33.明るい兆し
ロイドの部屋を出るて自室へ戻る途中に、ふと扉が目に入った。前に魔導士さん達に盛大に悪態をついてしまった、例の休憩室。
もう一度入ってこの前のことをしっかり謝ろうか……いやいや、触らぬ神に祟りなしだよね。わざわざ傷口を開く必要もないか!
わたしがその場をそっと立ち去ろうとすると、背後から声がかかった。
「聖女様!」
「わっ! びっくりした。ええと? すいませんだれでしたっけ?」
「聖女様がいらしたとき、部屋の隅に居た魔導士の一人です。覚えていなくても無理はありません。それより、お聞きしましたよ! なんでもこっそり辺境の魔物を倒しにいったとか!」
「えっと、魔物退治に行ったわけではないんだけど、結果的にはそうなったのかな」
「すごいですね、俺にはどんなにがんばっても真似できませんよ」
あれっ、なんか……こんな明るい人あの時いたっけ??うながされて休憩室の扉を開くと、見違えるほどきれいになった素敵空間が目の前に広がった。
そして、そこにいる魔導士の皆さんにさわやかに挨拶される。
「こんにちはー!!」
きらきらきらー
「……あのー、どういった心境の変化で?」
「今度、ノア様がいらっしゃるということで、慌てて掃除をしているんですよ」
(あれ?ノア、魔導士指導は免れてなかったっけ?結局請け負ったのかな?)
「聖女様、本当にありがとうございます」
見慣れない、女性の魔導士さんが雑巾をもって近寄ってきた。
「ここにいる皆は、先も見えない中希望を失いかけていたのです。私のような女魔導士も数人いますが、この部屋に立ち寄ってもろくなことがないと、自室で籠っていたのですが……」
(たしかに、みんな酒臭かったしな~……近寄りがたい雰囲気ではあったよね)
「聖女様がいらしたときの話、私も聞きました。失礼ですけど、笑っちゃって。勝手に身分の高い方々って、私たちのような者と関わらないというイメージでしたから、変わった方なんだなって思ったんです」
「まあ、この世界に来たから身分高い認定されちゃっているかもだけど、実際ただの一般人だからね」
「……それから、みんな口にはしていなかったんですけど、何となく空気が変わったんですよね。負けてられないぞ、みたいな。まあ、相変わらずの生活だったんですけど。そんな矢先、聖女様がこっそりお城を抜け出して、ものすごい魔物を倒してきたというお話を聞いて!!」
「さっきの魔導士さんにも言われたけど、この話広まってる?」
「ええ、宰相様たちにお説教された話までセットで、城中に広まっています」
いやあああ!!!!
あまりの気恥ずかしさに悶絶する。そんなわたしを気にせずに掃除しているみなさん……わたしは、ふと魔導士のみなさんのしていることが気になった。
「あれ、なんだか掃除に魔法使ってる?」
「はい、ちょっとした工夫なんですけどね、私は水魔法を使って雑巾絞りの手間を省いてます」
「俺は風魔法で……隅の埃取りしてます」
「えっ……なんか、時短で便利そう……!」
そこでまたひらめいちゃうわたし。
「……ちなみに、それ、メイドさん達がやってる城の雑用にも使ってもらえないかな?」
「え?大した魔法じゃないですけど?……まあ、時間だけはいくらでもあるので、全然構わないですけど、お城の使用人の方々にどう思われるか」
「わたし、メイドさん達の仕事も手伝ってるけど、いつも忙しくて手が回らないんだよね。みんなの力をそういうことに役立ててもらえるといいんだけど」
「……聖女様、ずいぶん手広い活動を行ってらっしゃいますね」
「うん。まだまだ用事をこなすには下っ端なんだけどね。あ、オーク村では養蜂とか魔物のお世話とかもしてたよ」
魔導士さん達にちょっとあきれた顔をされるけど、まあ、しょうがない。
「というわけで、魔導士のみなさんを連れてきました」
最近は大抵のことに動じなくなったメイド長さんが、驚きの表情のまま固まっている。
「……それで、私にどうしろとおっしゃるのです?」
「あっ、いえ。わたしが魔導士さん達といっしょにお城のお仕事をするのを許可していただくだけで十分です」
しばらくの間の後、ついにメイド長さんが折れた。
「……聖女様に何を言っても無駄なことはこれまでの経験ですっかりわかりました。もう、どうとでもなさってください」
「いつもありがとうございます!!」
・・・・・・
わたしと魔導士さん達はかまどの前に集まっている。
火を熾そうとがんばっていたメイドさんの横で、魔導士さんの一人が風魔法を発生させると、ボッと火種が生まれた。
「どうかな?」
おそるおそる感想を聞くと、協力してくれたメイドさんが答える。
「うーん、正直少し早く火が付いた程度ですが……あれ、少し火の色が違いますね」
(確かに、なんだか輝きが違う気がする)
「もしかして、魔法を使用した場合に効率化できる仕事もあるかもしれませんね」
「よかった!」
「……聖女様は、やはりずいぶんと変わった方ですね」
メイドさんのつぶやきに、そばにいた魔導士さん達も頷いた。
「う、うん。まあ、この世界ではそうかもね……」
「我々もいつ解雇されてもおかしくない身。ここでできることをダメ元で探してみましょう」
「まだ、抵抗のある者たちも多いですが、私たちがこの役目をうまくやり遂げたら賛同者も増えるかもしれませんね」
魔導士のみなさんは、それぞれできることを探しに城中に散らばっていった。
……わたし、今できることを何も考えずにひたすらやるしかない性格だけど、きっとそれでも少しは前に進めているかな。
前向きに進み始めた魔導士さん達の背中を、わたしは見守っていた。




