仮面舞踏会①
急遽、フォザリアの長い黒髪は綺麗に結い上げられ、あざを見えるように背中が大きく開いた舞踏会用のドレスに着替えた。背中のあざはサルデーニャがシュンナゼリアの花のようにペイントを加えてくれ、仮面をつけ仕上がった出来栄えを全身鏡で見せてもらうと、そこには別人のフォザリアが映っていた。
「すごいですね。私じゃないみたいです」
フォザリアは自分の姿をまじまじと眺めながら言った。
「あら、元がいいからよ。今回の舞踏会の中で二番目に綺麗よ」
「ありがとうございます」
フォザリアは自分の姿をもう一度眺めながら心の中で呟いた。
(あああっこの世界に写真があればな・・・記念に一枚撮って部屋に飾るのにな)
自分を鏡越しにボーっとしながらそんなことを考えていると、準備ができたと聞きつけたロンダが入ってきた。
「わあ~フォザリア可愛いね」
フォザリアにかけ寄るとロンダはフォザリアの姿をまじまじと眺めながら叫んだ。
「あっありがとうございます」
「フォザリア、こっちこっち、ここに座って」
ロンダは部屋にあった椅子にフォザリアを座らせると、もう一つの椅子に自分も座りながら言った。
「まだ少し時間があるから、ピオレに下絵を描いてもらうからじっとしててね」
「え?下絵ですか?」
不思議そうに首を傾げているとフォザリアの隣にサルデーニャが立ちポーズを取りながら言った。
「ピオレは元々宮廷画家志望なのよ。何でもできるからロンダの世話係をしてもらっているけれどね。完璧な仕上がりなんだもの、記念に絵に残さなきゃもったいないでしょ」
いつの間にか目の前でスケッチを始めていたピオレに視線を向けながらサルデーニャが言った。
「ええ~、ピオレ様画家なんですか・・・すごいですね」
「いえいえ、多趣味なだけです」
ピオレは下書きの手を止めず答えた。しばらくそのままでいたがすぐに、動いてもかまわないとピオレが書くのを止めてしまった。
「えっ?もう下書きが終わったのですか?」
あまりの速さに驚いているフォザリアに笑顔で答えた。
「全体の構成とドレスの形など大まかなことを書き留めただけですので、仕上げにはお時間をいただきますから。あっフォザリアさんにも完成しましたら小さいサイズでよろしければ差し上げますよ」
「ほっ本当ですか?あの料金はおいくらぐらいかかりますか?」
「いえ、まだまだ見習いですので差し上げますよ」
笑顔で描いていた紙を片づけながらいうピオレに、フォザリアは立ち上がるとピオレに近づき耳元で小声で言った。その言葉にピオレは笑顔で了承した。
「ねえ、フォザリア、なんていったの?」
ピオレに耳打ちした言葉が気になるのかロンダが聞いてきたがピオレは秘密です。とだけ言って答えなかった。
「ああ~そんなことを言っていいの?」
「これはフォザリア様の個人的な依頼ですので」
そう言ってその材料を持って部屋を出て行った。
「ねえフォザリアなんて言ったの?」
しつこく聞いてくるロンダにフォザリアは困った顔で答えた。
「追加であるものを描いてくれるように頼んだんですよ」
「何それ」
「ロンダ、いい加減にしなさい。さっそろそろ舞踏会が始まる時間ですよ」
そう言って、まだフォザリアにまとわりついて聞きたそうにしているロンダをフォザリアから引っペがすと、暴れるロンダをわしづかみにしながら扉に向かった。
苦笑いをしながらフォザリアも後に続いて部屋をでた。
その後、舞踏会が開かれている大広間につくと、既に仮面舞踏会は始まっているようで、にぎやかな音楽と人々の笑い声が漏れていた。サルデーニャが先に舞踏会会場につくと一気に注目が集まり、仮面を付けているにも関わらす我先に挨拶しようと、人々が集まってきた。
フォザリアもロンダの後ろに立ちサルデーニャの後に続いて舞踏会の会場である大広間に入ると、大勢がロンダやフォザリアの周りにも集まっていろいろ話かけてきた。フォザリアは緊張で何を囁いているのかは聞き取れなかった。どうすればいいのか困惑していると、サルデーニャがロンダとフォザリアに向かって言った。
「ロンダ、フォザリア、お父様の所に先に挨拶に行きますよ。皆様、ではまた後程」
そう言って笑顔で軽く頭をさげると、人ごみがさっと開けた。ロンダとフォザリアはサルデーニャの後を歩きながら陛下のいるであろう場所に向かっていた。
だが、サルデーニャは陛下の所に先に行くのかと思っていたが意外な所で足を止めた。そこはとりわけ大きな人の輪ができている場所で誰かが輪の中心にいるようだったが周りは女性だらけだった。
サルデーニャが近づいて行くと、その人垣がさっと開けた。輪の中心にいたのは正装をし、顔に鷲のペイントをした仮面を付けているルカルナだった。仮面をしているせいか、表情は読みとれないが楽しんでいるという雰囲気ではないことは感じられた。多くの女性に話かけられているルカルナがサルデーニャの姿をみてツカツカと近づいてきた。
「遅いではありませんか姉上!」
「あら主役は後から登場するものなのよ。それに早々に来ちゃうとあなたフォザリアばかりに夢中になって今日の本来の主旨を無視するつもりだったんでしょ。もう十分義務は果たした様子だから助け船をしに来てあげたんじゃない、感謝しなさい。このまま、ロンダにフォザリアを任せてもいいのよ」
「なっ!」
ルカルナと声を潜めて話しているサルデーニャの少し離れた後ろでロンダの腕に手を添えながら、なんだか痛い視線にうつむいてこれからどうなるのか不安な表情を浮かべているフォザリアにロンダが話しかけた。
「ねえフォザリア、顔が真っ青だよ。大丈夫?人があまりいない所に行こうよ」
「でも、今来たばかりですし、これから陛下にご挨拶しなくてはならないのでしょう?勝手に行動するとサルデーニャ様に叱られますよ」
フォザリアは少しかがんでロンダにいうとロンダは笑顔で言った。
「大丈夫だよ、おじい様は気にしないよ。だって今日は仮面舞踏会なんだもの。誰がおじい様なのかわかんないよ。舞踏会はまだ始まったばかりなんだし、少ないって言いながらこんなに人がいるんだからはぐれることだってあるよ」
そういうとロンダは自分の腕に添えられていた手をほどきフォザリアの手を握り返し、突然小走りに反対方向に走りだした。フォザリアも転ばないように足元に意識を集中しながら走りだした。フォザリアは自分に向けらている視線を気にしながら、舞踏会会場から人ごみが少ない場所に向かって走りだしたロンダと共に走りだした。それに気づいたルカルナがサルデーニャを押しのけて追いかけてくるのが分かった。
「こらロンダ!フォザリアは僕のパートナーだぞ!」
「そんなの知らないよ。母上とでも踊っていたらいいじゃないか!」
そう叫びながら振り向きざまに舌を出しながらロンダが叫んだ。フォザリアも訳が分からずついて走っている自分がいた。
(どうして私は走っているのかしら?)
追いかけてこようとするルカルナに再びきらびやかなドレスに身を包んだ女性陣達に行く手を阻まれてしまったルカルナは身動きが取れずにロンダを呼ぶ声だけが王宮殿に響いた。
「あらあら、我が息子もやるじゃない」
その様子を面白そうに見ているサルデーニャにいつきたのか国王が近づいてきていた。
「あれがフォザリアか、変われば変わるものだな」
「あらお父様、わたくしとの賭けは覚えていらしてますよね」
「ああ、今夜あ奴がフォザリアとダンスを踊ればお前の勝ち、花嫁候補たちが行くてを阻めばわしの勝ち、お前が勝てば今後はお前の好きにすればよい」
「あらありがとうございます」
サルデーニャは面白そうにルカルナに再び群がって自分をアピールしようとしている女性たちを見ながら言った。
「まあ、この様子だとわしの勝ちのようだがな」
「あら、舞踏会は始まったばかりですわよ。夜は長いですしね」
二人の会話に割り込んでくる者はいなかったが、しかしその様子を少し離れた場所から見ている別の人影があった。




