過去と未来
片づけが終わった後、新しい鉢に花たちを植え直し、水をやり終わった後、約束通り、フォザリアはリューシャスと共にもう一度温室の中全ての植物に対して頭をさげながらごめんなさいをした。サルジュと騎士隊も頭をさげていた。そして花に水遣りをそれぞれが始めようとしたその時リューシャスが叫んだ。
「ねえねえ、見て見て、あれ!」
リューシャスが叫んだ。それは新しく植木鉢に入れた花なのだが、隅に置いていた咲き終わって葉っぱしかついていない花の苗に突然新しい花のつぼみがつき花が開き始めたのだ。
「あら、これシュンナゼリアの花じゃない。今年はもう全て終わったはずなのに」
サルジュも驚いている様子だった。リューシャスは別の場所に移動していたフォザリアの所に駆け寄ると手を掴んで叫んだ。
「きて!あれよあれがシュンナゼリアの花よ」
リューシャス王女が指さした先には手の平サイズの大きな花びら一枚一枚が全て違う七色の花びらが満開に咲き開き始めていた。
「すごく綺麗ですね。こんな花は初めて見ました。それになんだかいい匂いがしますね」
近くまできてしゃがみながらその花の開花を見たフォザリアが言った。
「でしょ、この花が咲く瞬間を見ると幸せになれるのよ。ほらすぐしぼんじゃうでしょ。だから中々見ることができないのよ」
「私もね、今年は初めてなのよ。最後の花が昼間に咲きそうだってきいてて絶対見ようって思っていたのに直前になってトトが飛び込んできて食べちゃったの。最初は追い出そうとして鉢をなげちゃったの。お母さまごめんなさい」
「もういいわリューシャス。でも見れて良かったわね。これもフォザリアのおかげね」
「うん、妖精さんが許してくれたのかな」
「そうかも知れないわね」
サルジュとリューシャス王女がシュンナゼリアの花を最後まで見ながら話している姿をフォザリアはニコニコしながら眺めていた。
(私の背中にもこんなかわいい花のあざがあるんだ。何だか得している気分、でもいいなあ…お母さんと幸せを共有できて)
二人の姿をうらやましく感じながら見つめていると急にリューシャス王女が振り向きフォザリアに向かって言った。
「ねえ・・・あなたフォザリアっていうの?」
「はい、ただのフォザリアです」
「フォザリア、ありがとう。多分あなたがいたから花が咲いたのよ」
「いいえ、姫様のお気持ちが妖精さんに通じたのだと思いますわ」
「そっそうかな」
「はい」
その言葉でリューシャス王女は嬉しそうに騎士に手伝ってもらい花に水を注ぎ始めた。その様子を眺めながらサルジュが横にいたフォザリアに言った。
「ありがとう。あんなリューシャスは初めてよ。やっぱりあなたはわたくしにとっては幸運の女神だわ」
「そんな恐れ多いです。リューシャス様はとても純粋なのだと思いますわ。王女様なんてきっといろんな制約があって大変なのでしょうね。キチンと叱ってくれる家庭教師かお付きの者が必要なのだと思います」
「そうね、あなたがそれをしてくれると嬉しいのだけれど、無理よね」
「すみません、私の居場所はトルマーバルトなんです。今度ここに来る時はもっとゆっくり観光もさせていただきたいなとは思いますけれど」
「そういうと思ったわ。サルデーニャにもくぎを刺されているのよ」
「えっ?」
「あなたはあげないわってね」
「わっ私は物ではありませんが・・・私を必要としてくださっているのはうれしいです」
「はあ・・・わたくし回りくどい言い方は苦手なのよね。単刀直入に聞くわね。ねえ、フォザリア、あなたの素性が分かるかもしれないって言ったらどうする?知りたい?」
「えっ素性ですか?本当ですか?でもどうして・・・」
「あなたが捨てられた時にくるまれていたおくるみがまだ保存されていたってサルデーニャが調べてくれたのよ。それは我が国の布だってわかったのよ。調べればわかるかもしれないわ」
「そうですか・・・」
「でっどう?知りたくはない?」
サルジュの言葉にフォザリアは頭が一瞬真っ白になった。聞きたくないといえばうそになる。知りたくて知りたくて仕方がなかった。フォザリアはしばらく頭の中で自問自答した。そして
「そうですね。私ずっと思ってました。私は何者なんだろうって、だけど、私は私だって思い始めたんです。どこの誰から生まれようと。私は私が生きたい場所で頑張って生き抜こうって思うようになったんです。私が生きたい場所は、トルマーバルト、大切な人達と笑ったり、怒ったり頑張ったりしたいなって思うんです。ですからすみません。無理に探すのは止めます。私を捨てたのにはきっと何か理由があったのかもしれませんから、もし無理に探して今幸せな両親の幸せを奪うことになったら申し訳ないし」
「そう、あなたがそう決めているのならもう詮索はしないわ。この話はおしまい。そうそう、今度はビジネスの話をしましょう。実はねわたくしのトトはおまぬけでどうしようもない犬なんだけど、すごくかわいいのよ、それでね、あの子をモデルに陶器の置物を作ってくれないかしら?あの子やんちゃだけど可愛いのよ」
笑顔でいうサルジュにフォザリアも笑顔で返した。
「了解いたしました。トト様の置物は特別に今回の事件のお礼として無償で制作させていただきますわ。完了いたしましたらご連絡いたします。その前にトト様に一言ご注意させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええいいわよ、素直に反省するかはわからないけれど」
「ありがとうございます。それと、奴隷として売られてきた子達の仕事を斡旋してくださったとか、何から何までご迷惑とお手数をおかけしてしまって申し訳ありませんでした」
「あらいいのよ。あなたにはこれからも素敵な商品を作っていただきたいもの。でも不思議ね」
「何がでしょうか?」
「こう見えてもわたくしこの国の王妃なのよ。あなたはわたくしを目の前にしてもビクビクしないし、ふとあなたが17歳だって忘れてしまいそうになるのよ」
「そうですね。私も自分の歳を忘れそうになる時があります」
そう言ってフォザリアは頭をかきながら苦笑いをサルジュに向けた。
「ふふっでも、わたくしはあなたが好きになったわよ。これからもわたくしとお友達になってくれるかしら」
「はい!喜んで」
「よかったわ、陛下も息子もあなたに合えなかったことすごく残念がるでしょうね。フォザリア、いいこと、必ずまた遊びにくるのですよ。今度また奴隷などといいものに紛れ込んできたら許しませんよ!」
「了解いたしました。次は全力で他の方に助けを求めます」
「そうなさい」
サルジュは軽く頷くと、フォザリアに笑顔をむけ、花にまだ水をあげている娘に話かけに行った。
フォザリアはその後トトがいる部屋に案内され見事しつけに成功したのであった。フォザリアが注意すると言葉が理解できているかのようにシュンとなってフォザリアの言葉を聞きいっているように見えた。その様子を見たリューシャス王女はいっきにフォザリアを気に入ってその後の滞在している二日の間べったりくっついていた。
トルマーバルトに戻る前夜、夕食が終わって、フォザリアがすっかりなついてしまったトトとじゃれあいながら絵のスケッチしながらその置物に着せる衣装の打ち合わせをしている時だった。フォザリアがトトとじゃれあっている様子をほほ笑みながら眺めていたサルジュがふとつぶやいた。
「そういえば、わたくしの姉も犬にはすごく好かれていたわね」
「えっ?サルジュ様はご姉妹がいらっしゃるのですか?」
「ええ、兄が一人と姉が一人、兄は今はこの国の宰相をしているわ」
「そうなんですか、いいですね。ご兄姉がいらっしゃるなんて」
「そうね、ねえフォザリア、あなた本当に両親のこといいのよね?」
突然の質問にフォザリアはしばらく考えて答えた。
「この間ももうしあげましたけれど、本当いうとどんな人達なんだろうと考えたことはあります。自分がどこの誰から生まれたのかを知ることができたらスッキリするだろうなとは思いますけれど、今は私は守るべきものがたくさんできたし、一人で自立して生きていくことができていますから、今はそうですね。今はすごく楽しいんです。だからこそ・・・知るのが怖いんだと思います。聞いてしまったら私が私でなくなる気がして・・・」
「怖い?」
「はい、別の誰かになることが怖いんです」
「真実を知った所であなたはあなたでしょ」
「それはそうなのですが」
「もし両親のどちらかが犯罪者だったとしたら、将来私と婚姻してくれる相手ができた時、そのことで周りからいろいろ言われたら申し訳ない気がして、それなら孤児でいた方がいいかなって言う思いもあるんです。きちんとした両親から生まれたかも知れませんけれど」
「あらあなたはあなたでしょ。親のことをグダグダいう人間なんて相手にしなければいいのよ。貴族でも心がいやしい人はいるわよ。そんなことを気にしていたら生きていけないわよ」
「そうかもしれませんね・・私が傷つく分には耐えられますが、私以外の大切な人が私の事で傷つくのは耐えられないんです」
「それは単に逃げているだけね」
「逃げる?」
「そうよ、幸せから逃げているだけじゃない。自分の命よりも守りたい者、側にいたい人が現れたらどんな手を使ってでも手にいれたくなるものよ。相手の為に身を引くのも愛なんていう者もいるけれど私はそんな愛は本物じゃないと思うわ。逃げているだけよ」
「そういう考えもありますね」
「フォザリア、あなたは愛する人が命の危機にあるとしたら、どうするの?」
「私にできることがあるなら全てを捨ててでも助けたいと思います」
「相手もそうなんじゃないの、あなたはたかが生まれの事でその愛から逃げようとしているのよ。あなたは自分も相手も不幸にしようとしているのよ」
「私は・・・」
「私の姉はね、政略結婚を嫌がってずっと思い合っていた騎士と家出をして国をでてしまったの。当時は手を尽くして探したんだけど見つからなかったんだけど。それから数年後、愛する人との間に子どもが生まれたって手紙が一度きたわ。その手紙を元に密かに行方を捜させたんだけど、その手紙を書いてすぐに盗賊に襲われて三人とも亡くなっていたって報告がきたのよ。だから思ったものよ、親のいう通りの相手に嫁いでいたら死なずに済んだんじゃなかったのかって・・・でもね手紙を何度も読んで思いなおしたのよ。お姉さまの人生は不幸じゃなかったんだって。お姉さまはきっと短かったけれど幸せを掴んだんだって」
「サルジュ様・・・私」
「ルカルナ王子、あなたのいい人なのでしょ。あの子すごく真剣な顔で助けを求めてきたわ。引きこもりしていたあの王子がね」
「私・・・」
「ねえフォザリア、あなたがどうしても自分の出生の事であの王子の愛に答えられないというのならうちの国に来ない?王家専属御用達の店として新しく店を手配してあげてよ。もちろん貴族の客も紹介してあげるわ」
「サルジュ様・・・どうしてそんなに親切にしてくださるのですか?」
ここに来てからの疑問をサルジュに問いかけた。するとサルジュがしばらくの沈黙の後に答えた。
「あなたは私の姉に似ているのよ。わたくしはお姉さまに何も手を差し伸べてあげることができなかったわ。だからお姉様に似ているあなたに何かしてあげたいのよ。ただの自己満足よ。あっでも純粋にあなたの店の商品が大好きだからよ。この国でも広がったら素敵じゃない」
「ありがとうございます。あの・・・実は私もサルジュ様の事が大好きです」
フォザリアがいうとサルジュはそっとフォザリアを抱きしめた。
「いい子ねあなたは、もしトルマーバルトに嫌気がさしたらいつでも訪ねてきなさいね」
「はい。ですが多分そんなことにはならないと思いますので、もっともっとお金を稼いでお店が繁盛したら、従業員の子達みんなと一緒に旅行に来ます。その時は案内をお願いします」
「あら、この国の王妃を案内係に雇うなんて大した度胸ね」
「ふふふっ、利用できるものは賢く利用しないともったいないですもんね。頑張ってみます」
「その意気よ」
翌日、フォザリアは今度は奴隷としてではなく騎士の護衛付きのサザンクラース国の王家の客として丁重にトルマーバルトまで護衛されながら船でトルマーバルトに戻ることとなった。
フォザリアは別れ際ルクド港まで見送りにきたサルジュに丁重に礼を言った。
「サルジュ様ありがとうございました」
「フォザリア、必ずまた来なさいね。来ないとわたくしから押しかけるわよ」
「はい、いつか来れるように頑張ります。私の方はいつでもお待ちしております」
そう言ったフォザリアにサルジュはシュンナゼリアの花の苗と小さな長方形の形をした包みを手渡した。
「これは?」
「あなたが求めているものよ。船の中でみてみなさい」
フォザリアは何が入っているのか気になったが言われた通りその場では開くことはしなかった。もう一度丁重にお礼を言って別れた。
やがて小さくなっていくフォザリアにサルジュは手を振りながら小さく呟いた。
「ロスティ―ヌお姉様、あなたの娘は立派な女性に成長していたわよ。きちんと自分の足で人生を歩んでいたわ。これでよかったのよね。できることならフォザリアを可愛い姪っ子だって自慢して回りたかったけれど」
船旅は順調に航海を終え、フォザリアは数日ぶりにトルマーバルトに戻ってきた。もうずいぶん長い間離れていたような気分だった。船を降りたフォザリアをキャナやビゴーラなど従業員全員が出迎えに来ていた。その中に平民の格好をしたルカルナの姿もあった。
フォザリアはルカルナの姿を見てルカルナの胸に飛び込んだ。
「ルカルナ様、只今戻りました」
「あっああ・・・お帰り」
「ルカルナ様、私は孤児で額には大きな傷もある傷物ですけど、私決めました。これからは図々しくルカルナ様に関わっていきますからね。嫌なら今のうちに言ってくださいね。簡単にはあきらめてあげませんけど」
そう言ってるルカルナの頬にキスをした。ルカルナは真っ赤になりながらも抱きしめている腕に力がこもった。
「望むところだ。もう遠慮はしないからな」
「もう、叔父様ばっかりズルいよ!フォザリア!僕は?僕も心配したんだよ」
ルカルナの後ろからロンダが顔をだした。
「うるさい!フォザリアは僕のものなんだ。お前にはやらないからな」
「そんなのまだわかんないじゃないか!」
ロンダはそういうと、フォザリアを抱き寄せているルカルナの手にかみついた。
「イタッ!何するんだロンダ!」
「い~だっ!僕まだあきらめてないからね。フォザリア!僕ぜったい叔父様よりいい男になるよ。勉強だってたくさんするし」
「ロンダ様もきてくださったのですか。ありがとうございます」
フォザリアは二人のやり取りを眺めながら心の底から笑った。そういうとスッとルカルナから離れると、ロンダにも抱き着いて頬にキスをした。その後、キュナにもお礼をいいビゴーラやフォーラとも再会を喜び合った。みんなにくしゃくしゃにされながらフォザリアは船でのことを思い出していた。
船に乗りこんでしばらくした後、フォザリアはサルジュから渡されたプレゼントの包装紙を開いてみた。そこにあったのは小さな額に入った似顔絵だった。若い夫婦と小さな赤ちゃんの三人が描かれていた。そしてその額と一緒に手紙が添えられていた。
〝サルジュ、王太子との婚姻おめでとう。あなたはわたくしの自慢の妹だわ。幸せになってね。この子にもねあなたと同じ場所にシュンナゼリアの花のようなあざがあるのよ。サルジュと同じように多くの人を温かく包み込むことのできる子になってくれるように願ってあなたの幼名期の愛称をもらったわ。わたくしの愛するフォザリアよ‶
それをみたフォザリアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
完
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