38.幻獣騎士
「ユーナ様、おはようございます」
わたしを呼ぶのは、リリィ……? 目を開けると、お城の自分の部屋にいる。ゆっくりと、王都に戻ってきたことを実感し直す。何となく気が引き締まる思いがした。
昨日――、一か月ぶりに王都に戻ったわたしは、皆さんの出迎えを受けた。レイヴァル様やみなさんにあいさつを済ませると、シオウはすぐにお城の仕事に戻って行った。きっと今回のわたしの行動を詳細に報告するのだろう……ちょっと怖い。
戻ってきて一夜明けた今日は、さっそくメイドさん達にはちみつの差し入れをして、感想を聞く会を開催している。魔導士のみなさんも軽い気持ちで誘ったら、たくさん集まってくれ、食堂は大賑わいになった。
「みんな、元気にしてた?」
わたし達は近況を報告し合う。
「ユーナ様にアドバイスをいただいてから、分担できることはいろいろ試してみているんです。ちょっとしたハプニングもありますが、意外な効果もあったりと、毎日楽しくお仕事させていただいていますよ」
「王様お気に入りの温室の管理に関しては、ほとんど魔導士の皆さんにお願いすることになったんです。室温管理や植物の成長には魔法が便利なんです」
「私が一番驚いたのは、掃除ですね。ほんの少し光の魔法をかけてもらった掃除用具を使うと、汚れが落ちやすいんです」
「へえ! やっぱりいろいろやってみると、わかることもあるもんだね!」
みんなの話は止まらない。
「そうそう、有休もとれるようになったんですよ~!」
リリィが嬉しそうに言った。
「相変わらず忙しいのは変わらないんですが、魔導士の皆さんと一緒に、効率を考えたお仕事ができるようになったからだと思います」
「私も、先週一度、街でゆっくり自分の買い物をする時間がとれました」
「私はもともと暇で、いつ首になるかとひやひやしていたので、特技を生かして仕事をもらえるのはうれしいことです」
と、魔導士さん。
思わぬみんなからの報告に、わたしも嬉しくなる。
「それにしても、このはちみつ、本当においしいですね」
「こんな味、食べたことなかったです。王都でも売っていたら人気がでそうですね」
「よかった。やっぱり、すっごくおいしいよね! でも……商品化には安定した生産ラインが必要なんだよね。そこはクリアできそうなんだけど、……輸送がね」
「聖女様、商売人の顔になってます」
試食会は好評で、みんなでいろいろな食材にハチミツをかけて堪能した。
「ううっ、苦しいです……」
しばらくして、みんな満腹になったようだ。
「さすがに、食べすぎたね。そういえば、ここ、エヴァリーナでも名物料理や食材ってあるのかな?」
「お城で出されているものはいつも一流の食材で作られている自慢の料理ばかりですが、城下町で流行っている食べ物もありますよ」
「王都中心は高級な飲食店ばかりですが、少し外れに行くと、私の親戚がやってる評判の食堂もあるんですよ」
「それは……気になる! 行ってみたい! 場所、教えて」
まさか、ラーメンや寿司が出てくるとは思わないけど、庶民の味も食べたい。楽しみ……! とっても楽しく、情報も得られたこの会に、わたしは大満足だった。
・・・・・・
ロイドと鍛練場での魔法練習は、数日後に再開した。
「久しぶりになってしまったね。また、よろしくお願いします!」
「今回のオーク村でのご活躍も話に聞いています。ずいぶんと日焼けされましたね」
「うっ、うん」(シオウ経由でずっと畑仕事してたって、知ってるんだろうな)
ロイドはわたしのオーク村行きに反対していたものの、今は特に気にしている様子はなかった。ところで、もふもふ権を手に入れてからというもの、ロイドはフードを外して耳を出している。鍛錬場限定でだけど。正直、練習よりずっともふもふしていたい……
「そういえば、一つ報告。魔物を従える以外、わたし自身の魔法って大した力がないでしょ? それれが今回、回復魔法が使えたの! たまたまかどうかはわからないんだけど」
「それは! レイラにもない力ですね。聖女としての独自の能力な気がします」
「そうなんだ。今までの聖女のみなさんもみんなできることなのかな? 図書室の本も結構読んだけど、そんなに詳しくなかったんだよね」
ロイドはうなづき、話し始めた。
「そう、ですね。ユーナ様にはルドウェア聖領という場所について、教えておきます」
「ルドウェア?」
「そこはセント=フェアリア王国……この国の中にあるのですが、自治を認められ、独立した国家のようなっている場所です。昔から聖女召喚の地で、その方法など門外不出で外部にも一切伝わらないのです。あそこに住む人間は、未だに古い戒律を守って、召喚方法や聖女の大切な情報を外部に一切漏らさないようにしています」
「そう、なの……」
「召喚された『聖女』は、この世界の言語、風習、文化など一から全てルドウェアの人間に教育されます。これが大変な労力で、短くても数年はかかるとされています」
それは、そうだよね。……あれ?
「でも、わたしはこの国の言葉も文字もわかるけど?」
「ユーナ様は、前の体の持ち主、レイラの記憶……によってそのような苦労をしなくても、この世界に馴染むことができたんだと思います」
納得しつつも、疑問もたくさん残る。
「なんで、わたしはその場所に召喚されなかった……」
わたしが言いかけた時、鍛錬場に男の人の声が響いた。
「ロイド、聖女様がおられるというのは本当か?」
「!?」
「レイラ……?」
一瞬、思考が止まる。
「はっ、失礼しました。私、幻獣騎士団第一部隊団長、ラグレスと申します。国境近くまで遠征していましたため、ご挨拶が遅れましたこと、お許しください」
ラグレスと名乗るその人はがっしりと逞しい体つきで、いかにも戦士という格好をしている。
「はじめまして。ユーナと申します。……あの、今『レイラ』と?」
「大変、失礼な発言をしてしまったことをお詫びします。 魔導士団の召喚の儀については私も噂に聞いております。その……レイラの体を使ったのですよね。面影が残っているせいでつい口がすべってしまいました」
(レイラの体が使われたって、わりと、有名な話なのかな? それより……)
「わたし、レイラと……見た目とか違います?」
「え? ええ。別人なのですから、違いますよね」
「そうかな、わたしが夢で見た姿はそっくりだと思うけど……というか体はレイラなのに全然違うほうがおかしくない?」
「俺はレイラとしっかり話したことはないですけど、髪の色も雰囲気もだいぶ違いますよ」
ロイドも教えてくれる。
「ユーナ様の魂が入ったので、二人の姿見た目が混じり合っているんでしょう」
「そっ……そういうものなのか」
今のわたしの姿に『結名』らしさも残っていたとは、気付かないものだ。
「私達騎士団は、この国を、聖女様を、お守りするのが役目です。今日は突然の訪問失礼しました。また、お会いしましょう」
ラグレスさんはぴしっと礼をして、鍛錬場を去っていった。
「そうか。レイラは騎士団の幻獣の世話していたって聞いたことがあります! ラグレスとも面識があったのかもしれませんね……って、ユーナ様??」
「う、ん」
「おーい、どうしましたか?顔、真っ赤ですよ?」
「えっ!? あっ……うーん」
いろいろ頭ではぐるぐると回っているが、何も言葉にできない。
どうしよう?
なんだか、すっごい心臓がドキドキしている……!!
謎の動悸は、ラグレスさんを見送った後も、しばらく続いた。




