35.ハチミツの味
次の日から早速、わたし達は忙しく働いていた。
シオウにも、大壁の一部が崩れてしまっていたので、修理を手伝ってもらっている。本来はわたしの護衛として来てもらったのだけど、村が大変なので無理を言って手伝いに回ってもらったのだ。もう少ししたら、王都に引き上げていた兵士さん達や、追加の手伝いの人も来てくれることになっている。
「みなさん、ちょっと休憩にしましょう」
差し入れを持った女の人たちが、作業をしているみんなに声をかけて歩いている。わたしはというと、荒らされた畑を直したり、ダイアウルフのお世話をしたりとけっこう忙しくしている。村の人たちも今まで我慢していた分、はりきって一日中働いているので、少しでも力になれたならうれしい。
「もう、こんな時間か。シオウくん、お疲れ様」
「いやあ、よく働いてくれるね。文句も言わず黙々とやってくれるけど、疲れてないかい?」
何人かに声をかけられているシオウを発見したので近寄ってみると、重労働をしていたはずなのに、疲れている様子もなく涼しい顔をしている。
(ロック鳥と戦うときにわかったけど、シオウはものすごく強い。きっとお城でも彼に任されてることが多いんだろうな……巻き込んじゃって申し訳ない)
「シオウ、お疲れ様!」
「聖女様……本来ならお止めすべきなんでしょうが」
シオウが、わたしの汚れた作業着を冷ややかに見つめてくる。
「いいのいいの! このために来たんだから。シオウさえ、お城のみなさんにだまっていたら、バレないって! さあ、座ろう」
わたしは転がっていた丸太に腰かけた。
シオウも仕方なしといった様子で、わたしの隣に座る。表情は全く変わらないものの、深いため息が聞こえる気がした。
(ううっ、話題を変えよう……)
「シオウって、とっても強いんだね。普段お城ではどんな仕事をしてるの?兵士さん達とは所属が違うみたいだけど……」
「本来の職としては、聖女様の公務補佐という立場です」
「えっ?何それ!?聖女専属みたいじゃない!」
「そうですが」
(冗談……? シオウ的ジョークなの?)
「だって、聖女なんていつもいるわけではないでしょ! 本で読んだんだから。わたしが来るまでは100年以上聖女なんていなかったって」
「はい。なので宰相様の文武官という立場も兼務しております」
「シオウ、すっごい偉い人なんじゃ……! こんなところで土木作業してる場合じゃないよね?」
「いえ、聖女様の指示が最優先事項となりますので構いません。 まあ……そっくりそのまま同じ言葉を返したいですが」
「う……!」
(もう、何を話しても墓穴を掘ってる気がする)
そこでちょうど村の人がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
よかったー! もう、シオウと何話しても小言言われそうな雰囲気だったもん。
シオウの考えていることは、出会った時からわかりにくい。でも、言われたことを無関心にこなしているだけの人でもない気がする。
(こんな機会もめったにないし、こっそり観察してみよう)
……
あっ、クッキー食べてる。
気付いたらじっと見つめてしまっていた。その様子に気付いて、シオウも首を傾ける。
「シオウって、もしかして甘いもの好き?」
「そう、ですね」
ちょっと……いや、かなり意外だったけど、言葉にして気を悪くされると嫌なので、心の中に留める。
「あっ、じゃあ、メイさんのクッキー食べてみて! これおすすめだよ」
わたしに促されてシオウが口に運ぶ。
「……ねっ? 美味しいよね」
「ハチミツの甘みがちょうどいいバランスだと思います。朝食にいただいたパンにも同じものが使われていると思いますが、少々ハチミツ自体の味が違うようですね」
「えっ? そうなの?」
(そういえば、わたしの知ってるミツバチでも、花の種類によって味が変わるって聞いたことあるな。……でも、ヒカリバチはヒカリソウにしか集まってなかったよねー……そこで採れたハチミツしか使ってないはずだし)
……
(はっ! まさかまた魔力の問題!? ヒカリソウにも魔力の違いがあるのかな!?)
そこで、不思議そうにわたしを見つめるシオウと目が合う。
しまった、自分の世界に入ってしまった。
「それにしても、シオウってすごい味覚の持ち主なんだね! また、いろいろ味見してもらおうかな」
「……了解しました」
わたし達はちょっとした休憩を楽しんだ。
・・・・・・
わたしがこの村のピンチを救い、復興のお手伝いもしているという噂は、思った以上に広まっていたみたいだ。数日経つと、聖女の噂を聞きつけた人が少し離れた町や村からも会いに来るようになっていた。突然見知らぬ人に拝まれたりしている。
オーク村に数店しかない商店や宿屋でも、最近旅人が訪れて売れ行きが良いという。村の人たちに感謝されたことを思い出し、ふと、考える。
「聖女の里ブランド」……売り出せば行けるか!? でも、この世界でできることといえば、口コミで広めてもらうくらいかな? う~ん、プロのアドバイスがいるか……
「ユーナ、なんかあくどい顔してますわ」
今はアレクスの屋敷で朝食の時間。クレアの突っ込みで、わたしは我に返った。
その夜、アレクスの屋敷へ訪問者があった。久しぶりの……カイル!
「カイル! ちょうどいいところに! 待ってたの!」
「えっ。そんなに僕に会いたくてたまらなかったの? 光栄だな。ああ、隣には炎の精霊クラリッサ嬢! 僕も二人に会いたくて来たんだよ」
「相変わらずだな、カイル」
「アレクスも元気そうで何より。死んじゃったかと思ってたよ。ああ、ユーナちゃんの後ろにいるのは……シオウくんだっけ。王都で何度か会ったことあるよね。久しぶりー」
苦笑いしているアレクス。と、無表情に礼をするシオウ。訪問の挨拶もそこそこに、カイルはわたしに近寄った。
「ユーナちゃん、まずはお礼を言わせて。お城でお願いした時、正直聖女としての地位を使ってアレクスを救ってもらおうと考えてたんだ。まさか、物理的に力づくでどうにかしてくれるとは思ってもみなかったよ」
「むしろ、感謝してるのはわたしの方だよ。カイルが教えてくれなかったら、村が大変だってこと知らなかったもの」
カイルは、ただ商人として各地を回っているだけでなく、信念を持って行動している人なのかもしれない。
……ただ、こういう行動に関してはどうかと思うけど。
「カイル、いい加減手を離してね」
わたしの鋭い突っ込みを気にもせず、カイルは軽く笑いながら握られた両手を離す。
「ユーナちゃん、そういえば、僕に会いたかったって言ってなかった?」
「あっ!そうなの。実はね……」
わたしがハチミツを特産品として売り出せないか相談すると、カイルも乗り気でいろいろアドバイスしてくれた。それから2日ほどはカイルも村に滞在していたので、時間さえあれば一緒にハチミツ製品について話し合った。
「また、1、2か月したら立ち寄るよ。ユーナちゃんもクラリッサ嬢もそれまで、我慢していて!」
「はーい」
熱い抱擁を軽く流し、わたしたちはカイルを見送った。
オーク村での時間はとても楽しく、時間が過ぎるのはあっという間だった。




