温室
一人サザンクラース国の王宮に残されたフォザリアは不安でいっぱいだった。
(どうして私残ることになったんだろう・・・ルカルナ様は理由を知っていたみたいだったけど何も教えてくれなかったし)
フォザリアはルカルナを港まで見送ってきた後、用意されていた部屋で一人ポツリと座って何か言われるまで待っていた。
「ふあ~」
首をまわしながらブツブツ独り言を言った。
「昨夜は結構睡眠とったはずなんだけどあくびばっかりでるなあ。最近働きすぎだったのかな.けど、フォーラがうちの店に入ってくれることになったし店に戻ったらまた頑張んなきゃ。そうだこの際サルジュ様に協力してもらってお茶会を開いてもらおうかな。そこで宣伝できたらこの国でも新しい新規のお客様をゲットできるかもしれないし。せっかくサザンクラース国に来たんだし、そうだ!シュンナゼリアの花ってどの季節の花なんだろ。王宮の温室にあったりするのかな。ああっ!もしかしてそのことで私だけ居残りだったのかな・・・そうかあ、だってルカルナ様は別に公式訪問の予定でもなんでもなかったんだし、きっとそうかもしれない」
フォザリアはそんなことをのんきに考えてサルジュの用事が何なのか思い巡らせていた。
お昼が過ぎ、食事を運んできてくれた侍女たちが部屋を出て行って、一人で食事を食べ終わった頃、突然、サルジュ本人が部屋に入ってきた。入ってきたというより飛び込んできたといった表現が正しいような慌てぶりだった。
「フォザリア!一緒にきてちょうだい!」
「えっ?えっ?サルジュ様、何かあったのですか?」
「いいからわたくしときなさい!時間がないのよ」
「はっはい!」
フォザリアはうながされるまま立ち上がるとサルジュの後を追って王宮の宮殿の奥へと入って行った。
(ここってもしかして王族の部屋とかある区域なんじゃないかしら・・・広々とした通路と豪華な宝飾品すごいわねえ)
フォザリアはサルジュの後ろを必死でついて走りながらそんな光景を横目でみながら走っていた。そしてたどりついた場所はなんと部屋ではなく温室だった。それも全面ガラス張りで周囲はかなり大きい円形の建物だったが中から何かが割れる音や、外にまで鉢植えが飛んできてガラス張りの温室は無残な光景が広がっていた。
「ちょっとこれはどういうことなの!」
温室の前にも二人の騎士が立っていてサルジュの姿を見ると敬礼して報告していた。
「申し訳ありません。既に数名中に入りまして姫様をお止めしたのですが鉢を辺り構わず慣れられるものですから今はいられるのはかなり危険かと存じます」
「まったく誰に似たんだか気が荒くて怒り出したら見境ないものね。だけどもうすぐ咲くのでしょ。間に合わなくなるじゃない」
中をのぞき込みながらサルジュがいうと入り口に立っていた騎士が言いにくそうに言った。
「それが・・・申し訳ありません。実は、本日咲く予定になっておりましたシュンナゼリアの花のつぼみを王妃様に報告した直後トト様が食べてしまわれまして」
「なんですって!今年最後の一輪だったのに・・・あれほど見張っていなさいって言っておいたでしょ。どうしてリューシャスとトトを入れちゃったの!えっ?待ってリューシャスがつみとっちゃったんじゃないの?」
「はい、最後のつぼみを食べたのはトト様です。申し訳ありません。食事を終えられてから換気の為に開けていた窓から入られたようで見つけた時には既に遅く、後から花を見にいらしたリューシャス様がお怒りになってあのような状態に」
「トトの仕業なの・・・迂闊だったわ、そういえばあの子の大好物だったわね。それでトトはどこ?」
「はい既に避難させてお部屋に連れて行っております」
「そう、でもこのままじゃ他の花もダメになってしまうわね。どうしたものかしら」
サルジュと騎士の会話を聞いていたフォザリアが後ろからサルジュに話かけた。
「あのサルジュ様、私でよければお力をお貸しいたしましょうか?」
「えっフォザリア、あなたじゃ無理よ。あなたにシュンナゼリアの花を見せてあげようかと思っていたんだけれど、ごめんなさいね。わたくしのトトが食べちゃってるなら意味ないわね。ごめんなさい。今年最後の花だったんだけど・・・」
温室の様子を伺いながらサルジュがフォザリアに言った。
「いいですよ。サルデーニャ様からお聞きになったのですか?シュンナゼリアの花はまた来年咲くのでしょう?その時にまたみせてくださいませ。それより中で暴れていらっしゃるのはどなたなのですか?」
「ああ、わたくしの下の娘よ、きかんきが強くて気に入らないことがあるとすぐ癇癪を起すのよ」
「そうなんですか、私が中に入ってもよろしいですか?」
「あら駄目よ、あの子あの状態になったら騎士たちが十人がかりでも手に負えないのよ」
「私、子どもをなだめるのは得意なんです」
そういうとフォザリアは温室の扉に手をかけた。
「フォザリア!」
フォザリアはサルジュの静止を無視して中に入った。中に入ってあまりの惨状に目が点になってしまった。綺麗に管理されていたであろう温室の内部がみるも無残な状態になっていたからだ。
「あらぁ~派手に暴れましたね」
フォザリアは努めて陽気な声で話しかけた。温室の中で手あたり次第の鉢をあちこちに放り投げているのは八歳ぐらいの金髪の巻き毛のかわいらしい女の子だった。
「あなた誰の許可を得てここに入ってきているの!出て行きなさいよ」
「ええ~意地悪言わないでくださいよ。私シュンナゼリアの花を見たくてサルジュ様に案内していただいたんですから」
フォザリアはそういうと、暴れているリューシャス王女のそばまでゆっくり近づくと腰をかがめて目線を落として言った。
「おあいにく様、もうその花はないわよ。咲くのはまた来年よ。あの生意気なトトの奴が食べちゃったのよ」
そう言いながらじだんだを踏んでまた手に持っている鉢を放り投げようとした瞬間フォザリアがそれを取り上げた。
「何をするの!私に逆らってただで済むと思っているの!」
怒鳴り散らしているリューシャス王女にフォザリアはにっこり微笑み返して言った。
「私はあなたの召使ではありませんから首にはなりませんよ。それより、こんなことをして楽しいですか?」
「ええ楽しいわよ」
「そうですか、では私も一つ」
そういうと、足元にあった花が咲き終わって枝だけになっている鉢を手に持つと、それを頭の上まで持ち上げると地面に思いっきり振り下ろした。ガッシャーンと大きな音が響いた。
思わずビクッとなったリューシャス王女が叫んだ。
「あっあなたそっそんなことをしてただですむと思っているの?ここにある花はお母様のお気に入りの花ばかりなのよ」
思いもしないフォザリアの行動にリューシャス王女も驚いている様子だった。
「あらそうだったんですか?私はてっきり壊していい物ばかりを集めている温室なのだと」
「そっそんなわけないでしょ。あなた馬鹿なの?」
「そうですね。馬鹿なのかもしれませんね。でも少しスッキリしました。病みつきになりそうですね」
にっこりと微笑みかけたフォザリアはまたかがみこんでリューシャス王女に向かってまた別の鉢を手渡した。
「はいどうぞ!」
あっけに取られているリューシャス王女にフォザリアはまた続けた。
「ですが、花たちの悲鳴が聞こえますね」
「わっ私には聞こえないわ」
「そうですか、それは大変ですね。呪いをかけられたかも知れませんよ」
「のっ呪い?」
「そうですよ。だってこんなにしちゃったらここの花たちは枯れてしまうかもしれないじゃないですか。そうしたら花の精霊たちが怒ってここの場所にはもう綺麗な花を咲かせてくれなくなるかもしれませんよ。精霊たちは怒らせると怖いんですよ」
「そっそんな話聞いたことないわ。花なんてまた取り寄せて植えさせればいいじゃない」
「それでは駄目なんですよ」
「どうしてよ」
「だって、そんなことをしても本当に綺麗に花たちは咲いてくれないもの。花たちも生きているのですよ。だからつぼみになって綺麗な花を咲かせるんですよ」
「だって・・・だって、私・・・トトが」
「トト?」
「そうよ、お母様の可愛がっている犬よ、私楽しみにしていたのよ。シュンナゼリアの花が咲くのを、あの花の開花の瞬間を見ることができたら一年間は幸せになれるって言われているのよ。だけどあの花は一瞬しか咲かなくていつもタイミングを逃していたの。最後だったのよ。私今日咲くって聞いて頑張って早起きしてずっと待っていたのにお昼を食べている間にトトがトトが食べちゃったんだもん」
そう言って涙を浮かべたリューシャス王女にフォザリアが言った。
「そうだったのですか、ではサルジュ様の許可を得られたら私が代わりにトト様にコラって怒ってあげます」
「駄目よ、お母様でもいう事聞かないのよ。私なんか格下扱いだもん」
「あら私ワンちゃんの扱いはうまいのよ」
「本当?」
「はい」
「じゃあ後でトトの部屋に案内するからきちんと叱ってくれる?」
「ええいいですよ。ですがその前にここの片づけをいたしましょうか?」
「どうして私がしないといけないの?」
「あなた様が壊したからですよ。私も壊しちゃったものがあるから一緒に片づけましょう。そして一緒に花や木の精霊さんたちにごめんなさいをしましょう」
「片づけなんかしたら手やドレスが汚れちゃうじゃない」
「あら、手は洗えばきれいになりますよ。でもいいんですか?他の人にさせたら来年もシュンナゼリアの花を見せてもらえないかも知れませんよ」
「・・・片づけをして謝ったら来年は見れる?」
「それは精霊さんたち次第ですね」
フォザリアがそういうと、リューシャスはしばらく無言のまま立ち尽くしていたが、今まで壊していた鉢に向かって頭をさげた。
「お花さんたちごめんなさい」
「えらいですね。さすがリューシャス様ですね。私も見習わないといけませんね。お花さんいたい思いをさせてしまってごめんなさい」
フォザリアも今壊してしまった鉢に向かって頭をさげた。
「許してくれるかな・・・」
「そうですね。じゃあ、皆様にも手伝ってもらって花さんたちを新しい植木鉢に移し替えてお水をあげましょうか」
「うん、私もする」
「ありがとうございます。では一緒にしましょう」
そう言ってフォザリアは温室の隅にあった空の大きな袋を持ってくるとリューシャスに渡した。
「これをもっていていただけますか?私が壊れた鉢を入れていきますから」
「わかったわ」
リューシャスは素直に言われた通りその袋を受け取ると手に持った。
「姫様、我々もお手伝いいたします」
振り向くと多くの騎士たちも壊れたガラスは鉢などを片づけ始めた。
「リューシャス」」
「お母さま!」
リューシャスはとっさに目の前にいたフォザリアの後ろに隠れた。
「リューシャス様、一緒に謝りましょうか?」
「許してくれないわ」
「あら、やってみないとわからないでしょ」
フォザリアはリューシャスの手を軽く握り返してほほ笑んだ。
「私も同罪ですから一緒にごめんなさいしましょう」
「うっうん」
「サルジュ様、大切な温室の鉢を割ってしまいました。申し訳ありませんでした」
「おっお母さま、ごっごめんなさい」
リューシャスは握られたフォザリアの手に力を込めながらフォザリアの後ろから顔を出して謝った。驚いた顔をしているサルジュだったが娘に近づくと笑顔になって言った。
「リューシャス、わたくしも手伝うから一緒に片づけましょう。片づけ終わったらわたくしも一緒に精霊さんたち謝ってあげますよ」
「ほっ本当!」
「ええ」
笑顔になったリューシャスと共に大勢の騎士たちの手伝いもあって壊れた鉢やガラスなどがきれいに片づけが始まった。




