19.弱気な王様
植物園で王様とお話することがなんとなく楽しくなってきたのは、だんだん打ち解けてもらっていると感じるようになったから。今日は3度目になる……かな。
王様と話していると、依然として女子相手に話している感が拭えない。もっと言うと、精霊かなにか、自分とは別の生き物の感じもしないでもない。
わたしに気を許してくれたのか、王様は実はけっこうお話好きだとわかった。
「聖女様はお強いですね。たった一人異世界へ来られたというのに」
(実をいうと帰らせてもらえるならそうしたい、とは言えないよねー……)
「昔からあんまり細かいことを気にしないタイプというか……結構なるようになれって感じなんですよ。それにここでは良くしてもらってますので」
今言った言葉にも偽りはない。
王様はふっと笑顔で頷いてくれた。めっちゃ輝いてるっ!!
眩しすぎる!!この破壊力はなかなかだ……
わたしは一人で気持ちを鎮めていた。
「ところで、聖女様は私とお話をしてくださる時間のほかはどのように過ごしておられるのですか?何かお困りのことなどないですか?」
「ロイドに魔法を教わる時間は毎日決まってます。あとは、図書館に行ったり、お散歩したりしてますかね。チェスターさん達もたまに……まあ、至れり尽くせりで申し訳ないくらいです」
まあ、事実しか言っていない、はず。
「そうですか。ロイドは王宮魔導士長として今も魔王対策をしていますから、頼りになるでしょう」
どんな役職か詳しくはわからないけど、やっぱりロイドってがんばってるんだな……
「はい、とても頼りにしています。でもわたし、いろいろ教わっても全然うまくいかなくて、全然役に立てていないんです」
言葉にしてみると、こんなに平和に過ごしているのに、自分がこの世界に存在する意味を自覚させられた気がした。
世界を救う、と言っても、自分はどんな役目でここに召喚されたんだろうか。いきなり魔物を倒せなんて言われても、やっぱりとてもわたしにはできることじゃないと思うんだけど。
「聖女様の世界では魔法を使うことができるものがいないと聞きました。慣れもあるようですよ。……ああ、魔法のことを更に知りたいなら、ノアのもとを訪ねるといいかもしれません。彼も暇をしているでしょうし」
「ノア?」
「彼もすばらしい魔導士です。伝説のルーチェ大魔導士に匹敵する実力を持っていると期待される天才なんですよ。先日の聖女様の召喚の儀でも活躍したと聞いています」
「そ……そうなんですか」
(そんなすごい人、いるんだ)
王様の穏やかな表情に、一瞬曇りが見える。
「わたしではお力になれませんので」
そういえば、最初に出会ったときに、ジンさんが「先王はすごい人」というような発言をしていたっけ。目の前の王様は、どんな気持ちでいるんだろう。
「王様も、この国を支えてがんばっておられるのでしょう。それに、こうしてわたしなんかとお話しする時間をとってもらえて……うれしいんです。力になれない、なんて言わないでください」
慌てふためいてフォローしている形になってしまった。わたしの言葉は、王様にはどんな風に届いただろうか。
特に返答がある訳でもなく、王様は少し寂し気な表情で笑顔を作ってみせた。
次の言葉を考えていると、王様から声がかかる。
「すみません、今日も時間のようです」
「あっ、そうですね。では、また……お会いしましょう」
……
??
いつもなら従者とともに立ち去ってしまう王様が、今日はなかなか動き出さない。
不思議に思って見守っていると……
「あの……一つ……お願いがあるのですが」
王様の雰囲気が急に変わった気がしたのでちょっと身構える。
「な、なんでしょう」
どうしよう、自分にはどうしようもないくらい大変なこと頼まれたら……
えっ、むしろもう会いたくないとか……!?やっぱり……失礼なことしちゃった??
一度考えると、むしろ失礼なことしか言ってないんじゃないかと恐ろしくなる。
「レイヴァル……と呼んでくださいませんか」
一瞬、何を言われたかわからず固まる。
すぐさま、「名前で呼んでほしい」という王様の願いだと理解した。
それにしても……
か……かわいい……
もしかして、照れてる!?少し目線を逸らして俯いている姿は、最初のころの怯えた様子ではなく、むしろ……もじもじしている感じだ。毛並みの良い室内小型犬のようで、抱きしめて撫でまわしたい衝動をなんとか抑えた。
「突然こんなこと言われてもご迷惑ですよね」
「あっ、いや。驚いてしまって。あはは……王様……レイヴァル様が嫌でなければ、喜んでっ!」
しどろもどろになってしまったわたしに、レイヴァル様は静かに微笑んだ。
「よろしければ、わたしのこともユーナと呼んでください!」
「……よいのですか?」
「ええ、もちろん」
キラキラした笑顔は、今まで見た中で一番嬉しそうだった。王という重責でしっかりした応対を求められているけど、目の前にいるのは、まだ幼さの残る一人の少年なんだ。
「では、ユーナさま、と」
「はい!」
「『ユーナ』……ユーナ、さま。ふふっ」
あまりにも嬉しそうなので、こちらも照れてしまった。
少しでも仲良くなれていたのなら、レイヴァル様の力になれていたなら、嬉しい。それから名残惜しそうにしているレイヴァル様と別れた。
それからの一日は、気持ちも軽く、楽しい気分で過ごせた。そして、部屋に戻っても、ほんのり幸せな気持ちのまま眠りについた。




