39.ロイドと銀の獣
夜遅く――。わたしは、部屋の扉を叩く音に気付く。
そこにいたのは予想外の人物だった。
「ロイド! どうしたの?」
「こんな遅くに女性の部屋を訪問する無礼をお許しください」
「いいけど、珍しいね。こんな時間に」
「実は、無理を承知でお願いに来たのです。ユーナ様の夢の正体、もしかして突き止めることができるかもしれません。部屋に入れていただいてもよろしいですか?」
夢の正体――。
ロイドは何かを突き止めたのだろうか。だったら、頼ってみよう。
でも……
こんなはずじゃなかった。安易に許可してしまったことを後悔する。
わたしは、いつものようにベットに入り、横になっている。そして、ベットの横には……座っているロイド。
「うっ……あの、やっぱり人が見ている前で寝るといるのはちょっとできそうもないのだけど」
「あっ、俺の事は気にしないでください」
「いやいやいや! 気になるって」
わたしが寝ることで、夢とつながる道が開けるというロイド。でも、人に見つめられながら眠れる神経は、わたしはあいにく持ち合わせていない。
「うーん、困りましたね。夢を見てもらわないことには始まらないので。……では、ちょっと失礼」
言うなり、ロイドは身を乗り出してわたしのおでこに触れた。
「何を!!?」
そのまま、わたしの両眼をその手で覆い、何か呪文のようなものを唱える。何を言っているのかはわからなかったが、その瞬間、わたしは意識が遠のいて行った。
・・・・・・
ここは、いつもの夢の中! 女の人、レイラと……銀色の獣。そしてなんと! 今回はロイドもいる!! これは本当に、わたしの夢の中にロイドが入れたということだろうか?
「俺は、あんたが何者か見当がついたよ」
ロイドは獣を見つめ笑みを浮かべているものの、なんだかいつもと雰囲気が違う。何とも言い難い恐怖のようなものを感じる。
ロイドが銀の獣に走り寄り、その体に触れたとたん、獣は光を放った。そこに現れたのは……
男の人。獣と同じ、鋼色に近い、暗い銀色の短髪。褐色の肌で、この国とはどこか違う、異国風の衣装を着けている。歳は、ロイドとそう変わらないくらいだと思う。
「え?? 誰?」
わたしの質問は無視され、その男の人はロイドをにらんでいる。
「おい! そこのやつ! いきなり何するんだ」
「それがお前の正体か?」
話しかけるロイドは、冷たい視線を投げかける。
「そんなことはどうでもいい! ちょっとでも遅れたらな……全裸でこの場に立ちすくむことになっちまうだろぉぉ!! こっちの都合も考えろ!!!!」
「……」
なんだかちょっと緊迫感がない人だな。二人はケンカしてるみたいだし、今のうちにレイラと話そう。
「レイラ、わたしはあなたの体を借りているんだよね。何か、伝えたいことがありそうだけど、話せるかな?」
静かにこちらを見つめるレイラは、もう泣いてはいなかったけど、何を考えているかまではわからない。そのまま、レイラはゆっくりと口を開く。
「私は、だれからも愛されていなかった」
その瞬間、はらはらと涙をこぼすレイラ。
「私がいなくなっても、だれも困ることはないの」
「そんなこと――」
ないよ。と言いかけて言葉に詰まる。わたしはレイラのことをほとんど何も知らない。わたしのなかの理由もなく暗くなる気持ちは……きっと彼女の心がそうさせているんだろうとわかるだけ。
「もう一度、時を戻せるなら――」
「おっと、悪いけどそこまでな。 もう、そんなこと考えるな」
銀色がレイラの肩を抑える。
「お終いだ。じゃっ! そこの狐! もう二度と来るなよ」
銀色が捨て台詞のようにロイドに向かって叫んだ瞬間、夢を終わらせられるのだと分かる。
「待って! 銀ちゃん。もう少しちゃんと話したい――」
強制終了させられた夢から目覚める。ベットの横にはロイドも伏せていた。
「起きて、ロイド」
「う……ん、はっ。あのバカ犬が~」
(初対面で既にかなり仲悪そう……)
時間は……眠ってから30分と行ったところだろうか。一瞬な気がしたけど、けっこう経っていた。
「ねえ、なんでロイドがわたしの夢に入れたの?」
「それは『魔法』で、です」
「そう言われたらそうなんだろうけどさ。……それで、何か分かったの?」
「前に『魂の監視』をしているという話を聞いて、魂を天に送る神のような存在がいるということを思い出したのです。あいつはユーナ様の魂を見張っている、という事情もあるようですけど……たぶんレイラの魂も同時に見張られているんじゃないでしょうか?」
「え? どうして?」
「夢の中の様子だと、レイラはまだいろいろと未練があるみたいでしたよね。そのままだといつまでも現世に縛られ、最悪、悪霊となってしまう可能性があるからです」
「その辺の事情は、どこの世界でも似ているのかな……じゃあ、レイラは無念のままだと天に送られないの?」
「どうでしょう? この考えも俺の仮説ですから。また調べてみますし、ユーナ様も何か夢に動きがあったら教えてください」
「うん。今日はありがとう」
「では、また」
部屋の入り口でロイドを見送っていると……そこにたまたま通りかかったのはメイドさん。
「あら……」
「……」
場の空気が固まる。
「あのっ、何か誤解されていませんよね?」
「いやぁ~私は何も見ていませんので、おほほ……」
「ちょっ……完全に勘違いですからね!! ちょっと」
「ええ、ええ、私の心の中だけに留めておきますとも。では……」
「いやぁ~~!!!! ちょっとぉ、ロイドも何か言ってっ!」
「……こうなれば、覚悟を決めておきましょう」
「何のっ!?」
わたし一人でばたばたしている。ロイドはおそらく、ちょっと面白がっている……噂になるであろう悪い予感しかないまま、ロイドと別れた。
……朝が来た。あの後、あまり寝れた気がしない。
廊下で会う度、お城の人たち何人かに生暖かい挨拶をされた気がするが、鉄の意志で知らないフリをしようと心に決めたのだった。




