感動し、驚きを口にしているところで、シオウと目が合った。そういえば……怒られている途中だった。
「ご、ごめん……でも、これ美味しいよ? シオウも食べない?」
恐る恐る薦めると、シオウはそれ以上何も言わず、どら焼き風お菓子を口にした。
「……私の故郷でも似たような食べ物がありました。これは、カイル様がお土産として持ってきたものですね」
(もう、怒ってない……かな?)
「そういえば、シオウって黒髪だけど、この国ではあまり見かけないよね。そのせいだと思うけど、わたし、シオウを見るとなんだか日本を思い出すんだよね」
「……にほん……?」
「この世界に召喚される前に、わたしが住んでいた所。今のわたし、髪の毛が青っぽい不思議な色じゃない。でも、前はシオウみたいに黒髪だったんだよ」
「そう、ですか」
そのままシオウはしばらく黙り込んだ。やっぱりお説教を無理やり終わらせたので気分を悪くしたのかも。そう思って更に謝ろうとすると、再びシオウが話し始めた。
「私はこの国の生まれではないのです。東の果ての島国からやって来たのですが、聖女様の故郷と似ている所があるのですね」
「えっえっ! すごーい!」
もしかして……この世界にも『和の国設定』があるのか! 驚くわたしの顔を不思議そうに見つめてくるシオウ。
「どんなところなんだろう? わたしも、いつかシオウの生まれた国へ行ってみたいな」
「……そうですね」
そう答えてくれたシオウが少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「私も、聖女様の故郷がどのような場所なのか、少し興味があります」
「そう思ってくれるのは嬉しいな」
「いつか、戻れる可能性もあるでしょう。それまで、あまり無理をなさるのはやめてください」
「はい……なるべく気を付けます」
気付けば、ダイアウルフ達も遠く離れてしまっている。わたしは大きな声でみんなを集め、村の中へ戻っていった。




