奴隷商船の船底
フォザリアが目を覚ました時は既に船は出航していた。
「ふあ~よく寝た。心なしか体中が痛い気がするけど、仕方ないか」
フォザリアは大きなあくびをしつつ肩をまわしながら薄暗い船底を見渡した。
「すごいいびきが聞こえていたけど、こんな状況でよく眠れるね」
横になっていたフォーラも起き出しあきれたように言った。
「え!いびきかいてたの?ごめん、最近ずっと徹夜続きで仕事してたからつい爆睡しちゃった。ははは、みんなもごめんね」
頭をかきながら、一緒に船底に入れられている少女たちに向かって言った。だが彼女たちからは何も反応がなかった。ただおびえて言葉すらなくしている様子だった。
そんな彼女達の様子を気にしている様子のフォザリアにフォーラがたずねた。
「どうしてあんな場所にいたんだい?都にいるんじゃなかったのかい?仕事って今何してんだい?店長って言われていた気がするけど」
「質問が多いね。実はね私、今都で雑貨店兼喫茶店を経営してるんだけど。今日は完成した商品を船に積み込みに来たんだ」
「船って幅広くしてるんだね」
「まあね、上得意先は割と異国の貴族の人が多いんだ。デリケートな商品だからいつも港まで自分で運んでくるんだ」
「ふーん、何にしてもたいしたもんだね」
フォザリアの言葉に驚いている表情のフォーラはまじまじとフォザリアをみた。
「本当にたいしたもんだよ」
「そうかな・・・ほらあの掃除婦の仕事が思いのほか報酬が高かったんだよ。それでもらったお金で安くなっていた店を買って商売を始めたんだ」
「そっかあ。いつか何かやり遂げるとは思っていたけど、しばらく会わないうちに出世したんだね」
「そういうフォーラはどうしてたの?」
「私は相変わらずだよ。院長先生の事で代わりに奴隷として売られようと思ったのも、あんたの借りを返そうにも思うようにお金が貯まんないし、金貸しに話を聞いたら寝るところと食事の支給はあるっていうしね、まだ孤児院にはたくさんの子どもたちが生活してるから見て見ぬふりができなかったんだ。幸い、あたしの年ならあたし一人が身代わりに奴隷になるだけで借金は帳消しになるっていうしね」
「院長先生がそうしてくれって言ったの?」
「いいや、勝手に交渉したんだよ」
「そうだろうと思ったわ。フォーラはいっつも自分の事は二の次だもんね」
「あんたもだろ!」
「そうか・・・私達馬鹿なんだねきっと」
フォザリアはもう一度大きなあくびをしながらも隣に座っている親友の顔を見ながら呟いた。
「こんな状況だけど、私フォーラにはもう一度会いたいなって思っていたんだ。あえてうれしいよ」
「本当にこんな場所じゃなきゃ、何かおいしいもんでも食べながら世間話をしたい所だけどね」
フォザリアは両手を大きく上に伸ばしながらまた大きなあくびをした。
「ねえ、私ずいぶん寝ちゃった気がするんだけど、どの辺かしらここ」
船底では何もわからない。
「さっき、奴隷商人がもうすぐ港につくって言ってきてたよ」
「えっ?もう出国していたの?作戦をたてようと思ってたのに寝すぎちゃったんだ私・・・」
フォザリアはもう一度大きなあくびをしながら首をコリコリ鳴らした。その様子をみたフォーラはフォザリアに聞き返した。
「どうするつもりなんだいフォザリア」
「そうね船から降りて馬車に積み込まれる一瞬に逃げるチャンスがあるかも知れないわね。ちょっとまってて」
フォザリアはそういうと、キュナにもらったナイフをポケットから取り出すとそれを両手に持ちフォーラの縄に切れ目を入れた。
「これで少し力を入れると引き継ぎれるでしょ。私も結び直さなきゃ」
フォザリアはほどいてしまった自分の縄を見ながら言った。
「おい、いいもん持ってるじゃねえか、俺のも切ってくれねえか」
薄暗い船底の端の方から聞こえてきたのはどこかで聞き覚えのある男の声だった。
「あら、女の子だけじゃなかったのね」
フォザリアはナイフを手で持ちながら他の少女たちの分の縄に切れ目を入れながら声のする方に視線を向けた。
「どうしたんですか?こんな所でまた会うなんて。私たちよほど縁があるみたいですね」
「縁なんてあってたまるか!また何かやらかしたのか?」
「まあ、またとは失礼ね。何もしていないわよまだ」
男に笑を向けているフォザリアに対して、横にいたフォーラは青い顔をしてその男を睨みつけてて叫んだ。
「お前!私をだましてフォザリアのお金をとったやつだろ!」
フォーラも思い出したようだ。そう言ったフォーラの言葉にしばらく無言だったが思い出したのかその男は開き直った。
「なんだお前か、フン!俺がこき使わなくても結局奴隷になってんじゃねえか」
「なんだと!あんたに言われたくないね。だいたいあんたもつかまってんじゃないのかい」
柱にくくりつけられている姿の男に向かって言った。
「まあまあ落ち着きなよフォーラ、あの時のお金ならもうその人に返してもらったから気にしないでいいからねフォーラ、それよりポンロさん、どうしてここにいるんですか?」
「俺は今までのつけがたまっちまって捕まっちまっただけだよ。お前の方こそどうして奴隷なんかと一緒にいるんだ?お前まさかまた何かドジを踏んだのか?」
「あら商売は順調よ。あなたと違ってお母様もマルザさんすごくいい職人さんなので助かってるわよ」
「そうか、俺は出来損ないだからな。こんなことなら逃げずに国の強制労働施設で10年でも働いていればもう少し早く自由になってまっとうな仕事につけたかもしれねえのによ、お尋ね者には厳しい社会だからな。俺としたことがドジ踏んじまったってわけだ」
「相変わらずね、まっまっとうな人をだましていないだけ進歩したようね」
「ガキのお守りに飽きただけだ。それより、ナイフを持っているところをみりゃあ、逃げ出すつもりなんだろ?どうだ、手を組まねえか?俺もこのまま奴隷になるつもりはねえからな」
「フォザリア、こんな奴信用できないよ。無視しなよ」
フォーラはポンロを睨みつけながら言った。フォザリアはじっとポンロをみてフォーラはの忠告に反してポンロに近づいた。
「どうしてだよフォザリア、こんな奴ほっときゃいいだろ!どうせろくでもないことでもしたんだよ、自業自得だよ」
「いいじゃない、味方は多い方がいいし、それにポンロさんはともかくローザンさんやマルザさんはいい人だしお世話になってるから、まさかローザンさんも息子さんが隣の国に奴隷として売られるなんて知ったら悲しむでしょ。もちろんあなたの素性はバレずに奴隷として売られていく予定だったんでしょ」
「当たり前だろ。裏社会で生きる人間が素性を知られるドジは踏まねえよ」
「あらじゃあポンロって名前も偽名なの?」
「当たり前だろうが・・・まっ俺の素性はあんたにはバレちまってるから俺様も焼きが回ってきたのかもな」
「そうかもしれないわね。こんな船の下に縛り付けられているなんて詰めが甘いのねポンロさんって」
軽くため息をつきながらいうフォザリアにポンロは笑い声を響かせた。
「よくわかってんじゃねえか、そうなんだよな俺も最後の所でツメが甘いんだよな。もう少しで儲けられる所だったのによ、最後でバレてこのざまだ!」
「あなたには家族がいるんだから、そろそろまっとうに生きる気になったらどう?」
「今更軌道修正なんかできるかよ。そういやお前さんあの国の王族と面識ありそうじゃねえか、どうだ、お前さんが無事この船から逃げられた暁には国に戻って俺の罪を帳消しにしてくれるように役人にくち添えしてもらえねえか」
「あら、無理な相談ね。罪は罪、悲しませた人がいるのならきちんと償わなきゃ。でも・・・そうね何か別のいい償い方があるなら口利きしてあげてもいいわよ。まっ今逃げるのはあなたの勝手だけどね」
そういうと、フォザリアはポンロを柱にくくりつけている縄を完全にナイフで切ってやった。
「ありがとうよ。交渉は決裂したってことで、俺は俺で勝手に逃げさせてもらうわ。お前らは勝手に頑張るんだな」
そう言ってはしごをのぼり始めた。
「ちょっと、鍵がかかってるんじゃないの?」
あわてて止めようとしたフォザリアにポンロがはしごをのぼりながら言った。
「お前さんがいびきをかいてる間に一人様子を見にきた奴がいたんだよ。だけど、お前のあまりのいびきのうるささにイラついてすぐに甲板に戻っちまったんだよ。だけど、俺様は耳がいいからな、確かあいつは鍵をかけ忘れたはずだ」
そこまで言った時には天井に手が付いていた。ポンロはそう言いながら手をそっと天井の扉につけた。その瞬間音もなく扉が開いた。
「じゃああばよ」
ポンロはそういうと、船底から出て行ってしまった。どうやら甲板には誰もいない様子だった。それをみたフォーラがフォザリアに言ってきた。
「ねえ、あたしらもでないかい?確か船の上にもたくさんの積み荷を積んでいたみたいだったからさ、船が港につくまで隠れていてさ、ついた所で船から海に飛び込めば、岸までなら泳げるだろ。つくのは夜明け頃だしさ、逃げ切れるかもしれないよ」
手に縛られていた綱をほどいて階段に足をかけていたフォーラにフォザリアが引き留めた。
「駄目だよ、私ら二人だけなら何とかけ逃げ切れるけど6人もだなんて無理だよ」
「何言ってるんだよ、この子らはあんたとは何も関係ないだろ?逃げたきゃ逃げなよ。あいつみたいに縄に切れ目はいれてやったんだ、後は自分たちでなんとかするんじゃないの」
「あの人はこういう場面に慣れていそうだからいいけど、この子達は無理だよ。見捨てるなんてできないよ。ここで全員で外に出たら、どれだけの仲間がいるか分からないし、ナイフ一つじゃ勝ち目ないよ。港について、船から降ろされるまで大人しくしてたほうがいいよ」
「じゃあどうして縄なんか切ったんだよ」
納得がいかないフォーラに対して、手探りで何やら船底の半分を占めている箱に近づいた。フォザリアは天井のすき間だらけの甲板に通じる船底の扉から漏れ出している月明りの光でフォザリアは積まれている箱をこじ開けて中をのぞいてみた。
「ちょっとこれ見てみなよフォーラ、これルーテンダリアンの葉っぱだよ」
「何だって、それ貴重なんだろ。確かトルマーバルトでも高額で取り引きされている奴だよね。どうしてこんなに大量にあるんだい?」
「裏取引なんじゃないのかい、この葉は薬にもなるけど、使いすぎると中毒症状になるってヤバイから栽培は制限されて国が管理しているって昔一度あの葉が栽培されている場所の草取りの仕事を一緒にしたことがあった時にいっていたよね」
「そうだね、もしかして横流しして密かに高額で密売しようとしているのかもしれないね」
「そうだろうね。高値で取り引きされるだろうしね」
そう言って箱をのぞき込みながら、フォザリアはその箱の中に手を突っ込んで一つかみ掴むと、ポケットにその葉を突っ込んだ。そして、すぐ蓋を締め直すと、今度は反対側の箱の中をあさり始めた。
「あらこれは果物ね。こっちはただの保存食ね」
ひとしきり船底に置かれてある箱の中身をあさったフォザリアはリンゴが入った箱からリンゴを六個取り出すと、少女たちに配ってまわった。そして元の場所で腰をおろすとそのリンゴにかぶりついた。
「あんたたちも食べなさいよ、お腹がすいてると全速力で走れないわよ」
フォザリアはリンゴを被りながら少女たちにいうと、少女たちは一斉にリンゴをほうばり始めた。
それをみたフォーラはまたため息をついてフォザリアの隣に腰をおろすとフォザリアからリンゴを一つ受け取ると食べ始めた。




