42.小休止
もう、オーク村に来るのは何度目になるだろう。こんな忙しい生活でも、充実していて楽しい。
わたしは村に来ていたカイルも交えて、はちみつを商品として売り出せるか相談していた。
「前にユーナちゃんが話していたハチミツを入れる容器のサンプルなんだけど、どうかな? 少し離れた街になっちゃうんだけど、そこで作ってもらう話はしてあるよ」
「すごい、素敵なデザイン! このビンに詰めれば、持ち運びできるし風味も落ちないから、村の外に売り出せるね」
カイルが並べた数個のビンは、どれもかわいらしかった。ビンには、花のイラストが描かれたラベルが貼られている。
「ラベルは私が何パターンか考えてみましたわ。ユーナの名前と村の紹介も入れられれば、多くの人に認知してもらうのにいいかと思うのだけど、詳しいことはまだまだ詰めていかないといけませんわね」
「クレア、センスいい……! もうこれだけで人気が出そうな予感がするもの! 残る問題は……やっぱり地理条件だよね。オーク村は山道が多いし、行き来が大変だからなかなか大量に売り出せないよね」
「もともと僕の商売ルートで、この村には定期的に寄ってるから、いくらかは取り扱いできると思うよ。ただ、安定した輸送ルートは欲しいところだよね」
そこで、アレクスが口を挟む。
「実は、ダイアウルフ達にも手伝ってもらって、道路整備を始めているところなんだ。輸送ルートとしてももちろん大事なんだけど、最近辺境の警護でたくさん人がやってきてるだろ。やっぱり、道が悪すぎると不便だって話になってるんだよ」
「そうなんだ。オーク村も知らない間にどんどん発展しているんだね」
「僕が村に来るときに村人が集まっていたのは、道路整備が始まるところだったんだね。それは一商人としても嬉しい限りだよ! これからも頻繁にユーナちゃんとクラリッサ嬢に会いに来れるからね」
どんどん賑やかになる村を想像すると、明るい気持ちになった。
数日後、わたしは道路整備の様子を見に、森へ来ていた。わたしも王都へ行く時に通った道だ。馬車一台がやっとの悪路だったが、今は幅が広がり、徐々に舗装もされ始めている。
働いている人たちに交じって、ダイアウルフ達も重そうな土砂や丸太など、難なく運んでいる。指示をしているのは、テオだった。アレクスの話だと、ダイアウルフ達の働きは大きく、かなり作業がはかどっているみたい。
「テオも工事手伝ってるの!?」
「ユーナ! 見に来てくれたんだ。僕じゃないと、ダイアウルフ達が言うこと聞かないからね」
テオはまだ子どもなのに、手懐けて働かせているなんて、すごい。
「よーしっ! わたしも何か手伝おうかなっ!」
……斧を持ったところでシオウに止められたので、一日雑用やダイアウルフの指示出しなどを体験させてもらった。
「痛たた……」
「あら、ユーナ、どうしたの?」
次の日の朝――。よろよろと起きてきたわたしに、クレアから声が掛かる。
「うん、筋肉痛になっちゃったみたいで、体中痛いんだよね。いつもより、そんなに働いてないと思うんだけど」
シオウが近寄ってきて、顔を覗き込まれる。
「……聖女様、少々お顔が赤いようですが」
「そうかな? そう言われたら頭もガンガンしてるんだけど」
……案の定、熱が出ていた。体は丈夫な方だったから、こんなに熱が出るの久しぶりかも。久しぶりすぎて、具合が悪いとはどういう状態だか気付くのが遅れてしまった。……と言ったらみんなに呆れられたけど、同時に心配もされた。
というわけで、今日は一日ずっと自室にこもっている。
久しぶりに、夢を見た。レイラの夢じゃない、この世界に来る前の『結名』としての夢。目覚めてすぐにその記憶を辿ろうとしても、手の平をすり抜けるように、どんどん消えていく。すっかり意識が戻った時には、何を見ていたのかほとんど覚えていなかった。
顔を動かすと、横にクレアが座っているのが見えた。わたしが寝ている間に、看病していてくれたみたい。
「ユーナ、体調はどう? お水、飲みます?」
「ごめんね、手伝いに来たのに迷惑をかけてしまって」
「……ユーナは、働くためにオーク村に通っているの? 私は、純粋にユーナと会えるのを楽しみにしていますわ。変な遠慮をしないで、ここを故郷と思ってほしいですわ」
「ありがとう……故郷、か」
すっかり、ここにいることが当たり前になっている自分がいるけど……さっき見た夢のせいで、少し寂しい気持ちになっている。体が弱っているからかもしれない。
そんなわたしの思いを感じたのか、その後クレアは何も言わず看病を続けてくれた。
なんだかんだ熱は下がらず、数日はずっと寝て過ごすことになってしまった。クレアとお手伝いのメイさんが身の回りのことをほとんどやってくれたけど、アレクスとシオウも頻繁に部屋を訪れてくれる。珍しい果物を差し入れてくれたり、話し相手になってくれたり。さすがに寝る前に本を読み聞かせようとやってきたアレクスは、クレアによって追い出されていた。
この世界に来てから、ずっと何も考えずに突っ走って来た気がする。こんなにゆっくりしたのは、初めてかもしれない。まとまらない考えが、頭のなかでずっとぐるぐるしていた。
寝込んでから数日後。今日は、体も軽い。みんなのお陰で、完全に良くなったみたい。軽く背伸びをしてから窓に向かい、外の空気を部屋に入れた。
あれ……?
屋敷の前に見知らぬ馬車が止まっている。お客さんかな? 不思議に思って見ていると、しばらくして屋敷から人が出てくる。見たことのない男の人が数人。服装からも、態度からも高貴そうな感じがする。
部屋から出て、玄関の方に行くと、アレクスが立っていた。
「ユーナ! 寝てなくて大丈夫なのか?」
「うん、おかげさまですっかり良くなったよ。それより、今、お客さんが来ていたよね?」
「ん、ああ……」
アレクスはなんとなく複雑な表情をしている。
「村の人じゃないよね」
「ああ、領主としていろいろあるから、な」
アレクスの歯切れが悪い。それ以上は詳しく聞けないような雰囲気を感じて、わたしは口をつぐんだ。




