準備
翌朝、ルカルナを説得するいいアイデアが浮かばないまま夜が明け、ロンダが早朝からやってきた。
「おはようフォザリア、昨日おじい様とおばあ様にいいにいったらオッケーでたよ。さっそく宮廷画家を呼んでデザインと顔に書いても大丈夫な絵の具の調合を命じてくれるって言っていたよ。それでおじい様の提案なんだけど、おじい様とおばあ様は見学だけするって、だけど、一つか二つぐらいは何か参加できるものがあればしてもいいって言っていたよ」
「ふぁ~いつも朝からお元気がよろしいですね。あのすみません、寝起きなのもので今顔を洗ってきますのでお待ちください」
フォザリアはよろけながら入り口に立っているロンダを避けながら井戸に向かった。
「うん、僕目覚めはすごくいいんだ。今朝は時間がもったいないから、ここで食べようと思ってビゴーラに僕とピオレの分も運ぶように言ってあるんだ」
「あらそうなんですか?」
フォザリアはもう一度あくびをすると、フォザリアは寝起きでふらつく体で井戸の水を汲み顔に水をかけた。
「冷た~い」
顔を拭いてスッキリさせると、大きく深呼吸し伸びをした。
「よし今日も頑張るかぁ!ルカルナ様!おはようございます」
フォザリアは最近の日課にしている目が覚めた時と寝る時には三階に向かって声をかけることにしていたのだ。相変わらず何の反応もないけれど・・・しかし今日は何故か、突然戸が開いたかと思うと、丸めた紙が落ちてきた。フォザリアが拾い上げると、うるさい!とだけ書きなぐっていた。
フォザリアはそれだけだが反応してくれたことが嬉しく、もう一度おはようございます。と声を張り上げ館の中に入って行った。しばらくロンダと計画を練っているといつものようにビゴーラが朝食を持ってやってきたが、早速ロンダの運動の会の張り紙をみたのか、声をかけてきた。
「フォザリア、面白そうじゃないか、私は断然サルデーニャ王女様のグループに入りたいんだけどね、人選はどうするんだい?参加申し込みってやつはどこにすればいいのかみんな聞いてくれって頼まれたんだけど」
「あれ、僕書いてなかったっけ・・・どうしようフォザリア」
「そうですね、じゃあ、運動の会の案内を掲示している横に、参加希望者の部署名と名前と入りたいチーム名を記入する用紙を張り出しておいたらどうでしょうか?。一応第二希望まで書き入れてもらいましょう。偏ってしまうといけませんから」
「そうだね、早速紙に書いてみるよ。ピオレ書いといてよ。お昼に貼りにいくからさ」
ロンダがいうとピオレは頭をさげ、早速紙をとりに隣の館に行った。
「ところでビゴーラさん、参加者はあつまりそうですか?」
「何をのんきなことを言ってるんだい」
「えっ?」
ロンダとフォザリアが顔を見合わせながら聞き返すとビゴーラはニヤリとして返事した。
「私が知る限り、厨房の人間は全員参加希望だよ、他にも色んな部署から参加希望者がいるようだよ、すごい人数になるよ」
「ええ~どうしよう、それなら僕らだけじゃ無理なんじゃないかな」
「そうですね、参加人数が確定したら、進行表を作成する必要がありそうですね。手伝える人はここに集まってもらえるように掲示しておいたらどうでしょうか」
「なるほど・・・そうだね」
「大変だね。フォザリア、後準備に何が必要かも考えないといけないんだよ、おじい様が準備に必要な備品があったら好きなだけ買い揃えたらいいっていっていたよ。都の市場に買い出しに行ってもいいって」
「僕お忍びで買い物初めてだよ」
「あらそれはありがたいですね、布地も買ってたすきも作りたいですしね応援旗もあった方がいいし、いろいろ準備が大変だわ。そうだ、女性の皆様も運動しやすいズボンも作った方がいいですしね」
「女がズボンをはくのかい?」
「はい、まさか長いスカートでは男性と競争したりするのは向きませんし体力的にやはり不利なのに更に動きにくいスカートで差がついてしまいますし、可愛いデザインの動きやすいズボンは必要だと思いますよ」
「そうかい、じゃあ、お針子たちに依頼しないといけないね。今ちょうど少し暇になってるし、衣装に関してはサルデーニャ様にお願いするといいかもしれないよ」
「そうします」
フォザリアは朝食を受け取りながらビゴーラに言った。
「この運動の会は無礼講が原則ですから、何とか頼んでみますわ、女性もやれば男に勝てるんだっていう事を見せつけられるいい機会だと思うんです」
「どういう事?」
「はい王子だからとか王族だから女だからお前たちわかっているな手を抜けっていうのはなしなんです。正々堂々身分に関係なくみんな笑顔で、真剣に競争して体を動かしたり団結力を養う会が運動の会なんですよ。それに運動の会の楽しみはお弁当ですね」
「お弁当?」
「はい、地面に布をひいてその上で座ってみんなでおかずやサンドイッチとかつまんで食べるんですよ。楽しいですよ」
「みんなで食べるのかい?」
「そうですよ、王族とか使用人とか関係なく」
「・・・なんだか楽しそうだね」
「楽しいですよ」
ビゴーラはひとしきりフォザリアに話していると、先にルカルナの朝食を縄にくくりつけていた食材が入った箱が動く音が聞こえてきた。扉が開いて屋根の滑車が動くので音が聞こえるのだ。
「そうだ、フォザリア今がチャンスだよ。叔父様に参加してくれるか聞いてみようよ」
ロンダの提案でまだきちんと考えていなかったが一応聞いてみるだけでもいいかと思い立ち、外にロンダと共にでた。ちょうど三階が開いて、中に運びいれて戸を閉める寸前だった。
「ルカルナ叔父様、ルカルナ叔父様」
ロンダが言うとしばらくして、ルカルナが顔を出した。頭には黒い頭巾を目深にかぶり顔全体を覆っていて表情は見えなかった。
「あっ叔父様、あのね、運動の会をすることになったんだけど、叔父様も参加して欲しいんだ。僕と叔父様と母上のチームに別れて使用人たちとこの先の広場でいろいろ体を動かすんだよ。準備は僕とフォザリアがするからさ」
「断る」
そういうとバタンと戸を閉めてしまった。
「はあ・・・わかってたけどさ、やっぱり駄目かな・・・」
一瞬で撃沈してしまった。
「しかたないね、まっ私らにできることは協力するよ、その、みんなで外で食べられる食事みんなで考えておくよ」
ビゴーラはそういうと館を離れて行ってしまった。それを見送りながら、フォザリアは上を見上げながら落ち込んでいるロンダにたずねた。
「あの・・・どうしてルカルナ様はいつも黒いローブを頭からかぶっているのですか?人と接することを避けているように思うのですが」
「ああ・・・叔父様は」
「ロンダ様、ルカルナ様の事は」
ロンダが言おうとした言葉を遮ったのはピオレだった。
「いいじゃないか、ここで働いている使用人はみんな知っていることだよ」
「そうですが・・・」
「ねえ、フォザリアは見た目を気にするタイプ?」
「えっ?見た目ですか?別に気になりませんけど、ただルカルナ様のあのうっとうしい無精ひげと前髪は気になりますけど」
「実はね、叔父様生まれつき右頬の辺りに僕の手の半分ぐらいの大きなあざがあるんだよ、それを気にしているんだ。だけど、叔父様すごくイケメンなんだよ。だけど、女の人は叔父様の顔を見たら目をそらしてたって母上が言ってた」
「ふ~ん」
フォザリアはそれだけいうと、目の前の空箱の上に置いていたお手玉の入ったかごを掴むと思いっきり三階の閉まっているルカルナの部屋の窓の木戸に向かって投げつけた。そして次から次へとお手玉を命中させた。
「うるさい!いい加減にしろ!」
急に戸が開いたと思ったら、ルカルナが顔をだし叫んだ。ちょうどお手玉の一つがルカルナの顔に命中してしまった。
「あ~ら、ごめんなさい。私も玉入れ競技には参加するんですけど、練習をしていたんですよ。まあ、ルカルナ様がもしが万が一参加してくださったとしても、走ることと、玉入れだけは負ける気がしませんけどね。ルカルナ様がお断りになるのって、私やロンダ様に負けるのが怖いからですよね」
「なんだと!」
「だって、自信がないんでしょ、そうですよね、ずっと館の中ばかりに引きこもって運動してないんですもんね、女や小さい子どもにもかけっこして負けたら恥ずかしいですよね」
「ふざけるな!無礼者!僕が負けるはずがないだろ!」
「あっ聞きましたロンダ様、ルカルナ様引き受けて下さるそうですよ」
そういうとくるりと後ろを振り向いてウインクするフォザリアに対してロンダは急に笑顔になって上を見上げて叫んだ。
「叔父様ありがとう。僕負けないからね。人選や競争内容は僕とフォザリアとで考えるから、叔父様は参加してくれるだけでいいからね」
「は?僕は何も・・・」
そう言いかけて戸をバタンと閉めてしまった。
「無計画だったわりには上々の結果になったわ。顔のあざは絵で何とかなるとして、まずはあの王子様をどうやって外に出させるかってことよね」
フォザリアは原因が分かってブツブツ対策を練り始めた。




