ちょっとそこまで…?
次の日の朝
杏が目覚めると誰かが顔を覗き込んでいた
『お早う。杏ちゃん。
急で申し訳ないのだけど今すぐにでもここを出るよ。』
『お、おはようございます。五十嵐さん?』
寝起きであまり頭が回らない…
『ささ!早くこれに着替えてね!』
渡された服を受け取ると五十嵐さんがパジャマのボタンを外し始めた
『ほっほっほっ。これこれ、創哉坊ちゃんそれは私がやりますよ』
『やぁ!キヨさんおはよう!杏ちゃん寝ぼけてるみたいだったからさ。あとはよろしく!5分で出るよ』
五十嵐さんは風のように部屋から出て行った
キヨさんに手伝ってもらって素早く着替えた
なぜか男の子のような格好だった
髪の毛も帽子に上手く隠してくれたみたい
変装…かな?
荷物を用意する
といっても杏はここに持ってきているものはなく
キヨさんが用意してくれた編み物セットだけど
『用意できた?』
襖の向こうから五十嵐さんが言った
『はい!
キヨさんありがとうございました!』
杏はキヨに頭を下げた
『そんな事せんで。私も楽しませてもらったんよ。
またいつでも遊びに来んさいな。』
優しく笑って頭を撫でてくれた
また会いたいな。
キヨさんありがとう
『ささ、杏ちゃん急いで!』
部屋から出るとすぐに
五十嵐さんに手を引かれ早足で廊下を歩く
曲がり角で一度止まると
『いいかい。誰に話しかけられても顔を上げずに
何も喋らないで。俺がどうにかするからね。』
コクコクと声を出さずに頷くと
『いい子だ』と言って頭を撫でられた
ちょっと子供扱い過ぎませんか??
そこから少し狭い道や庭のような所
扉や襖を何度か通り抜ける
途中2人に声をかけられたけれど下を見ていたので
誰かはわからないが
五十嵐さんの信頼は厚いようで
特に止められたりする事もなく進めた
何個目かの扉を通り抜けると車の前に出た
『さぁ乗って』
杏の後に続いて五十嵐さんが乗ると車はすぐに発進した
『とりあえず家からは抜け出せたね。朝早くに急がせてしまったね。ごめんね』
『いえ、あの私のためにありがとうございます』
『俺が言い出した事だから気にしないで』
五十嵐さんは笑って杏の頭を撫でた
なんか照れるな
車は30分ほど走り駐車場に停まった…のだけど
ここって…空港…だよね?
『創哉様。早急にとの事でしたので出発まであまり時間がありません、少しお急ぎいただいてもよろしいでしょうか。』
『ああ。杏ちゃん、ごめんね。飛行機に乗っちゃえばあとはゆっくりできると思うから、もう少し頑張って。』
や、やっぱり飛行機に乗るんですね…
こ、国内ですよね?
海外は断ったはずだし、パスポートも持ってないし。
杏はハラハラしながら『はい…』と
答えるのが精一杯だった
飛行機には運転手さんも一緒に乗った
乗り込んですぐに飛行機が動き出したので本当に
ギリギリだったみたい
『杏ちゃん。こっちは巻。しばらく一緒に行動するから、よろしくね。』
五十嵐さんが運転手さんを紹介してくれた
『よろしくお願い致します。』
巻さんが丁寧にお辞儀をしながら言った
『こちらこそ、よろしくお願いします』
杏も慌てて頭を下げた
『ははは。しばらくは一緒にいるんだから2人ともそんなに固くなってたら疲れちゃうよ?』
五十嵐さんは笑いながら巻さんの肩を叩いていたが
巻さんはピクリとも動かずに座っていた
ちなみに座席は小さな個室のようになっていて
ここの部屋には8人程座れるようだ
杏の向かい側に五十嵐さんと巻さんが座っている
綺麗なキャビンアテンダントさんが
乗り込んですぐに
コートや荷物を受け取ってくれて
飲み物も用意してくれた
これってもしかしてファーストクラスってやつなのかな?
乗った事ないからわからないけど…
初めてではないが普段乗らない飛行機に乗って
なんだかソワソワしてしまう
『あの…五十嵐さん』
『あ、杏ちゃん。俺のことはこれから名前で呼んでくれる?』
『名前でですか?』
『そうそう、俺の名前忘れちゃった?』
『あ、いえ…創哉さんですよね?』
本当は忘れていたけどさっき巻さんが創哉様と言っているのを聞いて、あぁ、創哉さんと言うのか…と思ってたので答えられた。あはは。
『当たり!これからよろしくね。』
あ、なんか今の感じ森川さんに似てるな
『わかりました。それで創哉さん。
あの…今どこに向かってるんですか?』
『ん?ちょっとそこまで?』
創哉さんはとても楽しそうに笑った
『まぁまぁ着いてからのお楽しみにしようよ!
その方が楽しいでしょ?』
んー?
楽しそうなのは創哉さんでは?
杏は何がなんだかわからないまま
もう答えてくれそうにはないのであきらめて
窓の外を眺めた




