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23.働くのはどの世界だって辛い、ということ。

 最近の昼食を運んでくれる担当は、メイドのリリィだったはずが、今日は違うメイドさんがやってきた。入れ替わりもけっこう頻繁なので、何気なく聞いてみる。


「あれ、今日はリリィじゃないんだね?」

「すみません、リリィは熱を出して寝込んでしまいまして……今日は私がお世話させていただきます」

「熱!大丈夫なの?」

「はい、ただの風邪でしょう。明日には良くなると思いますよ」


 いつも見ている笑顔がないと、なんとなく寂しい。

 今日担当してくれているメイドさんも、なんだか忙しそう。


「ありがとう。この後もお仕事が?」

「ええ、この後は広間の清掃を担当していますので」


(そういえば、この前、リリィもいろいろなお仕事を任されているって聞いたな)


「メイドさんって、何人くらいいるの?」

「100人ほどですかね」

「やっぱり、お城ともなるとすごい人数だね」

「それでも、やはり一人一人が分担する作業は多くなりますね。満足する人数がいる、というほどではありません」


 ……面白いこと思いついてしまった。


 その後、メイドさんに頼み、わたしはメイド長さんの前に立っていた。

「今日一日、メイドさんたちの仕事をいろいろ手伝わせてもらえませんか」

「滅相もございません!」


 厳しそうな女の人。さすがたくさんのメイドさん達を束ねているだけある。

 でも、わたしの好奇心は留まることを知らない。


「この世界のこと、何も知らないで聖女業なんてやってられません。下働きでいいからお願いします!」

「いいえ、聖女様にそのようなことさせられるはずがありません!」


 手ごわい相手だ!


「わたし、この世界に来るまで、毎日フルタイム、残業もありでがんばって働いてきたんです!」

「?……はい??」

「わかりますか?ある日突然仕事を奪われた悲しみを!それでいて、少しメイドさんの仕事を体験したいというささやかな希望も叶えてはいただけないんですか!?」

 わたしの勢いに、メイド長さんは少し揺らいだ。

「なんだかよくわかりませんが……そこまでおっしゃるなら、よろしいでしょう。ただし、やりたいというからには生半可な気持ちでいらしても邪魔になるだけです。ご覚悟はおありですか?」


 ごくり。


 頑張って交渉した結果、わたしには洗濯が任された。

 やっぱり、食事も着替えも全部人任せでお姫様のように暮らすより、これくらい体を動かしていたほうが精神面的にもいい。


 しかし……

「ええと」


「あれ?洗濯機は……あるはずないよね」

 大量の衣類の入った籠をもち、立ちすくむ。

 洗い桶に水を入れて、洗濯板でこするんだね……家庭科で昔やったことがあるような。

 

 ごしごし……

 

 これ、けっこう重労働だね……


 ・・・・・・


「汚れが取り切れていません。やり直しです」

 

 たっぷり時間をかけて洗った洗濯物達が却下され、洗い直す頃にはすっかり夜になっていた。今更干された洗濯物達は、きっと気持ちよくは乾きはしないだろう。


 ぐったりと椅子に座り込むわたしに、メイド長さんが話しかけてくる。


「どうですか、これくらいで気は済みましたか?」

「わたしがここまで楽ちんな生活をさせてもらっているのは、たくさんの人々の支えがあったからだと、よーくわかりました」

「それは、もったいないお言葉です」

「それにしても……洗濯ひとつで重労働ですね。満足にできずに申し訳ないです」

「これに懲りましたら、このようなお遊びはお控えいただき……」

「もっと修行して楽にこなせるようになります!!」

「はい?」

 絶句している様子のメイド長さん。


「あっ、洗濯物極めるでもいいですし……お掃除やお裁縫など一通りいろいろ体験してみる方がいいですかね」

「聖女様、これ以上はさすがに」

「また、よろしくお願いします!!師匠!!」



 その後、リリィのお見舞いを提案した時には、すでにメイド長さんからなんのお咎めもなかった。きっと、何を言っても無駄だと分かって(諦めて)くれたのだろう。

 今日あった出来事をリリィのベットの横に置かれた椅子に座りながら話す。体調を尋ねると、熱もすっかり下がり、元気になってきたと聞いてほっとする。


「それにしても、本当に、大変なんだね。メイドさんのお仕事って」

「ユーナ様はもの好きなのですね。確かに忙しいですが……私のような者が城で働けるだけで優遇されていますよ。特に、私はユーナ様のお世話係を任されていますし、破格の待遇ですので、なんの不満もありません」

「ええ~……そうなの?」

「はい、衣食住を保証されて働ける仕事はそう多くありませんから」

 

 異世界もいろいろ大変なんだな。


「リリィはお城に住み込みで働いているんだね」

 わたしは部屋を見回す。大きさはわたしに用意されている部屋よりはかなり狭かったが、質の良さそうなシンプルな家具でそろえられ、綺麗に整っていた。


「生まれはこの国の南の方なんです。たまたま伝手がありまして、2年前からお城で働かせてもらっているんです」

「そうなんだ。一人で来たんだね。……家族と離れるのも寂しいでしょう?」

「もう、慣れました!ここに来てからは、まだ一度も帰っていないのですが、手紙では家族も元気だということですし」

「えっ!?ご実家、帰れないの?」

「そうですね、今日は熱があったのでさすがに休んでいいとの許可をいただきましたが、基本的にお休みはいただけませんので」


(休暇なしで働き詰め……なんてブラック)


 ……でも、お城で働いているということは、リリィの言う通り、恵まれている方なのだろう。

 どこの世界でも働くって大変なんだとわかった一日だった。

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