18.わたしにできること
オークの村にいた頃とはすっかり生活が変わってしまったけれど、それはそれで慣れてくるものだ。わたしの周りは、比較的ゆったりした時間が過ぎている。
今日はロイドとの魔法練習はお休みの日。特に予定もないし、どうやって過ごそうかな?一日部屋にいてもいいと思うけど……
そこで、半ば強引に思い直す。
いやいや、城探検をしてみよう!!まだまだ知らない場所はたくさんある。なんの当てもなかったけど、わたしは自分の部屋のドアを勢いよく開いた。
しばらく歩いていると、厨房らしき場所から話し声が聞こえてきた。でも……なんだか、雰囲気は悪い気がする。
そーっと近寄ってのぞいてみると、何やら怒られている。あれは料理長さんとメイドさん……?
「何度言ったらわかるんだ?いつもミスばかりで、お前はいつちゃんと仕事ができるようになるんだ!」
「申し訳ございません」
「そんな食材使い物にならない。まったく、どうしたものか」
「……本当に申し訳ございません」
ぺこぺこと頭を下げて謝っているメイドさんは、どうみてもわたしより若く、幼さが残っている。
(あんまり怒られて、かわいそうになってきた)
「あの~……」
(はっ!無策のまま話しかけてしまった)
「聖女様……!お見苦しい所をお見せしてしまいました」
慌てて頭を下げる二人。
「何かあったのですか?」
「聖女様がお気にかけるようなことではないですよ。ただ、こいつが発注ミスをしてしまいましてね」
ふと大量に積まれた見覚えのある食材が目に入る。
「あっ!マサの実」
「え?これをご存じですか?」
「オーク村でよく食べていたんです!そのままでも美味しいし、サラダやジャムにしても美味しいですよね」
「……」
ふと気付く。メイドさんが怒られていた原因はこれかな。
じゃあ……
「わたし、マサの実大好きなんです。毎日食べても飽きないくらい!とっても、うれしいなぁ~」
少し気まずそうな料理長さんと、驚いた顔のまま凍り付いているメイドさん。
少しの間の後……
「聖女様もいらっしゃることだし、今日はこの辺にしておこう。リリィ、下がってよい」
「……はい」
「じゃあ、わたしも失礼させていただきますね。あの、いつも美味しいお料理、ありがとうございます」
「聖女様……!!身に余るお言葉です」
深々と頭を下げた料理長さん。わたしと、リリィと呼ばれたメイドさんはその場から離れた。
よしっ!
何とか穏便に済ますことができた!!
しばらく廊下を無言で歩き、少し離れたところで、メイドさんが話しかけてきた。
「あの……本当に、ありがとうございました!!」
「いやいや、廊下を歩いていたら偶然聞こえてしまって」
「私、『ミサ』と『マサ』の発注を間違えてしまったんです」
思い出してしょんぼりするメイドさん。ミサの実ってなんだ!気になる!!
「それは……大変だったね」
「いえ、ミスばかりする私が悪いんです」
しょんぼりとうなだれている。
「大変だね……メイドさんのお仕事って忙しいの?」
「私に任されているのは食材の管理、お掃除、聖女様の身の回りの簡単なお世話などです」
「へえ~、一つのお仕事に特化しているわけじゃないのか」
「あれ……」
そういえば!
「この前、わたしが廊下で迷子になってたら助けてくれたよね」
「は、はい。あの時はお部屋にいらっしゃらないので慌てて探したんです」
「うっ」
勝手に出歩いて迷子になったわたしを探してくれたのね……
その後、わたしたちはしばらくたわいもない会話をした。
そして、けっこう時間が過ぎたことに気付く。
「忙しいのに引き留めてごめんね!リリィ……、この世界で知り合いがあまりいないから仲良くしてね」
「そんな恐れ多いです!!」
「まあまあ、硬いこと言わないで。たまに、話し相手になってくれるだけでもいいからさ」
「うっ、はい。聖女様のおっしゃることなら」
「できれば、ユーナと呼んで欲しいな。じゃあ、またね!」
わたしの部屋の前まで付き添ってくれたリリィは深く礼をして仕事に戻っていった。
気軽に話せる同性の友達がいないから、これからもっと仲良くなれるといいな。
余談ではあるが、その後しばらく、わたしは十分すぎるほどのマサの実料理を味わうこととなるのだった……
・・・・・・
城に来て、あっという間に2週間ほど経った。相変わらずロイドと魔法の練習をした後は、城の散歩をするか読書をするかといったところで、特に大きな出来事はない。
城で働くいろいろな人とも積極的に話すようにした結果、リリィの様に近しくなった人も増えた。わたしをここに連れてきてくれたシオウとは、もっと話したいなと思っていたけど、忙しいようで何度か廊下ですれ違って挨拶した程度だった。
「ユーナ様、上手です」
今日もわたしは鍛錬場にいる。
これまで、ロイドと練習してわかったこと。火の魔法より、風の魔法の方がまだ得意だということ。……まあ、そよ風程度なんだけどね。
「……こんなことできても、役に立たないよね」
「いつも言ってますが、何度も練習することで慣れる、ということもありますから。それに、全ての魔法が得意というわけじゃないですから、何か特化した能力があるかもしれません」
「そうだね」
少ししょんぼりしていると、ロイドが気を遣って飲み物を持ってきてくれた。二人で備え付けのベンチに腰掛けた。
「ユーナ様は、とても真面目ですね」
「えっ?」
「でも、あまり思いつめないでくださいね。きっと、聖女としての力を発揮できますから」
(ロイドは、わたしが聖女としての責任で悩んでいると思ってるのかな)
「うーん…実をいうとね、わたしはどんなにがんばっても、この世界を救うとか、魔王を倒すとか全然できる気はしないよ。帰っていいといわれたらすぐにでも帰りたいし」
「そう、ですよね」
一瞬目を見開いたロイドだったが、すぐに納得したように頷く。
(でも……)
「止まっちゃったら、もう進めなくなる気がする」
わたしは続ける。
「何もせずに部屋に籠っているより、こうやってロイドと体を動かしていたほうがずっと元気になれる気がするんだ。それくらいしか、今は考えてないの。ごめんね、せっかく教えてくれているのに、こんなに頼りない聖女で」
「いいえ、ユーナ様の気持ちが知れて良かったです」
にっこりと微笑んだロイドが、なんだか大人びて見えた。
「そういえば、ロイドは、いくつ?そんなに、歳も離れてなさそうだけど」
「俺ですか…?18になりますかね」
「若っ!でも、ロイドって偉い立場にいるんだよね」
「魔導士は年功序列ではなく、実力で地位が決まる世界ですから」
「じゃあ、ロイドもすごい魔法が使えるんだよね!」
「まあ、魔力の問題もありますし、いろいろ研究してきた結果を認めてもらえたんだと思います」
「ロイドって頑張り屋さんなんだね。努力したことが認められて、今のロイドがいるんだもの、尊敬しちゃうな」
わたしの一言は意外だったようで、ロイドは目を瞬かせた。
「……あ、りがとうございます」
ロイドは、いつも根気強くやさしくわたしに付き合ってくれる。
こんなわたしでも、何かできることがあればいいのにな。
・・・・・・
その夜、わたしは机に向かっていた。
『アレクス、クレア、元気?
わたしはというと、お城にきたとき、最初はどうなるかととても不安だったけど、みんなに良くしてもらって元気に過ごしているよ。村のみんなに変わりはないかな?また、オークに行きたいです』
この手紙はすぐに出しても、届くまでに早くても一週間はかかる。
元気かな、村のみんな……
お城での生活に不満はないけど、村のことを思うと寂しい気持ちになる。
また、アレクスたちと会える日が来るかはわからない。
でも、せめてそれまで元気にしていようと心に決め、わたしは眠りについた。




