王宮からの手紙①
店舗の改修も順調に進み、薄汚れた雰囲気だった棚や壁や床もきれいに磨きあげられ、棚も綺麗にペンキで上塗りされ、可愛い雑貨店の店内へと変貌を遂げていた。
店の外にも看板が設置され、店名もフォザリアの雑貨店と命名した。名前の横にはルカルナがデザインした招き猫の絵も描かれていて、店内にはいたるところに猫を中心の置物や皿やコップなど、ルカルナが大量に作ってため込んでいた雑貨類がきれいに並べられていた。
それと店内の奥のお会計のカウンターには大きな招き猫が置かれていてその横には全面ガラス張りの小さな囲いがされた箱部屋のようなものが置かれていてその中にはビゴーラが毎朝大量に焼くサクサクの絶品のクッキーが小さな紙で箱型に折った小さな箱に小分けにされて売られていた。
その商品を入れる際にはそのクッキー入りの容器を入れる巾着袋もセットで販売されていた。その袋は正方形に切られた柄違いの小さな布を縫い合わせて全く新しい図柄を作りパッチ巾着として売りにだしていた。
これが毎朝、すごい人気で開店と同時に売り切れるほどの人気商品となり、瞬く間に都で話題になっていった。それと同時にマネをする店も増えていったが、フォザリアは次々とパッチワークの図柄をより精密にかつ複雑にしていき、他にはまねできない斬新な模様を生み出し続けていて、都では話題の店になっていた。
もちろん他店でマネできずにいるのはビゴーラの作るクッキーの味もその一つであった。毎回違う味のクッキーが入っており、一躍人気店になり、売り上げもこの商品が毎日一番の売り上げをほこっていた。
また、この頃になると、もう一つ話題に上っていたのが、ルカルナの作った招き猫の存在だった。
フォザリアが最初にあげた招き猫を店内で飾っていた生地屋には、フォザリアの考案したパッチワークの巾着袋を自分でも作りたいという女性客が押しかけ、大盛況となっていた。また、ルカルナの招き猫を購入したいという客も連日おしかけ、店内に販売していた猫グッズが飛ぶように売れていた。
この頃になると、フォザリアは専属のお針子を雇うようになり、店内の奥の部屋で営業時間の間、巾着袋を縫う女性従業員やルカルナの指示のもと招き猫を制作する従業員で店の奥でもフル稼働していた。
フォザリアは彼らのほとんどは親がいない路上生活者だった子を店に連れてきて丁寧に仕事を教え、時には読み書きも教えたりもしていた。家がない子どもたちには、食事と賃金を支給し、従業員用に近くに下宿先も借り受け、そこに住まわせていた。
「フォザリア、どうして大人を雇わないんだ」
子どもたちを雇うと言い出した時のフォザリアに対して、ルカルナもビゴーラもフォザリアの意図は理解できないでいたようだ。
「そうだよ、何も子どもたちを雇わなくても、経験者を雇った方が作業効率が上がっていいんじゃないのかい」
ビゴーラの言い分にルカルナも同意して頷いていた。その言葉にフォザリアは
「私はお金持ちになりたいわけじゃないし、私自身が生きるのにすごく苦労したから、一人でもそういう子を減らせたらいいなって思うんです。ビゴーラさんやルカルナ様には手伝っていただいて申し訳なく思っていますけど」
「あたしはいいんだよ、料理やクッキーを作るのは好きだから、なにより新しい弟子もできたしね」
「お前の気持ちは分からないでもないが、それはお前がする必要はないんじゃないのか?」
ルカルナの言葉にフォザリアはずっと心にいだいていた思いを口にした。
「この国のお金持ちたちは自分たちの懐を肥やすことしか頭になくて、弱い人達の生活を知ろうともしない。私なんかが数人雇ったからって救える命は限られているけど、私にできることをしたいの。私は幸いにも私を育ててくれた孤児院の院長先生が読み書きを教えてくれましたから、字は読めますし、生きるすべを知ることができたから一人でも生きてこれましたけれど、それすら教えられずに育つ子が多いんですよ。弱い子どもは死んでいくだけなんですよ。この世界の子どもたちは教育を受ける権利も生きる権利も保障されていない、誰かが助けてあげなきゃ。食事代や材料費ももう少し商売が軌道に乗れば、なんとか店の売り上げだけで賄えると思うのでもう少し力を貸してください」
フォザリアはルカルナとビゴーラに頭をさげた。
「あんたは変わった子だよ、それは国がすべきことなんだけどね」
「そうですね。自分の事しか考えていない無能な官僚たちばかりだから、私にできることをするだけなんですよ」
「そうだな・・・何とかしないといけない案件だな」
フォザリアの思いがルカルナの心に届いたのか、それ以降子どもたちを雇うことは反対しなくなった。
そうして仕事は毎日フォザリアは目が回るほどの忙しさの中にも充実した日々を過ごしていた。そんな時、王宮から緊急の呼び出しを受けた。
「フォザリア店長、お手紙が届きました」
そう言って王宮の印が押された手紙を持ってきたのは、最初に雇い入れたリューアだった。リューアは今では、店内でお会計を任せられるほどになり、お金の計算も接客も完璧にこなせるほどになっていた。
「あらありがとう。どう今日の客の入りは?」
フォザリアはそれを開封しながらリューアにたずねた。
「はい、まずまずです。でもクッキーの方が少なくなってきているみたいです」
「そう、じゃあ追加を焼くようにビゴーラさんに伝えてくれる。あと巾着袋の進み具合はどう?」
「はい、10枚程度完成しています。箱もできています」
答えたのは別の針子の子だった。彼女はフォザリアより二歳年下だったが、小さい頃から父親から酷い暴力を受けていて、耐えかねて家を飛び出し都に逃げてきたが食べるものもなく行き倒れていたのをフォザリアが助け働かせていたのだ。すると初めて裁縫すると言っていたが思いのほか手先が器用で今ではデザインも任せるようになっていた。
ここで働いているのは幼い頃から辛い経験をしてきた子達ばかりの心に傷を負った子がほとんどだった。そんな子達だからこそ、働けば正当な給金がもらえて、飢える事もない、体罰を加えられることもない、天国のようだと一生懸命に仕事を覚えようとする子達ばかりで、彼らの腕はめきめきと上達してきていた。
「そう、今日の分はそのぐらいで完売にしましょう。キュナ、その作りかけが終わったら明日の分のデザインを考えて図案政策に取り掛かってちょうだい」
「はいフォザリア店長、これが終わったら新しい布を仕入れてきます」
「そうお願いね。帳簿を忘れないようにね」
フォザリアは生地屋とは専属契約を結んでいて、毎日の追加の布地の仕入れ金額は帳簿に書いてもらうようにしていた。フォザリアはその帳簿を毎日チェックし、翌朝、フォザリア自身が直接お金を支払いにいくシステムをとっていた。というのも子どもたちにお金を持たせると、盗まれることが何度かあったからだ。
フォザリアがキュナに指示し届いた手紙を開封すると、みるみる顔色が変わっていった。
「フォザリア、誰からの手紙だ」
ルカルナがフォザリアに近づきその手紙をのぞき込んだ。フォザリアは何も言わずにその手紙をルカルナに渡した。
「はあ?何考えてるんだ姉上は、こんなの無視しろ!どうせいつもの暇つぶしだろ」
ルカルナはその手紙をフォザリアに返すとまた創作を始めた。
「そんなわけにいかないわよ、あなたもくるようにって書いてるでしょ。至急って書いているから、今から行きましょう」
「・・・」
返事をしないルカルナは明らかに行きたくないオーラ全開だった。
「ルーカス!無視してここに来られても困るじゃない」
「姉上なら来そうだな。仕方ないな、いいか姉上に何を言われても簡単に引き受けたりするなよ。行きたくないが、お前一人だと無理な注文でもホイホイ引き受けてきそうだからな。仕方ない一緒に行ってやる」
めんどくさそうにしながらもルカルナは重い腰をあげて留守の間にすべき創作を指示し始めた。
「ありがとう」
フォザリアはルカルナにそういうとスタッフに仕事を指示し、後の事はビゴーラに任せルカルナと共に王宮に向かうことにした。




