15.王国の事情
「お疲れさまでした、聖女様、城へ着きました」
声を掛けられて窓の外を見ると、もう夜になっていた。城下町……どれだけ広いのだろう。
シオウに注意されてからは大人しく馬車の中で座っていたので、その後の外の様子は確認していないけど、門をくぐって最初の喧騒はだんだん落ち着いてきて、徐々に閑静な場所に来ているのはわかった。
馬車からおりると、そこにはとても美しい、立派な建物がそびえ立っていた。
白い美しい城。夜の闇にも存在感が負けることなく、淡く光っている姿は思わずため息が出る。神秘的で荘厳な建物に、しばらく目が釘付けになった。
これから、わたしにはどんな運命が待っているのだろう――……
と、とりあえず、
「ありがとう、シオウ」
・・・・・・
なぜか不思議な間が空く。
えっ……と?何のお礼かわかりにくかったかな?
わたしは改めて感謝を伝える。
「あの、ここまでいろいろ気遣ってくれて、無事に連れて来てもらって、助かりました。……の感謝を伝えたくて」
シオウの顔をじっと見てみると、いつもと表情はほとんど変わらないけれど、少し驚いていたんだろうと分かった。ここ一週間接していたので、ほんの少ーしだけ彼が考えていることが表情からわかるようになってきた気がする。
……でも、なんで驚かれているのかはさっぱりだけど。
「……いえ、私は自分の仕事をしたまでです」
再び業務的な表情に戻ったシオウは、わたしに向かって礼儀正しくおじぎをすると、その場を立ち去って行った。一緒に連れてきてくれた他のみなさんにもお礼をしていると、城の中から出てきた大勢の女の人に囲まれてうやうやしく挨拶をされる。みんな綺麗で整ったメイド服を着ているので、きっとお世話をしにきてくれたんだろうと分かる。そのままばたばたと部屋に連れていかれると、用意されていた煌びやかなドレスに着替えをするよう促された。自分でやるといっても断られ、半ば強引に手伝ってもらった。
そしてほとんど休む間もなく、次の部屋に案内される。
城の中は、やはり広かった。長い長い廊下をなんども曲がり、たどり着いたのは如何にも「謁見の間」。
わたしをここに連れてくるよう命じたのも王様ということだったから、きっと挨拶するんだよね。
すごく豪華な場所に、偉そうな人たちがずらっと並んで立っている。
その奥に座っていたのは……
思ってたのと違う。
王様と言えば、勝手に恰幅のいいおじさんを想像していた。もしくはすごく威厳のある、百戦錬磨の戦士、とか?
でも、目の前の玉座に就くのは、少年と言ってもいいほど若い男性だった。
入り口側にいるわたしと王様らしき人物の間には、けっこう距離がある。促されてもう少し顔が分かるくらいの距離に進むと、さらにその姿がはっきりした。
薄い金色の髪は、室内の灯りに当たるとさらさらと輝いている。日中、明るいところで見たら、さらにきれいだろうな……。うつむいていて一切視線は合わないが、時折動く瞳は、おそらく金色だろうか。
お人形さんみたい……!
今まで出会ったどの女子よりも美しいんじゃないかな……
それにしても……
どうしたらいいんだろう、わたし。
困ったままじーっと視線を向け続けていると、一瞬だけ目が合った。
……と思った瞬間、あわてて目を逸らされた。
かなりおどおどした感じがするんだけど、この王様大丈夫なのかな?
ここに呼ばれたからには、挨拶したほうがいいのかな――……?
など考えていると、横から声が上がった。
「セント=フェアリア王国国王、レイヴァル様です」
王と紹介されたその男性は、その後も特にこちらを見ようとも話しかけようともしなかった。
「ええと……お初にお目にかかります、ゆうなと申します」
すっとお辞儀をする。失礼な態度とってないかな、自分。
その後、その場にいる人たちも簡単に自己紹介してくれたけど、ほとんど覚えきることはできず、とりあえず引きつり笑いでやり過ごすタイムに突入。そして、今のところ一言も発せず空気化している王様。
「聖女様!」
そこで、なんだか聞き覚えのある声……
順番が来るのを待ち構えていたように、王の横にたくさん並んでいる偉い人達?の中の一人がこちらに一所懸命話しかけてきた。
必死に最近の記憶を辿っていると、そのまま話しかけてきた男性が続けた。
「あっ、俺、ロイドと言います。ひどいですよ、聖女様、せっかくこの世界に来てくださったと思ったら、速攻逃げ出しちゃって……あの後探し出すのにものすっごい苦労したんですからね!」
「あっ!あの時の……」
この世界に来て、一番最初に話しかけてきたローブの人だ。今もフードをかぶっているけど、初めて見たときよりは明るいので表情が見える。あの時は気付かなかったけど、思ったより若い感じがする。少し釣り目の、黄色い瞳。怒っている……?のか、目が見開いている。
「ごめんなさい……ちょっと混乱してて」
とっさにあやまってしまったけど、ほんとにわたしが悪かったのかな?
……いや、何の説明もないまま連れてくるほうが100%悪いよね。
などとぐるぐると考えていると……
「まあロイド、聖女様は突然召喚されて混乱されていらしたんだ。しょうがないだろう」
ごほん、と咳ばらいをする壮年の男性。
この人は覚えたぞ、チェスターさん。かなり恰幅がいいおじさん……覚えやすい。
「先代の王はあらゆる攻撃魔法、武術の達人でありました。しかし、先王が崩御され、最近では魔物が増えてきたのです」
今度は細身で神経質そうな……ジンさん。このひとも大臣の一人だったな。
「それで、俺たち魔導士団で相談して、この国を救ってくれる聖女様を召喚しようって話になったんですよ!」
ロイドさんが興奮気味に話に割り込んでくる。
「聖女様にとってはあまりにも唐突な話であることは重々承知しております。我々がどれほど無理を言っているのかも」
宰相のウォーレンさんだっけな……がわたしに話しかけてくる。この人は威厳のあるおじいさんという感じだ。宰相というのがどういう立場なのかよくわからなかったが、王様に意見できるような偉い人らしい。
「聖女様には申し訳ないが、どうしてもお力を貸していただきたいのです」
「あの――……」
わたしには、何もわからない。そして、答えられない。
ありがちな話だけど……自分がその当事者になってこの場に立っているというのは現実味がなかった。
その後、みなさんから謝られたりいろいろとお願いされたりしたが、今のわたしには不思議と怒りも悲しみも感じられなかった。
そのまま、きょろきょろと話しかけてくる人の方に顔を向けるしかない状況が続いた。
そして……
ふと気になった目の前の少年王様は、どんな気持ちで話を聞いてるんだろう……つまり、今の王様ではどうしようもないってことだよね。そんな話を当事者の前でされてる。なんか、いたたまれないんだけど。
このまま、なんだかすごい力を持ったわたしが魔物たちをばっさばっさと倒しまくって、世界平和がもたらされるのかな?まさかね……
「ものすごいRPG……これで魔王退治なんてシナリオだったらすごい……」
つい口からでたつぶやきに、周りの人々はどよめいた。
「さすが聖女さま!」
「この世界を知り尽くしておられるのか」
「まさか魔王の復活まで見越しているとは!」
ざわざわ
「えっ、まさか……」
わたしは大変なことに巻き込まれているのだと、この時改めて感じたのだった。




