31.とりあえずの解決と約束
大きくため息をつく宰相のウォーレン様。
「そうと決まれば、民を総動員できちんとした道路建設をさせなければなりませんね」
……
「…はい?」
「舗装も含めて、3年以内になんとか終わらせましょうか。工費は、なんとか絞り出してみましょう」
「ノアにっ! 召喚魔法で移動させてもらいますからっ。お願いなのでこれ以上みなさんの負担が増えないようにしてください。それに、そんなに待てません!」
「おい、ふざけんな。だれが協力するなんて言った? しかも俺の負担については考慮しないのかよ」
ここで、ウォーレン様の矛先がノアに向かった。
「ノア様にも一言申しておきますと……そもそも本来の職務から逃げ回り、日ごろ何をされているのです?」
「……はあ。あんたの管轄外だろ? 俺が何してようが勝手だろ」
「では、管轄内なら、文句はありませんね。ロイド」
「はい。新人魔導士の教育と聖女召喚・魔王討伐研究の人出が圧倒的に足りませんので、先生にはぜひとも毎日お城へ出向いてお手伝いいただきたいですね」
先生? ロイドがノアのことを先生呼びした。歳だってそう変わらないように見えるけど、ノアはよっぽど偉い人なんだろうか。
「絶対! いやだ!! 死んでも働きたくない」
その理論をこの世界でも振りかざす人間がいるとは……!
「それは、残念ですね。それにしても、魔導士に充てる予算が足りない……どうしましょうか」
ちらっ
ロイドが思わせぶりにノアの顔を見る。
「ユーナ様は黙ってたら一人で歩いてでもいなくなってしまいそうだし……何かあればまた我々魔導士の負担が増えてしまう」
大きく首を振るロイド。なかなかの……演技派だ。
「ちっ……この女をオーク村に召喚させる。魔力を戻すのに時間がいるから、ひと月に一回、それ以上の仕事は無理。以上」
「先生がそう言うなら、しょうがありません」
最初は反対していたけど、許してくれたのかな? 結果的にロイドに助けてもらうことになってしまった。
「ありがとう、ロイド」
「いえ、俺は何も。あ、そうそう、ユーナ様ももちろん、これまで以上に魔法訓練に励んでもらいますね。何しろ、無理を通してオーク村へ通われるのですから、時間も圧倒的に少なくなりますので」
「うっ」
前言撤回。これ、めっちゃキレてるわ……
それまでだまって聞いていたウォーレン様が、口を開いた。
「その案でいいでしょう。ただ、ノア様ほどの方がその程度で限界ではないでしょう。ご自宅で独自に魔法の研究をなさっていることは存じ上げています。その成果を月に数度で構いませんので、こちらにも報告なさること」
「は? なんでそんなこと」
「ではきっちり毎日勤務で……」「わかりましたすいません」
よっぽど働くの嫌なのか……
全く同情はできないけど、わたしのとばっちりでお仕事させられちゃうノアにも罪悪感は感じるので、一言謝っておこう。
「ノア、わたしのわがままでごめんね。しかも一緒に村に来てもらうことになっちゃうよね。なんなら、アレクスの屋敷で待機しててもらっても構わないよ?(まだ許可もらってないけど)」
「バカか。 俺があんな田舎に何度も行くわけないだろ。 送り届けたら期日にもう一度同じポイントに召喚魔法発動させれば済む話」
「そういうこともできるんだね」
(あれ、でもこの前は一緒に着いてきたよね……?)
とは、聞けないほどの黒いオーラ。不機嫌なノアとシオウ(?)。真ん中に挟まれる形のわたしは非常に居心地が悪い。
でも、わたしの希望はなんとか叶った。また、オーク村のみんなに、アレクスに会えるのは本当に嬉しい。
「では、今日のお話はここまでにいたしましょうか。」
そこで、初めから今までずっとだまっていたレイヴァル様が話しかけてきた。
「ユーナさま、少し二人でお話できませんか?」
「えっ!?」
おそらく、その場にいたみんなが驚いた顔をしていたと思う。それでもかまわず、レイヴァル様は言葉を続けた。
「安心してください、みなさんの決定を変えるようなことはしません。」
・・・・・・
わたしたちはいつもの庭にいた。
ここで飼われているだろう美しい色の小鳥が、レイヴァル様の手に留まる。う……すべての挙動が絵になる。
レイヴァル様の誘いでこの庭に来たけれど、今のところ会話はない。ずっと無言なので、非常に居心地が悪い。
いたたまれない気持ちになっているところで、レイヴァル様が口を開く。
「ユーナさまは、この国にとって大切な方です。何かあっては……私はどうしたらいいかわかりません」
ううっ、儚げな表情に罪悪感が一気に押し寄せる。やっぱり、怒っているよね……
「ご……ごめんなさい」
「今回の件も、私が知ったのはユーナさまがいなくなってからです」
レイヴァル様の瞳は、じっとこちらを見つめている。こんなに真っすぐに視線を向けられたのは初めてかもしれない。
「それも……本当にごめんなさい」
ふっとため息をこぼすレイヴァル様。
「聞いた話では、アレクスと親しくなられたようですね」
そこで思わぬ名前が出て、驚く。
「アレクスのこと……レイヴァル様もご存じなんですか?」
「彼は、私の従兄に当たります」
オーク村にずっと住んでいたわけではないと聞いてはいたけど、まさか王様の家系だったとは! ……でも、あの堂々として皆を惹きつけている姿は、王族だといわれると納得できる。
「彼は昔から強く、皆を束ねていく力のある人でした。ユーナさまが村に通っても、きっと心配する必要もないんでしょう……」
話す表情はそれでも暗い。
「私は、心配することしかできませんか?」
「えっ……」
「自分が情けないのです。私がいろいろ悩んでいるうちに、ユーナさまはどんどん前に進んでいってしまう」
「わたしは……何もできていないです。ただかっこ悪くじたばたしているだけで、みんなにも迷惑をかけてしまっています」
「それでも……自分の意志で行動できるのは……うらやましいです」
こんなに自分の気持ちを話してもらうことはなかった。レイヴァル様もいろいろ悩んでいるんだ。そう思うと、なんだか遠い存在だったのが、一気に身近な存在になった気がした。
「レイヴァル様! お話しする以外にも、これからわたしといろいろ遊びましょう!」
何を言われたか一瞬理解できず、きょとんとするレイヴァル様。
しまった、王様に対する会話じゃない!
「あっ、失礼しました!!なんでも……いいんです。一緒にお散歩するとか、本を読むとか、楽しいことが増えればいいなって……ほんとすいません……失礼すぎてもう何言ってるかわからなくなっちゃてるので勢いで聞きますが……お好きなこととか得意なことはありますか?」
かなり戸惑っている。だめだ。
「あの、気にしないでくださ」「そう……ですね。特に自分から好んで趣味の時間を持つことはないのですが、この前勉強をした天体については興味深かったです」
レイヴァル様が無理にでも話を合わせてくれて……うれしい。
「そういえば、この世界の星座はわたしの知っているものと全然違うなって思ってたんです。今度、教えていただけますか?」
「はい。では、約束です」
「オーク村にも通わせてもらえる分、お城で過ごす時間も大切にします!これからも、よろしくお願いします!!」
レイヴァル様の表情が柔らかくなったように感じた。




