小さなあざ
一日中ロンダと計画を練りながら、時折ルカルナの事を考えていたがいい案が浮かぶわけもなく、フォザリアは頭をかき始めた。
「ああぁ~!私考えるのって苦手なのよね。考えててもルカルナ様の気持ちなんかわかんないし」
その言葉を聞いてピオレが玉入れの最終段階である、トトムムの入った袋を閉じる作業を器用に針と糸を使いながらこなしながら答えた。
「ルカルナ様は昔はそうでもなかったんですよ。まあ、面と向かっていう人間などいませんでしたから、ですが、五年前、我が国が開催した舞踏会に参加した時に、隣国のラソーダ国の三姉妹が殿下が聞いているのも気づかず笑いながら殿下のあざを貶したんですよ。あんなあざが顔にある王子となんか婚姻はごめんだとね。まだ、正式に何も話しすらない段階でですよ。それを聞いたその場にいた女性陣も全員同調してしまったんですよ」
「何それ最低ね、人を外見で判断してそれを口にするなんて、貴族や王族ってどこもみんなわがままに育てられているから、相手を傷つけてもなんとも思わないんでしょうね」
「そうですね、それを許される立場にいますしね」
聞いていて怒りがこみあげてきていたフォザリアは気になっていたことをピオレに聞いてみた。
「でも、そんな事だけで引きこもってしまったのですか?」
「きっかけはそうですけれど、それ以来顔のあざを気にするようになって、何とか消す方法がないかご自身で研究を始められたんですよ」
「この世界じゃ美容整形なんかできないでしょうに」
「なんですかそれは」
「あっなんでもないです。そうですか、醜い心に負けたってことですね」
「いえ、そういうわけでは」
ピオレは訂正しようとしたがフォザリアすくっと立ち上がると、今日はそのままになって垂れたままの綱の下まで行くと登り始めた。
「フォザリア、何をするつもりなの?」
驚いて後を追いかけてきたロンダとピオレに向かって笑顔で言った。
「ちょっと直接ルカルナ様の顔の痣を見てきます」
そういうとスルスルと三階に向かって綱をのぼる。
「ええ~止めた方がいいよ、フォザリア降りておいでよ」
ロンダが下で叫んだがフォザリアは到底降りるつもりはなかった。
(顔のあざかあ・・・自分の気になる所って他人にどうこう言われたくないんだよなあ。こういうのって一番むずかしんだよなあ・・・さてどうしたものか)
考えを巡らせてもいい答えが浮かんでくる気配がなかった。そうこうしている間にあっという間に三階についた。幸いな事に今回は戸は半開きになっていた。フォザリアはそっと中に侵入した。すると別の部屋に行っていたのかルカルナは珍しく黒いローブを付けておらず、前髪も横にわけていた為に顔があらわになっていた。ルカルナはフォザリアの顔を見るなり、椅子に掛けていたローブを被りなおしながら叫んだ。
「今度はなんのようだ、不法侵入者として処刑されてもいいのか!」
ルカルナの怒鳴り声におびえる様子も見せず、まじまじと顔を眺めているフォザリアは平然としながら言い返した。
「処刑は困りますね。もう用は無くなったので退散しますよ」
「はあ?用って何のことだ?」
「ああ、ただ顔を見に来ただけって意味ですよ」
「そうか、さてはお前は僕を笑いにきたんだな!」
「いいえ、別に前髪がうっとうしそうで、髭が汚らしいと思うことはあれ、笑ったりはしませんよ」
「嘘だ!お前も僕のこの醜いあざがあるって聞いてこれを笑いにきたんだろう」
「痣って?どれですか?」
フォザリアは顔をのぞき込みながら言った。
「ここだ、醜いだろ、女どもはみんな顔を背けるんだ、顔にあざがあって可哀そうだとか言いやがってクスクス笑うんだ。お前もそうだろ!見たいだけみればいいだろ!」
そう言い放ちながら、今度は隠すのを止め、フォザリアにあざを見せてきた。
フォザリアはまじまじとルカルナに近づいてそのあざをみてため息をついて言った。
「・・・・別にたいした痣じゃないじゃないですか。私はもっとこう、顔全体にあるのかと思っていたんですけど。それにそれって・・・いえ私が言うことでもないですね。とにかく、そんなあざぐらいで引きこもるなんて馬鹿馬鹿しいなって思い始めているだけです。お騒がせしました。私忙しいのでこれで失礼します」
「待て!これをみて何も思わないのか?・・王子である僕の顔にあざがあるんだぞ、こんな醜い」
「はあ・・・別に普通だと思いますけど、あのもしかしてそんな小さなあざを気にして引きこもりしていたんだとしたら、時間を無駄にしましたね」
「小さいだと!貴族の女どもは僕の顔をみたらみんな憐みの顔で見るんだ。お前だってそうだろ」
「だ・か・らですね、私は別にルカルナ様の頬の小さなあざぐらい何とも思いませんよ。私なんかほらみてください、女の命である顔に一生消えない傷があるんですよ」
そう言ってフォザリアは前髪をかき上げて額にある大きな傷を見せた。その傷は額全体に残っており、荒々しく縫い留めた後が痛々しく残っていた。
「この傷はですね、山に高価な薬草を取りにいく仕事をした時に足を踏み外してできた傷なんですよ。あの時は死ぬかと思いましたけど、私の親友が傷口を針で縫い留めて、必死で看病してくれてなんとか今の私がいるんです。他にも体中に色んな傷がありますよ。親のいない孤児が一人で生きていこうと思ったらこの世界じゃ生傷は絶えないんですよ。毎日毎日贅沢三昧をしている王族の方には想像もつかないと思いますけどね。そんな小さなあざ如き些細なことで悩んで引きこもっていられるなんていいご身分ですよね。私忙しいので失礼します。お邪魔しました」
フォザリアはそれだけいうと戸に足をかけるとスルスルと縄を伝って下におりて行ってしまった。
一人になったルカルナは茫然と立ちつくしていた。
「この僕が馬鹿・・・小さなあざだと・・・ふっはははは」
(フォザリア・・・お前は何者なんだ、どうしてこの僕を気味悪がらない、こんな醜いあざがあるこの僕のあざを些細なことといいやがった。)
ルカルナは初めて心の中に芽生えた感情がなんなのか、まだわからなかった。




