13.動き出した運命
――その日は突然やってきた。
わたしはヒカリソウの栽培について研究するため、サイラスさんと一緒に畑にいた。ここに通うのはもう何度目だろうか。すっかり日課になっている。
「すごい!カイルの言った通り、花が育ってる!」
「あいつもいろんな地域を回って、ものすごい知識を持っているからな」
「これなら、安全にハチミツを量産できそうですね!」
「うむ、まだいろいろ試してみないといけないこともあるが、第一歩という感じじゃな」
「やったー!ハチミツパン、たくさん食べれる!」
先日カイルからもらったアドバイスの通り、わたしの見える魔力(わたしにとっては、色の違いに見える)でヒカリソウを植える場所を変えてみた。すると、それまでうまくいかなかった栽培が成功したのだ。これで、わたしの大好きなハチミツパンを思う存分堪能できる!
カイルはというと、各地を廻っている商人というだけあって、とても忙しいらしい。初めて出会ったその日のうちに、べつの村へ向かって旅立っていった。もう少し話して、いろいろな知識を教えてもらいたかった。また、会えたら詳しく聞いてみたいことも多い。
でも、ひとまずは成功!サイラスさんと健闘を称えあい、手を握り合っていた時だった。
「ユーナっ!」
アレクスがやってくる。なんだか落ち着かない。アレクスには珍しく、何かに焦っている様子だ。
「アレクスどうしたの?」
違和感にはすぐ気づいた。
……アレクスだけじゃない。
後ろから見知らぬ顔が現れる。でも、何となく見覚えがあった。
わたしがこの世界に来て最初に会った、たくさんのローブの人たちと……服装が同じだ。
「ユーナ……王都から使者が来た」
「王都?」
わけもわからないまま、アレクスの屋敷に戻る。そこには、見知らぬ数人が待っていた。
ローブの人がわたしを指さし、口を開いた。
「間違いありません。この女性です」
その言葉を聞いて、王都から来たという何人かのうち、真ん中にいた男性が前に出る。
そして、わたしに向かって一礼をすると、話しかけてきた。
「お初にお目にかかります。シオウ、と申します。王の命により、貴女を城までお連れすることとなります。」
「王……さま?」
わたしに話しかけてきたのは、アレクスとそう変わらないくらい、若い男の人だった。きっちりとした黒い服を着ていて、身分の高そうな人だと思う。
整った顔立ちのその男性の表情はというと、口角は上がって一応の笑顔が作られているものの、その瞳からは感情が読み取れなかった。抑揚のあまりない、機械のような話し方だなと思う。でも、どことなく懐かしさを感じるのは、この世界でわたしが見た限りでは珍しい……黒い髪と瞳だったから。
「シオウさん、ですか?あの……王というのは?」
「シオウ、で結構です。私は何も返答できる立場にありません」
「そんな……」
「……」
きっぱりと話を終え、それ以上会話を続ける意思は全くなさそう。
「ねえ……アレクス」
思わず、無言で隣にいるアレクスに助けを求めて顔を向けた。アレクスの表情も硬く、感情が読み取れない。困り果てたわたしが何も言えずにいると、数秒の間の後、アレクスが口を開いた。
「ユーナ、君をこの世界に召喚した張本人は、おそらく王都にいるやつだ」
「じゃあ、あの時最初にいた場所は……その『王都』だったのかな」
わたしが寝ていたら突然連れてこられた、神殿のような場所を思い出す。
だからと言って、目の前の男性に付いて行くという選択肢は、本当に正しいのだろうか。こちらに話しかけてくる様子といい、アレクスや村の皆のような親しみも感じられない。
……わたしの力が必要と言っても、その目的も何もわかっているわけではない。
迷っているわたしに、アレクスが続けた。
「ユーナは、もとの世界に戻りたいと言っていたよな?」
「うん」
「もし、その方法を探りたいなら……ここにいるよりその男について行った方が可能性はある」
最初にここに来たときは、アレクスはよく知らないと言っていたけれど……何か『聖女』に関する事情を知っているんじゃないのだろうか?
でも、その顔を見るとなんだか深く聞けずに沈黙してしまった。
ここでの生活にやっと慣れてきているのに、それを手放してしまうの――?
「しばらく考えさせてもらえませんか?」
「貴方がどのようにお考えでも、王の命ですので来ていただくほかに選択肢はありません」
「もしも断れば?」
「どのような手段でもお連れしろとのことです」
「……」
すごく、冷たい言い方……
でも……アレクスもああ言っているし――……
ぐるぐるといろいろなことを考えて、わたしは口を開いた。
「――わかりました。連れて行ってください」
その言葉を聞いた男性……シオウは、わたしに深い礼をした。
正直、ここを離れるのは辛い。そう思うほどにオーク村での生活に馴染んでいる自分がいる。でも……本当にこのままの生活を続けていてもいいのかは、どれだけ考えても答えが出ない。
自分の置かれている状況を知るため、そして少しでも前進するため、わたしは行動することにした。




