41.魔法の地図
もうすぐオークへ旅立つ予定の日も近づいてきたある日。
イエンさんから招待状が届いた。そういえば、オークから戻ってきた時にお礼を言ったくらいで、ノアに会ってなかった。
いつものようにシオウに頼み、今日は久しぶりにノアのお屋敷に来ている。
「お久しぶりです、ユウナ様! お待ちしておりましたよ。ノア様もそれはもう楽しみにしておられましたので」
「なかなか来られなくてごめんなさい!」
「……イエン、捏造やめろ」
イエンさんに文句を言いつつも、今日はノアも応接室のソファーに座っている。わたしが来るのはわかっていただろうから、これでも、今日は機嫌が良いということで良いのかな?
「あっ、ノア。移動魔法ありがとう。また今度もよろしく」
「心のこもってないセリフどーも」
「……。ノアも何一つ変わっていないようで安心したわ」
イエンさんとわたしは楽しく近況など語り合った。ノアは特に会話に参加するわけでもないけど、その場から離れることはなく、ソファーでくつろいで本を読んでいる。シオウはというと、お茶だけいただいた後(無理に薦めた)、後ろでそっと控えている。
「そうそう、ユウナ様、今日わざわざ出向いていただいたのは、お渡ししようと思った物があるからなんですよ」
「何でしょう?」
「先日、書庫を整理していたらこんなものを見つけまして」
イエンさんが、箱一杯の本やポスターのような物をテーブルに置いた。
「わあ、古そうな本がいっぱいですね」
「ええ、聖女召喚関連の資料になります」
「えっ!?」
「ユウナ様が興味をお持ちならば、差し上げようと思いましてね」
(聖女関連の情報はあまりないってロイドが言ってなかったっけ?)
「本当に、いいんですか……?」
一冊手に取り、パラパラとめくる。
……ん?
見知らぬ赤ちゃんの写真。というか、この世界に写真って存在するんだ。
「ああ、すみません。ノア様の思い出アルバムが混ざっていたようですね」
イエンさんが言うや否や、ものすごい勢いでノアにアルバムを奪い取られる。
「おい、イエン! クビにするぞ」
「いやあ、ついうっかり」
「うっかりでそんなもん混じらないだろーが!」
一瞬しか見れなかったけど、ノアの幼少期、ちょっと可愛かった。それにしてもイエンさん、確信犯だよね? ノアのこといじり慣れしているのだろうか……
「大変、失礼しました。こちらなどは、ユウナ様も気に入っていただけるかと思いますよ」
丸められた、古びた紙を広げると、それは地図のようだった。
「この国の地図、ですか?」
「ええ、ユウナ様もいろいろお知りになりたいと思いますので、古い物ですが、差し上げます。……、ああ、お茶を淹れてきますので、ノア様、ユウナ様に地理について説明してさしあげてはどうですか?」
ノアの文句も聞かず、イエンさんは部屋から出て行ってしまった。確かにノアは物知りそうだし、いろいろ聞きたいかな。
じっとノアを見て待機していると、ついに観念したのか説明をしてくれる。
「……まず、セント=フェアリア王国の首都はさすがに覚えたな?」
「うん、ここエヴァリーナだよね」
地図の真ん中に書いてある首都の名前を確認する。ノアが指さすと、地図がキラキラと輝いた。
「何これ! きれい!!」
「一応、魔法の地図だからな。古ぼけてるように見えるけど、常に新しい情報に書き換わってる」
(ナビみたいで便利かも。魔法、万能……)
「で、あんたが毎度毎度行ってるノースデールのオーク村は、地図でいうとこの辺り」
「けっこう、北のはずれにあるんだね。この先は?」
「ずーっと山。その先に行った者は今まで一度もいないから、まあ、謎だな。噂によると魔物だらけらしい」
「アレクスもそう言っていたかも……」
地図上でも、山の向こうは何も書かれていない。
「東の国とは国交があるけど、西の国とは仲が悪い。南の領土の先は……海だな」
「海もあるんだ! 行ってみたいなー」
「どうぞご勝手に。言っとくけど俺は送らないからな」
「……はーい」
「そして、東の領土に……ルドウェア聖領がある。そこは、聖女なら知っておいてもいいと思う」
「それは……ロイドに聞いたかも! 自治を認められ、独立した国家のようなっているところなんだよね。 地図だと岩みたいな形が書かれてるけど……どんなところなんだろう? ノアも行ったことあるの?」
「まあ、俺の故郷だからな」
「え!!」
ノアの意外な言葉に驚く。
「ルドウエェア出身の人は、ここにもたくさん?」
「いや、俺とイエンくらいだろ」
更に驚き。
「あそこは秘密主義が過ぎて、外との交流をほとんどしない閉鎖的な土地だからな」
確かに、似たようなことをロイドに聞いた気がする。だったらどうして、ノアはここで魔導士をしているのだろうか?いろいろ聞きたかったけど、ちょうどそこでイエンさんが戻ってきた。
「ノア、いろいろ教えてくれて、ありがとう。また、よろしく」
「……」
その後しばらくして、わたし達はお城に戻った。今日はほんの少しだけど、ノアのことが知れた。
一か月の王都滞在ののち、明日はいよいよオークへ出発する日。気付くと、この世界に来て4か月ほど経っていた。




