22.片付け、もふもふ権
イエンさんが魔法で出した、小さな光の輪。
わたしは本当に何気なく、それに触れた。すると……
えっ!?
今にも消えそうだった光はまたその輝きを取り戻し、さっきより大きな輪が広がる。それは一気に机より大きく膨らみ、気付くともう一点の光の輪……棚の前に机が移動した。
「つっ机が!」
「これは……なんということでしょう」
「増幅魔法か」
「うわっ……出た!?」
慌てふためいているわたしの後ろから突然掛けられた声。驚いて振り返ると、そこには外出しているはずのノアが立っていた。
「お帰りなさいませ。お早かったですね」
「イエン、出かける前に余計な事話すなって言っておいたよな」
「はい、ユウナ様とは楽しく世間話をさせていただいておりました」
仏頂面のノアはそれ以上何かを言うのをあきらめ、わたしに話しかけてくる。
「おまえ、ロイドに魔法を教わってるらしいな」
「えっ、うん……簡単な魔法も全然うまくいかないんだけど……」
何かを呟いたノアの掌にゆらめく球体が生まれた。よく見ると、きれいな形の水の塊だった。
ロイドは魔法は制御が難しいと言っていた。きっと高度なことをしているんだろう。
「これ、持ってみて」
「なんで?」
「いいから」
そっと触れた瞬間……
「聖女様」
シオウがすごい速さで近寄ってきたのが見えた。
ザアアアア!!!!
頭上から滝のように水をかぶる。
何……が起きたの!?
「ここまでしろとは言ってない」
ノアが全く濡れていないのは、瞬時に何かの魔法を使ったからだろう。
同じく、イエンさんも少し驚いた様子ではあったものの、濡れてはいなかった。
わたしをかばって覆いかぶさってくれたシオウも、わたしも……びしょ濡れだったけれど。
「申し訳ございません」
「えっ、なんでシオウが謝るの?むしろ庇ってくれてありがとう」
「……とりあえず火にしなくてよかったわー。……にしてもこれは誤算だ」
「ほっほっ、これはなかなかですな」
わたしは何の話をしているのか、何が起きたのか、理解できずに固まっている。
ノアは不機嫌そうに話し始める。
「おまえの力はな、『増幅』だ。自分一人では大した力がないかもしれない。ただ、誰かの魔力に触れたら、その力を数倍にできる」
「じゃあ、これ……わたしがやったことになるの?」
「そうだ、よくも部屋中びしょびしょにしてくれたな。ついでに机も変なところに移動させやがって」
「わざとじゃないんだけど……」
とりあえず着替えさせてもらい……(イエンさんには男物しかないとかなり申し訳なさそうにされたけど)シオウと一緒に片付けに追われた。
・・・・・・
今日のロイドとの魔法練習では、昨日のノアの屋敷で起こった出来事を相談するので、時間をつぶした。
初めは驚いた様子だったロイドも、話を聞くにつれて瞳が輝き、とても嬉しそうな表情に変わった。
「ユーナ様、それはすごいですね!魔王討伐も夢ではありませんよ」
相当嬉しかったのか、ロイドはわたしの両手を持って飛び跳ねる。わたしとしては、元の世界に戻れた聖女はいないという話を聞いていたから、複雑な心境なのだけど……
あっ!
その時、興奮して飛び跳ねていたロイドのフードがとれた。
耳が……動物?
ずっとフードの中に隠れていたのは動物のような二つの耳だった。
はじめて見た……
思わぬ出来事に驚いているのはわたしだけではなかったみたい。
ロイドも一瞬固まり……小さな声で尋ねてくる。
「この姿……怖いですか?」
「ええと……この世界ではよくいるわけではないの?」
「そうですね、珍しいです。王都では俺以外にいません」
「へえ、そうなんだ」
やばい……リアルケモ耳!
しかもレア!!
「??……うっ、その目、なんか良からぬこと考えてます?」
「あっ!何でもないの、ちょっと触らせてもらいたいだなんて全然」
……
「全然、思ってない」
(ごくり)
じりじりと後ずさったロイドがついに観念する。
「あの、ユーナ様がよろしければ……触ります?」
「えっ!!いいのっ!?じゃあ」
「食い気味!!」
ロイドはすっかり大人しくなり、頭を下げた。
「では。お願いします!」
わたしは満を持して腕を伸ばす。
くいくいっ
ふわ……ふわっ
きゅっきゅっ
思った以上に、温かい。
やばい。くせになる。
「あの……満足しましたか?」
「うん、もっふもふ。最高」
「……もう、いいですか?」
「もうちょっと」
・・・・・・
「……そろそろ、いい加減にしてもらえません?」
「はっ!我を忘れていた……ごめん」
名残惜しいけど、なんとか自制心で手を離す。
その後、粘り強い交渉の末に、魔法練習をこれまで以上に頑張ることを条件にロイドのもふもふ権を手に入れた。




