真実
高校は三階建だ。エレベーターを使えば屋上などあっという間だ。
「夏郷だったか。名前で呼ばなければ駄目か?」
思えば異世界に来てから十年経つのか。最初は怖かったな。
「なんか、いつもの“はや”ちゃんじゃない!」
幼稚園からの友達から言われたときは訳が分からなかった。
「あれ? 破耶、こんな服着たっけ?」
いつも着ていた服を見て、母が言ってきたときも訳が分からなかった。
「破耶が好きな料理を作ったから!」
わたしの嫌いな料理だけが出たときに確信した。
違う世界に居るのだと。
「……おーい破耶、聞いてた?」
「す、すまん! 物思いにふけっていた」
「大丈夫?」
「うむ。問題ないのだ」
やはり、夏郷と会った記憶は無い。
「俺のことは好きに呼べばいいよ」
「わかった。では行くぞ、貴様」
「うん」
目の前に風景が浮かぶ。
「俺の高校と景色も一緒だ」
「景色を眺めに来たわけではないぞ」
破耶が辺りを見回す。
「装置なんか無さそうだな」
「そんなハズはないのだ」
「ねえ。バリア発生機のことは誰から聞いたの?」
さっきから気になっていた。四人しか知らないことを誰から聞いたのかを。破耶を含めて四人でも、そのうち二人は屋上から飛び降りたらしいし、そもそも扉が開かない空間をどうやって行き来していたのか。
「校長だ。校長が、わたしを含めた三人に伝えてきたのだ」
「なんで三人だけに」
「わたしを含めた三人は生徒会に入っていた」
「生徒会?」
「十人居る生徒会役員の中でも、とりわけ口が固かった三人にだけ伝えられた」
「じゃあ知ってたのかい!? どんな物かを!」
「校長は、害虫から生徒を守るための機械だと。だがその頃から、強制時間が導入された」
「強制時間?」
「校長の絶対命令だ。その気になれば生徒を永遠に
閉じ込められる」
「どういうこと?」
「貴様も嫌というほど経験しただろう? 密室なのだ」
「いくらなんでも!?」
「そして、半年ほど前から生徒が行方不明になった……校長もな。校長が居なくなってから電話も繋がらず、さらに教師たちも見なくなった。不審に思った生徒会の二人が屋上へ行ったきり戻らず、二人が飛び降りたと言った目撃者も居なくなった」
「じゃあ」
「わたしが、発生機がバリアを発生させていると確証を持ったのは、わたしが最後の一人になったあとだったなのだ」
俺が来るまで破耶は独りで。
「拳銃は排気口から唯一入れた校長室で手に入れた」
「ほかの場所は?」
「試したが駄目だったのだ。校長室と貴様が居た出入口を行き来するのが精一杯だった」
破耶が後悔を口にするかのように語った。
「早く壊して終わりにしよう」
「うむ」
夏郷が来なければ、わたしはどうしていたか。
「生徒は屋上に行ってはいけないと言った筈だがな。まさか君までとは」
渋い声が響き渡る。
「誰なのだ!」
破耶が拳銃を引き抜いた。
「物騒だ」
「あんたは校長!?」
「誰だね? 君は」
「一応、高校の生徒だけど」
「知らんな」
校長は全ての生徒を記憶してるのが自慢の人だ。その校長が知らないということは、やはり異世界に夏郷は居ないのか。
「校長! なぜ真実を伝えてくれなかったのだ!」
「気づいたのか。やはり賢いな、生徒会長は」
「否定しないのか!」
「くだらない」
「なんだと!」
破耶の眼に怒りが宿っている。
「言ってしまったら計画が台無しになる」
「計画!? なんだそれは!」
「この高校は開校から十年になる。だが少子化で生徒数が減ってきている」
「だからなんだよ」
「それだと困るんだよ、私の懐がね 」
「懐?」
「学校を存続するには生徒が必要だ。だが、入学者が減少してきており存続が危ぶまれた」
「だからなんなんだよ!」
「だから考えた。全て消せばいいと。生徒が消えれば教室に空きが出来、騒ぎ出した校外の大人を消せば騒ぎが消え、真実を知らない者たちが再びやって来る」
「少子化で入学者数が減っている事実は変わらないんだぞ!」
「校長のやったことは意味が不明すぎるのだ!」
「じゃあ、何故、君は高校に?」
破耶の顔が強ばった。
「どうしたんだ、破耶!」
「………三年前、県内の高校が次々と廃校になった。理由は知らないが」
「理由は簡単だ。次々と各高校で生徒や教師が行方不明になった。れで厄払いのために廃校になっていった」
「まさか!?」
俺の背筋が凍る。
「……校長が赴任してきたのは二年前なのだ」
破耶の言葉で全てを理解した。
「この高校に来る人数を集中させるために、ほかの高校を廃校にするために行方不明……いや、殺したのか!」
「ご明察だよ坊主」
「この高校の生徒や教師や関係者を殺したのも集中する入学者を受け入れるためか!」
「連続正解だ。坊主」
「金のためか!!」
感情が抑えきれなかった。
「不正解」
瞬間、俺は壁に叩きつけられた。
「正解は、地位と名誉と金のためだ」
校長が俺の首に手を掛ける。
「夏郷!」
銃声が辺りに響いた。
「そんな!?」
わたしは初めてみた。人間の身体が拳銃の弾を弾く瞬間を。
「馬鹿な女だ」
「自分の身体を改造しただと!!」
「彼等には感謝している。お陰でバリア発生機とオレの身体の改造が無事に出来たのだからな」
俺は身体を投げられた。
「夏郷!」
「……聞いてないよ。人間じゃないなんて」
「全てを知られた以上、生かしとく訳にはいかないな」
「頭を狙えば!」
破耶が拳銃を構える。
「フン!」
破耶の拳銃が……斬られた!?
「さよならだ」
「殺される!?」
そう思った瞬間、わたしの身体が勝手に動く。
「えっ」
《あなたは死んではいけないの》
頭の中で声がする。
「誰、なのだ!?」
わたしの声がする。
「著細かと!」
校長の攻撃を破耶が受け流す。
「調子に乗りやがって!」
わたしの身体が、校長の拳を受け止めた。
「え!?」
俺の身体が勝手に動く。
《君は生きるんだ。自分の世界で》
俺の声!?
俺の身体が、屋上の端まで校長を追い詰めた。
「撃ち殺す!」
校長が拳銃を取り出した。とっさに俺の身体は反応する。
「させないよ!」
俺の身体は、校長の拳銃を奪うと、そのまま校長の喉を撃ち抜いた。
「ご……の……」
校長が最後の力を振り絞り、俺の身体と破耶と一緒に飛び降りた。
《君らは生きろ!》
《十年間、わたしの身体をありがとう》
(……破耶……)
視界が真っ暗になる。
(……夏郷……)
音も聞こえないのだ。
三人は、地面に叩きつけられた。




