28.巨鳥との戦い
森に逃げ込んだわたしたちに対して、ロック鳥は攻撃できずに上空をぐるぐると旋回している。
その間も、ロックは数度魔物を呼び寄せた。鳥の魔物以外にも、獣系の魔物も集まってくる。
(こうやって、今までも村にたくさんの魔物が集まってきていたんだ……)
とりあえず、わたしたちをロックオンしているみたいで、村に飛んでいかないのだけはよかった。
「あんなに高く飛んでたら、攻撃されないけど、こっちも手の出しようがないだろ。魔法で落とせるか?」
ノアの手に、炎の魔法が生まれた。
「ノア様!森を燃やしてはいけません!!」
クレアがすかさず止める。
「ちっ、んなことこだわってる場合かよ」
文句を言いながらも、ノアは魔法を放つことなく、掌の炎は消えた。
アレクスと護衛の皆さんは、魔物達を剣で次々と切り倒していく。やっぱり、アレクスがいると心強い。どれだけ多くの敵に囲まれても、簡単に制しているように見える。ダイアウルフ達も、獣の魔物に噛みついて倒してくれていた。
それでもみんな、鳥の魔物達の攻撃は避け辛いし捕まえにくいので、苦労している様子だ。
そして、魔物の数が少なくなってくるとロック鳥がまた仲間を増やす。
(……倒しても、きりがないよね?大丈夫かな……)
空中の敵に対して戦いを繰り広げているのは……シオウ。木の幹を足掛かりにして、何度も跳び上がっては、目にもとまらぬ速さで鳥の魔物たちを切り落としている。
(どんな鍛え方したらそんな高く跳べるの!!)
クレアは弓矢の使い手だった。男の人たちに交じって戦っていても少しも引けをとらない。小さな鳥たちを的確に捕えて撃ち落としていた。ただ、ロック鳥に対しては、矢が当たっても跳ね返されているようだ。
「クラリッサ、お前いつの間にそんなことできるようになったの」
「まあ、いろいろありましたから」
ノアに話しかけられたクレアは自嘲するように言葉を濁し、ノアもそれ以上は聞かなかった。
「お前の攻撃、少しだけ魔力が込められてるな」
「でも、あまり効いていないようですわ」
「ロック自体が魔力の塊みたいなもんだからな。中途半端な力では対抗できないんだろう」
「中途半端!?」
クレアと話しながら、ノアは何か閃いたようだった。
「ちょっと、試してみるか」
クレアの矢に、ノアの魔法がかけられる。それは、氷の矢となった。
「ノア様、一体何を?」
「いいから、放ってみろ」
バシュッ!
攻撃はロックの羽の先をかすった。すると、上空で大きな鳴き声をあげた。
「効いてる!」
「いや……これじゃまだ弱いな。クラリッサの魔力はおそらく、十中八九炎系を得意としているだろううけど使ったら文句言ってくるし……っていうことは――」
みんなが必死に攻防しているのをよそに、ノアは立ち止まり、ぶつぶつとなにかをつぶやきだした。
「おい!こんなところで悠長に考え事してる場合じゃないだろ」
アレクスがノアの周りに集まった魔物たちを切り倒しながら、叫ぶ。
「うるさいな……!気が散る」
「なっ、お前、助けてもらっておいてその言い草はないだろ?」
「だからうるさいんだってば。別に助けてほしいと頼んだ覚えもない」
「……」
(アレクス、ものすごい顔してる……)
その時、わたしはというと……完全に傍観者となっていた。特にできることもなく、とりあえず木の影に隠れてみんなの戦いを見守っている。たまに魔物に見つかって必死に逃げていると、シオウやダイアウルフが倒してくれる。
ううっ、これ、わたし邪魔だよね。機会を見て村の方に戻ったほうがよっぽど迷惑にならずに済むんじゃ……
などとぐるぐると考えていると、ものすごい突風に体が投げ出された。
「えっ!?きゃああああ」
「ユーナ!!」
木の幹にぶつかると思った瞬間、アレクスが受け止めてくれる。
「あ、ありがとう……何、今の?」
「ロックが怒り始めているみたいだな。……もう一回来るぞ」
「え!?ええっ」
体制を整える間もなく、何度もものすごい風が襲ってくる。みんな、吹き飛ばされないように身を守るのに精いっぱいだ。
どうやら、ロックが羽ばたくときに、魔力を使っているみたいだった。結構な大きさの木も何本も折れていく。ただ、仲間の魔物達も吹き飛ばされているから、無差別攻撃になってるけど……
飛ばされまいと必死にアレクスにしがみついていると、ノアが突風の合間をぬって駆け寄ってきた。
……と思った瞬間、腕を捕まれて半ば強引に走らされる。
「ノア!?」
「お前、ちょっと使われろ」
「痛っ!何をする……の」
「ここにお前の力を込める」
連れてこられたのは、クレアの近く。ノアはクレアの矢を指差した。
わたしは、ノアが何をしようとしているのか理解した。
わたしの力で、魔力を増幅させる……
そんな方法でうまくいくのかも分からなかったが、ノアはクレアに矢を放つよう伝えた。事情が呑み込めないクレアも、半信半疑といった様子で弓を構える。
クレアが番える矢にノアがなにか呪文を唱えたとき、合図の様にわたしの腕が強く握られる。わたしは、矢の一点に集中した。
お願い――!
わたしの体の中の不思議な力が、ノアにつかまれた腕を通り、そのまま放たれた魔法に注がれていくのが感覚でわかった。
そして、その力は、クレアの放つ矢にぐるぐると巻き付いて……
「みんな、伏せろ――!!」
バリバリバリッ!!!!!
その威力は、想像していた以上のものだった。薄暗かった森は一瞬目が開けられないほどの閃光が走る。
つんざくような轟音と共に、視界が真っ白になる。その後、ややしばらくして目を開けると……
地面に落ちているロックと、たくさんの小さい魔物達。
「これは……雷の魔法?」
周囲の大木が、裂けるようにして倒れ、何本かからは煙が燻っている。
「やった……の?」
わたしは地面に転がるロックを見つめて立っていた。




